第2話 幽霊部員
ふたりは一緒にいる時間が長い。休み時間とか。放課後も、マリモがアリスをファストフード店などに引っ張っていくことが多い。一方的にマリモがアリスにつきまとっているだけなのだが、気の弱いアリスは拒否することができない。
「おまえら、付き合ってんの?」と言われることもある。
「ああ、こいつ、オレの彼女」とマリモはいたずらっぽく笑って答える。アリスは困ってごにょごにょと「ちがうよ・・・」とか言う。
実は、アリスはモテる。綺麗な顔をしているので、女の子がじっと熱い視線で見ていることがある。頼りない感じだし、いつもマリモが近くにいるので、告られたりすることはあまりないが、アリスを庇護したいと思う女の子は少なくないようだ。とにかく可愛くって仕方がない男の子、アリス。
男からも見られている。クラスでナンバーワンの美人はマリモだったりするが、そのマリモより美しいのがアリス。誰よりも美少女的な美少年アリス。男子も彼を見ずにはいられない。そんな視線に戸惑いながら三年間生きた。それがアリスの中学時代。
高校生になって、変わりたいと思っていた。だが、出鼻をくじかれた。中川マリモがまた同じクラスにいた。アリスは顔面蒼白になり、マリモは心底嬉しそうに、にまぁと笑った。
またまとわりつかれた。
「アリス、部活やるのか?」
「美術部に、入ろうかと思って・・・」
アリスは絵を描くのが好きだ。ペインティングソフトを使って、パソコンで絵を描くのが趣味。将来はライトノベルのイラストを描くのが夢。誰にも言ったことはないが。
「美術か。オレは絵なんか描けねーわ」
「マリモちゃんはソフトボールでしょ」
「別にソフトじゃなくてもいい。おまえと同じ部活に入ろーかとか思ってたんだよ。でも美術とかムリだわ」
アリスはほっとした。部活までマリモと同じとか、恐怖でしかない。
結局、マリモはソフトボール部に入り、アリスは美術部員になった。しかし、美術部は彼にとって、居心地のいい場所とはならなかった。アリスは美しすぎる男の子として、好奇の目にさらされた。
「ねぇアリスくん、モデルやってくれない?」と先輩から頼まれた。
戸惑った。アリスはモデルをやりたいのではなく、絵を描きたいのだ。でも気が弱いので断れず、仕方なくモデルをやった。
美術室でさまざまなポーズをとらされた。女子部員も男子部員も食い入るようにアリスを凝視し、デッサンした。その視線は怖いほどだった。アリスの可愛い顔、柔らかな髪、ほっそりした胸、すらりとした腕、長くて細い指、なめらかな脚の曲線、それらのすべてが熱っぽい視線で見つめられた。アリスは冷や汗をかいた。すごく嫌だった。こんなの一回だけだから、と思った。
しかし、そうはならなかった。
「また頼むわね」と部長から言われた。
美術部から足が遠のいた。気弱なので、やめるとは言えない。幽霊部員になってしまった。
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