第3話 三角関係

 クラスでも、中学時代とさして変わらぬ扱いを受けた。女子からは「アリスくん」男子からは「アリス」と呼ばれた。

 クラスメイトに剣道部に入っている新庄不知火という男子生徒がいた。クラスで一番背が高く、凛々しい顔つきの男子。質実剛健といったタイプ。女の子からの人気も高い。その不知火が、アリスをじっと見ていることが多い。

 昼休み、アリスはマリモと一緒に弁当を食べていた。不知火がやってきて「おれも一緒にいいか」と言った。

「邪魔、邪魔」マリモは手を振って追い払おうとした。

「おまえには聞いていない」

「なんだとぉ、新庄てめーっ」

 マリモは立ち上がり、不知火を睨みつけた。不知火は少しも慌てず、睨み返す。

「おれは有栖川と飯を食いたいと思ったんだ。おまえじゃない」

 珍しく有栖川と言われて、アリスは嬉しくなった。

「け、けんかしないで、一緒に食べようよ」と言った。

 三人は昼食を共にした。一緒にいいかと言った割には、不知火は無口だった。ときどきじっとアリスを見つめる。

「アリス、と呼んでいいか」と言った。

 やっぱりそうなるのか。アリスはがっかりした。

「できれば有栖川と呼んでほしいんだけど・・・」

「アリスの方がいい」

 そう言われると、断ることができないのがアリスだった。

「おまえ、キモいんだけど。アリスが好きなんじゃねーのか」マリモが警戒心を露わにして言った。

 不知火は無言。肯定しているようなものだった。

「けっ、アリスはオレの彼女だからな。邪魔すんなよ」

「中川は照れ屋なのか?」

「はぁ? おまえ、何言ってんの?」

「なぜ彼氏と言えない? アリスは男だろう?」

「ばっ、バーカ。変なこと言うな」

 マリモの顔は真っ赤になっていた。

「おまえら、付き合ってるわけじゃないんだな」

「くっ・・・」絶句するマリモ。

「うん、そんなんじゃないよ」とアリス。それを聞いてなんとも悔しそうな顔になるマリモ。   

 不知火は馬鹿にしたようにマリモを見た。

 それからもたびたび、彼はアリスとマリモの昼食に割って入った。たまにアリスの肩を抱いたりするようにもなった。アリスは戸惑った。不知火とどのように接したらいいのかわからない。マリモと同じように、不知火もアリスにとって微妙な存在となった。嫌いではないが、ちょっと怖くもある。あまり近づきすぎてほしくないが、拒否することもできない。

 美術部から遠ざかり、クラスでもどう振る舞ったらいいのかわからない。相変わらず自分に自信がない。高校生になっても、そんな毎日が続いた。そんな自分にため息が出る。しっかりした自分というものが持てない。マリモにからかわれても、言い返せない。不知火に手を握られたりして、やめてくれと言いたくても言えない。アリスは自己嫌悪に陥ってしまった。

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