第10話 ハーフとナルシスト
「今日あいつ返ってくるってよっ!」
急に僕らの部屋の扉を開け、掛谷が入ってくる。
この展開前もあったなー。
ろくなこと起きないんだよな。
「あいつって、誰の事??」
勢いだけの男は置いといて、いづきにだれのことなのかを尋ねる。
「あー、そっかレオンと会うの初めてか」
「あいつは、芦名が入寮するのと入れ違いで帰ってたからな」
レオン。この話は一度、聞いたことある。
なんでも、海外にいる祖父が倒れたから、そのお見舞いで入学式があるにもかかわらず海外に行ったとかなんとか。
ハーフで、かっこいいとは聞いてるけど、そういえば写真で顔見せてもらったことないなー。
どんな人なんだろう?
「あいつマジでいいやつだから。芦名もすぐ仲良くなれるさ。なんたって、俺とあいつは似てるとこあるからな!!」
「その情報聞くと、急に会いたくなくなったなー」
「会えばわかるぜ。芦名にとってすげー参考になると思う」
参考になるって、何だろう?
もしかして、初日のお風呂の話のことかな?
でも、見ちゃうといづきがしおりに……
そんな時、もう一度、勢いよくドアが開かれる。
意外とこれ心臓に負担係るんだよなー。
「なになに? オレの話かな? 悪くはない、存分に褒めたたえよ!!」
「レオ!! このやろー、返ってくるのおせーぞ!」
掛谷がレオンに抱き着いて髪をかきむしる。
身長は掛谷に比べると低い、いや、男子の平均より低い。女子だったらちょっと高いくらいか。
金髪で髪は僕と同じくらいの長さで、前髪を編み込んでいる。
顔は中性的だが、僕とは違って男とわかる。
もしかして掛谷の参考になるって容姿のことなのかな?
しばらく部屋の入り口で、掛谷といづきに祖父が無事なことや、お土産を渡して談笑している。
それがひと段落つくと、それを黙ってみていた僕のもとによって来る。
「キミだよね。グループチャットで話題のアオイちゃんって?」
レオンはグループチャットに挙げられっていた僕のさるぐつわされた写真を見せてくる。
それ今すぐ消去してくれませんか? ついでに掛谷も……
「そうですけど……」
「やっぱカワイイね。写真よりも断然カワイイ」
何、この人も僕が女の子って思ってるタイプか?
いや、でもグループチャットの名前、白桜寮男子一年だからわかってくれてるよね?
あと、面と向かって真剣に可愛いって言われると、流石に照れる。
彼は、スマホの画面を僕に見せた後、その画像を見返し笑っている。
その笑顔は、無邪気で子供っぽい。
「ちょっと笑わないでよー」
「ゴメンゴメン。さすがにこれは面白すぎるよ」
「だろ!? これ面白いけど、この反抗的な目が涙にぬれてるのがかわいんだよー」
掛谷がケラケラと笑いながら話に入ってくる。
笑い事じゃなく、本当に怖い目にあったんだからー。
「おいカケル! 俺は面白いとは言ったが、これはカワイイとはいってねーぞ」
レオンは、掛谷にひとにらみ入れると、ポケットから何かを取り出して僕に近づく。
それを前髪をいじってつける。
「カワイイっていうのは、こういうのだ。そもそもさるぐつわってのがカワイクねーよ」
レオンが僕につけてくれたのは、水色と藍色のヘアピンだった。
僕の茶色の髪には少し浮いてる色かと鏡で確認するが、普通に似合ってた。
「よし、カンペキ! 写真で見た時からおでこ見せた方が似合うと思ってたんだけど、違和感ないね!」
「ほんとだな。でもこれどこかで見たことあるぞ? どこだっけな?」
「そういえば、オレも見たなー。ちょうどさっき寮の前でアオイちゃんに似た人見たけど、もしかしてドッペルゲンガー??」
──いや、それ絶対しおりだ。
僕と同じことに気づいたいづきは窓の外を見るが特段変わったものがなかったのか、一安心している。
僕も中学のころはしおりと同じようにヘアピンをつけてた。
だけど、しおりに似てるね。って言われるのがどうしても兄として情けなくてヘアピンをつけなくなったんだけど……
僕はヘアピンを外して、レオンに返そうとする。
「僕には要らないよ。別にかわいくなったところでいいことないから……」
「何言ってんだ!? キミのために買ってきたものを返されても、君に渡す以外の使い方が見つからないよ。 それにかわいいってのは、人を幸せにする。それだけで十分さ」
この人ずっと恥ずかしいことまじめに言ってるなー。
掛谷は、この心が参考になるって思ってたのかな?
確かにいいことかもしれない。
だけど、僕はかっこいい男になるって決めてる。
でも、真にかっこいい人はこういうことを言える人なんだろうな。
「キミはオレが負けを認めた数少ない一人だ! ナカヨクしような!」
「え!? 負けってなに??」
「あれ?? 芦名見てないの? 寮のグループチャットのアイコン」
僕は急いで、アイコンをチェックする。
そういえば、このグループチャットのアイコン、なぜか男子寮だっていうのに女性なんだ。
この女性は髪は僕と同じくらいの長さで金髪で、顔は少し日本人ぽくなく、体格はちょうどレオンに似てるかも?
「このアイコンの人がどうしたの? かわいい人だけどさ」
「オイオイ、かわいいなんて照れるなー」
「──これ、レオが女装してる写真。俺もさすがにビビったなー」
そして、照れたといってるレオンは僕にいろいろな女装した写真を見せてくる。
もしかして、参考になるってこういうことか。
僕はこういうのには興味はないって言ってるのに!!
僕が写真見せられてる間に、掛谷は見覚えのある写真を取り出す。
「見てくれよレオ! これは素質あると思わねーか?」
「これはスゴイ! この恥じらいはオレには無理だ!!」
また、僕の女装した写真だろ。
なんでいつもそれ持ち歩いてるんだよ。
素質はないよ。だってやる気ないもん。
でもこの人に否定すると、かっこいいこと言われて自分の価値観ひっくり返されそうだからやめておこう。
「レオン君?」
「あーそういえば自己紹介まだだっけ。オレは歴堂レオン! 上の名前だと、似合わないからさっきの呼び方で頼む!」
「わかったよ。なら、僕のことも下で呼んでよ。ちゃん付けはやめてね」
「──なら、アオで!」
無邪気に僕の名前呼ばれるとさすがに照れるなー。
隣で、なんで俺だけ名前呼び許してくれないんだよ、と文句を言ってる人は無視しよう。
この人に下の名前で呼ばれると下心ありそうでなんか嫌だ。
「──ところでさ、レオン君は何で女装してるの?」
「んー、女装しなくてもオレはかっこいいからモテる。だけど、女装したらもっとモテるだろ? だって母数が二倍だ! そっちのが面白いだろ?」
レオンは女装した写真を自分の顔の横にあて、どっちもいけてるだろと言わんばかりに見せてくる。
子供がほめてほしそうにしてる様に見えて、自然と笑いがこみあげてくる。
ナルシストって言葉が彼には似合うんだろうけど、なぜかに鼻につかない。
それが彼の魅力なのかな?
「アオ! 女装したいときはいつでもオレを呼べよ? この写真もカワイイけど、キミの全力はこんなものじゃないだろう?」
「いや、することは罰ゲーム以外にないし、そのピンチだけは絶対に避けるよ! あと、全力も何も妹にメイクも服もされるがままだったから」
「その妹はまだまだだな。オレならこの十倍はアオをかわいくする自信ある! だから、今から体の隅々までチェックだー!」
そういって、僕にメジャーを持って飛びついてくる。
それに乗じて駆け寄ってこようとしてる掛谷はいづきが足を引っかけてこかせている。
レオンは変態とかではないが、変人なのは確かだ。
いい人なだけに、もったいないよ……
いづきは掛谷を対処した後、スマホに通知が来てないか確認する。
すると、チャットアプリに追加した覚えのない人から通知が届いていた。
しおり
その人、私のどこがまだまだなの? そいつの身分情報を渡しなさい。報いを受けさせる。
いづき
さすがにそれは…… でもレオンは本当にメイクとか上手だからさ。
しおり
ふーん。ま、確かに私、人にメイクとかしたことなかったから。
じゃ、もしあお兄が女装したら写真撮っておくりなさい。
いづき
それはいいけど、なんで君、僕の連絡先しってんの?
それ以降の返信は返ってこなかった。
(この人、僕の連絡先もだけど、この会話聞こえってるってことは盗聴器あるの?)
いづきは部屋を見渡すがそれらしきものは見つからない。
でも、見つけてもどうすることもできないことは明らかだった。
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