第11話 友達とデート1

 「芦名ー? 今日ひまだよな?」


 「急になに??




 いつもの調子で寮の部屋のドアを軽々しく開けてくる掛谷に僕は驚きが薄くなってきている。




 「いやさ、たまにはかわいいことデートしたい気分があるじゃん?」


 「他をあたってください」


 「他をあたったうえでのここなんだよ!!」




 掛谷はここ数日、女の子とあればすぐに声をかけていき、そしてはかなく散っている。


 初めはかなり好印象を受けて遊ぼうとする女子もいたけれど、次第に彼の悪評は伝播していった。


 もう彼のことをごみを見るような目で見る女子しかいないほどに……




 ふつうにしてればかっこいい見た目なんだけどな。


 掛谷かける。赤色の髪に、身長もいづきと同じくらいの175㎝。ピアスを片耳だけ開けてかなり高圧的な印象を受けるが、話してみれば気さくな人だし、モテそうだよね。──ここまでなら……


 あと、そういえば自分のチャームポイントはこの笑った時に見える八重歯だぜ! とか言ってたっけ?


 


 「なー頼むよー? どうせ暇なんだろー?」




 確かに暇ですけど。


 まだ、学内に友達といえる友達はこの寮のメンバーしかいないから。


 男子はみんな僕と話してるとなんかよそよそしいし、女子は女子でなぜか敵対視してるような冷酷さを感じている。




 「あっ! そういえば前おいしいスイーツおごる約束したよな。それを今から行こう!」


 「そういうことなら行くけど、これはデートとは言わないからね」


 「デートじゃなくてもいいよ。芦名と遊べるんなら別になんでもさ」




 先日、僕の中学の頃の写真(女装)の争奪戦の勝者がかけるだった。


 かけると遊びに行くのは少し抵抗(いやなことが起こる予感)があったけど、おいしいスイーツには抗えない。




 「俺、一応寮に住んでるけど、ここ周辺も遊びに来てたから有名なところは知ってるぜ!」




 僕はこの学校の近くの出身じゃないからその申し出はありがたい。




 スイーツのことを考えると自然と笑みがこぼれてくる。




 「じゃあ、13時に集合場所はオレンジタウンのどこにしようかなー?」


 「いや、そもそもオレンジタウンってどこ? それといっしょにいかないの?」


 「デートは待ち合わせするのが普通だろ?」


 「だからデートじゃないって!」




 わりーと無邪気な笑みで謝罪しているが、反省してる気は多分ないよ。


 でも、買い物に出かけたことは何回かあるけど、遊びに行くというのは初めてなので、相手がかけるとでもやっぱり楽しみだ。




 僕たちは昼過ぎに寮を出て、オレンジタウンに向かう。


 オレンジタウンはショッピングモールで中にお勧めのスイーツがあるらしい。


 到着するまでに20分くらいだった。


 途中で昼食も済ませてきた。




 「ついたが、昼飯食べた後にすぐにスイーツってのより少し時間つぶしてくか」


 「僕は甘いものならいくらでも入るけどね」




 僕は腹を擦りながら、スイーツのことを想像し、気分を上げる。




 「女子は甘いものは別腹っていうけど、本当なのか?」


 「いや尋ねる相手間違えてるけど、僕は別腹だと思うよ。なんでだろう?」




 質問先が僕という男に向いてるのがおかしい。


 だけど、そこら辺の女性に話しかけて、『甘いものは別腹ですか?』っていうナンパ文句もいやだな。


 あと、僕も質問?を質問で返したけど、たぶんかけるに答えを求めるのは酷な話だろう。




 「ま、なんでもいいや。じゃあ時間つぶしに服でも見に行くか?」


 「そーだね……」




 ただ、そのとき僕は自分への違和感に気づく。


 違和感といっても、そんな深刻なことではない。ただの尿意だ。


 だけど寮に来てからといい、僕のトイレ事情は深刻な問題となっているらしい。(僕は正直どうでもよくて聞く耳を持っていない)




 「ごめん、その前にトイレに行ってきていい?」


 「あー行ってこい。ただ、絶対に個室に入れよ! 絶対に見られたら騒動になるから。──心配だったら俺もついていこうか?」


 「子どもじゃないんだし、いらないよ! というか、掛谷君来る方が一番怖いんだから」




 ちゃんとついてこないでとくぎを刺した後に、少し離れた場所のトイレに向かう。


 


 残ったかけるは壁にもたれ、あおいの帰りを待ちながら携帯をいじる。


 かけるのホーム画面はあおいの女装の写真。どこに行っても彼は肌身離さずこの写真を持っている。


 変態である。




 「お、かけるじゃん! 久しぶりだなー」




 かけるがあおいの写真に夢中になっていると。横から茶髪の男性が話しかけてくる。


 急に話しかけられてびっくりするが、すぐに見知った人物とわかり返答する。




 「かっちゃん!! 久しぶりって言っても、2週間前に会ったし、メッセージは送ってるからあんまり久しぶり感はないな」


 「確かに。高校違うって言っても、まだ中学卒業してすぐだしな。なんか変な感じだな?」




 二人は笑いあう、少し最近の学校での話などしていると、ある種の定番の話に向かう。




 「俺さ、男子校だから女子と遊ぶ機会なくてさ、かけるはどんな感じ?」


 「俺は、そうだなー……」




 そういってかける自身のことを話そうとしたとき、かっちゃん──かつやはかけるのスマホを覗く。


 そして映っていたのは、制服姿の美少女だった。




 「おい! このホーム画面の子誰だよ? ちょーかわいいじゃん!」


 「あー、あおいのこと? かわいいだろ! 今日、一緒に遊ぶんだぜ」


 「うわ! かけるの方が一歩先かよ! で、この子とどんな感じなの?」


 「そりゃ、もう付き合ってるに決まってんじゃん!!」




 おー!! とかつやが感心している間にかけるはというと、ただただ冷や汗をかいているだけだった。






 同時刻、トイレ。




 かけるにいわれたとおり、個室の方に向かう。


 入り口近くで男性に会うが、会釈をして横を通り過ぎる。


 えっ! という声は聞かなかったことにして個室に入り用を足す。




 そこでチャットアプリの通知に気づく。




 かける


 たのむ! 彼女のふりしてくれ! 彼女になってくれてもいい!




 あおい


 話が唐突すぎて意味が分からないけど、絶対に嫌だ。




 かける


 中学の友達に彼女できたって言っちゃった。俺の尊厳のために頼むよ。


 スイーツおごるのと一緒にお持ち帰りもつけるからさ。




 お持ち帰りのスイーツまでついてくる。


 彼女のふりとか絶対に嫌だけど甘いもののためならと考えが揺らぐ。


 あと、尊厳のためとか書いてあるけど、そんなものあなたにないでしょ。




 あおい


 わかったよ。スイーツのためにだからね。


 だけど、服とか女の子っぽくないけど大丈夫?




 僕は今、黒のスラックスに上は水色のパーカーだ。


 彼氏と遊ぶ服装には少し見えなさそーだけど。




 かける


 それは、大丈夫。 あおいはトイレで待ってればいいよ。


 じゃ、合流した時はうまく頼むな。




 トイレで待ってればいいって、どういうことなんだろう?


 僕は一応個室からでて、手洗い場の方に向かう。


 考え事をしながら手を洗う。


 洗い終えて、正面にある鏡を見ると、僕の後ろにひとが映っていた。


 そして、僕の肩に手を置く。




 なにこのホラー展開?


 さすがにこの怖さに体がすくむ。・




 ただ、怖い中でもよく見てみると、そこには見知った姿があった。




 「なんでレオン君がここにいるの?」


 「はぁ、はぁ、カケルに助っ人頼まれたんだよ」




 急いできたのか、肩で息をしている金髪イケメンのレオンが後ろにいた。


 助っ人っていっても、連絡来てから数分しかたってない。僕たちがここに来た時間は20分だ。


 ──不思議だね。




 「服とかメイクとかいろいろと頼まれたからさ。前言った通り、女装の時はオレをたよれっての覚えてる? 早くてうれしいよ」


 「僕はないことを願ってたんだけど、まさかこんなに早く来るとはね……」


 「よし、話すのはここまでにして早く準備しないと」




 そういって手をつかまれてさっきまで入っていたトイレの個室に連れて行かれる。




 「え、これ着るの?」「下着まで変える必要ないよね?」などの声がトイレに響く。


 その高い声にトイレの使用者は何とも言えない背徳感を抱いてしまったらしい。


後書き編集

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かわいすぎる兄とストーカー妹 やなぎ かいき @kaiki1414

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