第7話 写真とお宝
「なー。芦名君って新入生代表あいさつで話した子と、親戚だったりする?」
「あー、妹だよ。僕ら双子だから」
入学式が終わり、会場から自分の教室に到着した時、名前も知らないクラスメイトの男子が話しかけてきた。
僕の妹、芦名しおり。
文武両道。才色兼備。眉目秀麗。
数々の言葉が彼女のために作られた言葉だといわれる程の美少女。
あまり笑わずそのクールさにファンができていたという。
ただ、そんな彼女も部活が終わった後に時折笑顔を見せていたらしい。
その心の底からあふれた笑顔に何人の心が奪われたのだろう。
その笑顔は部活への充実感からくるものだと思われていたが、今ならわかる。
それは彼女のストーカーという行為への気持ちの表れだったのだろう。
考えを巡らせてると、怖さで背筋に悪寒が走る。
そんな僕の後ろの席に座って人から話しかけられる。
「あおい。本当にあの屋根の上でのぞいてたのって妹だったんだな」
「うそ、だったらよかったんだけどね……」
あの光景を思い浮かべたいづきは、今までのしおりとのやり取りを思い出し、震えている。
僕も同じ気持ちだよ。
妹との思い出、いいものもあるけど大半はトラウマ級のものばかりだ。
女装させられて、撮影会やらされた時なんてもう……
僕たちは長い溜息をつく。
そんな憂鬱な雰囲気を振り切るような、騒がしさが僕らを襲う。
「芦名!! お前の妹、めちゃくちゃかわいいじゃねーか!!」
いかにも、エロい目で見てそうな掛谷が僕らの会話に入る。
ちょっとうちの妹を変な目で見ないでもらえるという、冷たい視線を送るがそんなのお構いなしだ。
「まー、しおりちゃんもかわいいが、芦名も負けてないぞ。正直、お前のがタイプだったりする」
ちょっと言葉が出ない。
そのちゃん付けもやめてほしいし、僕をそんな目見てる人とはかかわり持ちたくないんだけど。
「それは俺もわかる。ちょっと完璧主義者っぽくて関わりにくそうだよな」
「そんな冷たい子じゃないよ。案外よく笑うし」
三人でしおりトークには花を咲かせてると、周りの視線が僕らに集まってるのを感じる。
みんなしおりのことが気になってるのか?
それとも、この見た目かっこいい二人に向けてる視線なのかわからないが、早く仲良くなりたいから話しかけてほしいんだけどな。
と、考えてるとき、ふと教室の後ろの出入り口の方から話しかけられる。
「芦名君。呼ばれてるよー」
この人も名前も知らない女子だ。ちょっとうわづった声で呼ばれる。
緊張してるのかな。
僕は、自然に返事をしたつもりだったが、自分も同じようになってしまった。
お互い様だなー。と苦笑いをしながら席を立つ。
すると今まで僕らに集まっていた視線が急に僕の進行方向に集まる。
それも当然だ。
一年生の中で、今のところ全校生徒に名前を知られている唯一の人物がいた。
「あお兄ー!」
そこには15年間一緒に暮らした忘れるはずもない顔がある。
「しお!」
自分の妹だ。
ただ、出会いの驚きよりももっと言いたいことがある、
「なんでしおが、この学校にいるの!? 地元の進学校に行くっていってたじゃん」
「あお兄を驚かせたくて黙ってたんだよ」
それを屈託のない笑顔で、可愛らしく応える。
自分の妹ながら、やっぱりかわいいな。
クラスの男子がその笑顔に、今にも天に召しそうになってるよ。
「怒ってる?」
そんな困り顔しないでください。
僕が悪者になっちゃうよ。
さすがに初日からクラスメイトを敵に回したくないよ。
「怒ってないよ。ただ驚いただけ。僕は一応、お兄ちゃんなんだし言ってよ」
「別に歳変わらないんだし、こういうときだけお兄ちゃん面しないでくださいー」
なんか今日のしおりの表情が豊富だなーと、感じる。
今までいつも一緒だった分、さみしかったのかな?
あまり攻めるのはやめとこうか。
「そうだ。あお兄、家族写真とか持ってきてないでしょ!」
「うん。だってスマホで十分でしょ」
「だめだめ! こういうのは形が大事なんだよー」
何か楽しそうに、どこだっけと自分のカバンを探る。
こういう顔をするときは大抵、いい方向にはいかないんだよなー。
でも今日は久しぶりってことで、目をつぶろう。
「あったあった。はいどーぞ。1つはお母さんセレクションで、こっちは私セレクション」
「──ありがと」
そういわれて渡された、ピンクの封筒と白の封筒。
ピンクがしおりで、白がお母さん。
てか、しおりが選んだのってちょっと怖いな。
「私は、そろそろ戻るね。クラスメイトとはちゃんと仲よくするんだよー」
しおりは僕の返事を待たずに、颯爽と教室を離れる。
これ、絶対中身確認した僕に怒られないために逃げたな。
悪い笑顔してるんだろーな。
でもその笑顔を思い浮かべるとちょっと自分も楽しくなる、
その笑顔を考えながら、席に戻ると浮ついた様子で掛谷が待っている。
「おいおい。聞こえたぞー。写真だってー。見せろ!!」
「俺も気になる! 見て大丈夫か?」
「別にいいよ。でも面白くないと思うよ。たぶん家族写真とか昔の写真とかだし」
そー言って、目につきやすいピンク色の封筒を掛谷に渡す。
その封筒の方が薄かったから、見やすそうだしね。
僕は席に戻ってカバンの中にもう一方の封筒をしまう。
その時周りの男子が俺も俺もと掛谷の周りに集まる。
しおりが最後に言ったクラスメイトと仲良くする。
これって話題提供してくれたのかな?
ほんと、みんなが言う通り完ぺきな妹だな。
俺は感心してると。僕の向かいに椅子を持ってきて座ってる掛谷の手元に視線が集まってる。
「みんな心の準備はいいか」
その掛け声に合わせて、男子たちはコクリと頷く。
君たちは何そんな真剣になってるんだ。
ただの家族写真だぞ。
掛谷は今までにない、真剣な面持ちで封筒から写真を取り出し、それをみんなに見やすいように掲げる。
その時、クラスの男子に電流が走って、動きが止まったように見えたのは僕だけなのだろうか。
ここで、僕はしおりの言葉を思い出す。
たしか、ピンクのはしおりセレクションだったけ。
そこで嫌な予感が走る。
そしてその嫌な予感が的中する。
「「「お宝だー!!!!!!!!」」」
その声は学校中に広がるかのような大声で。
そして、僕はちらりと掛谷の持ってる写真が見えてしまう。
僕の黒歴史中の黒歴史。
女装させられた時の写真だった。
やられた。
少しでも完璧な妹だと思った、僕を悔いる。
クラスメイトのボルテージは最高潮を迎える。
そして、掛谷は僕に真剣な相談を持ち掛ける。
「この写真を譲ってくれないか。お金は望まれた額出す。頼む!!」
何言ってんだこの人。男の女装の写真だぞ。
僕が蔑んだ言葉を掛谷にかけようと声を出そうとするが、それよりも大きい声たちに書き消される。
「掛谷ずるいぞ。俺はその額の倍は出す」
「なら、俺はその倍!」
「俺は──」
と、オークションかのように自分の写真の争奪戦だスタートする。
その姿に、このクラス大丈夫なのかと、あきれるよりも心配が出てくる。
でも、一番最初に話しかけてくれた男子とかは、君付けで呼んでくれてたから理解はあるんだろうけど。
その人も掛谷たちの輪に入り、写真を死に物狂いで得ようとしている。
「これじゃ、らちが明かねー。ここは芦名自身に決めてもらおう」
掛谷が収集がつかなくなった惨状に終止符を打つ。
そしてその言葉により、獣のような男子の目線が全部僕に集まる。
すごく怖いんだけど……
というか、僕一回もあげるとか言ってないけど。
でも、これあげないとか言った方がめんどくさくなりそうだなー。
特にこの事態の発端者が。
自分なりの考えをまとめる。
そして、僕にも得がありそうな提案をする。
「お金とか現金でもらっても気まずいだけだし、じゃんけんで勝った人が今度おいしいスイーツでも食べさせてくれたいいよ」
これだったら、じゃんけんですぐ決まるし、僕もおいしいもの食べれるし完ぺき!!
ただ、その言葉に一番喜んだのは、僕ではなくて争奪戦に参加してる男子たちだった。
クラスの男子は全員で目を見合わせて、自分たちの考えを共有させる。
『この写真を勝ち取れば、デートまでついてくる!!』
ここで、さっきの僕の写真の時よりも大きな声が上がる。
さすがに怒られるぞ!
そして血相を変えた男子たちが後ろの空いたスペースに移動し始める。
一人を除いて。
「いづき君はいかないなんだね」
「まー、別に興味がないわけではないけど。ほしいとかはないかな」
そういって、僕のカバンに目を向ける。
「どっちかというと、もう一個の写真の中身の方が気になる」
「あーこっち? 別にいいよ。お母さんが選んだらしいから、さっきみたいのはさすがに入ってないはず」
とは思ったが、子も子なら、親も親。
お母さんもちょっと変わってるからなーと不安になる。
だが、お母さんを信じて、さっき閉まった封筒を取り出しいづきに渡す。
変なの入ってませんように。
だが、その嫌な予感もまた的中する。
封筒の中身、写真の一枚目を見たいづきの顔が青ざめていくのを見る。
「なーあおい。これってもしかして……」
そういって写真を何枚か僕の方に見せてくる。
そこに移ってたのは。
下校中の僕。
歯磨き中の僕。
中学のクラスメイトの女子と話してる僕。
そして、その女子の顔は黒く塗りつぶされている。
「なー、これって妹のストーカの……」
「さすがに、これがお母さんセレクションなわけないよね……」
僕らはそれ以降の言葉を放つことはなかった。
後ろの男子たちとは真逆のテンション。
こんな温暖さがある教室が過去にあったのだろうか。
いづきは見なかったことにするように、封筒に写真をしまいなおす。
すると、教室の前の扉が開かれる。
そこからはしおりが入ってくる。
その表情はいつもの可愛らしい顔ではあるのだが、焦りが見える。
「ごめんごめん。お母さんの間違えてた」
そういっていづきの手の中にあった封筒を素早く取り上げ、同じような封筒を渡し、さっきよりも颯爽に教室を後にする。
だが、僕らはその渡された写真を見ようとしなかった。
もう、そんな気力は残っていなかった。
──」どうでもいいことだが、写真争奪戦は掛谷が勝者に輝いていた。
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