第6話 副会長とスカート

 僕たちが通う学校は寮から5分かからないほどの距離にある。




 私立 『白ヶ咲高校』




 部活が盛んでもないし、特に偏差値のいい学校ということもなく、地元やその周辺の人たちが通う学校となっている。


 そもそも寮生は少ない方だが、学生寮はいくつか点在し、一つの寮内に生徒はたくさんいない。




 これから僕が通う学校の生徒の一部の一部だ。




 「掲示板の前、人多いなー」


 「あれだけでも一年生だけなんだよね?」




 人の多さに感心するいづきとその群衆に恐怖している僕。




 在校生は僕たちより先に登校していて、新入生はクラスの確認をして案内を受けながら学校に入る。




 「さすがに人が多いし、待ってようかな?」




 自分で言うのもなんだが、体が小っちゃいし、こんな人ごみに入ると押しつぶされてしまいそうになる。


 ここは一時休止だ。




 おじいさんに止められてなければ、この事態を避けられてたのに。




 「しょーがないな。人が減るまで待つか」


 「またせるのは悪いよ。いづき君だけでも先行ってよ」


 「何言ってんだよ? 友達なんだし、一緒にまつよ」


 「気持ちはありがと。でも遅刻したくないし、いづき君だけで見てきてくれない。僕、あそこの石造の前で待ってるから」




 僕は校門から歩いてすぐの男性の石像を指さす。


 あそこなら今は人が少ないし、安心して待てそうだ。




 「わかった。なにかあったら大声で助けを求めるんだぞ」


 「いづき君は心配しすぎ。大丈夫だよ」




 あんたは僕の母さんか!?




 僕は笑顔で送り出すが、まだ不安そうな顔で看板の方に向かう。


 過保護すぎるところは、いいところなのか、悪いところなのか。


 でも善意だからこそ、少し断る時胸が痛む。




 石造の前に到着すると、もう一度自分の服装を正し息を整える。


 


 「やっぱり緊張するなー。知らない人ばかりだから怖い」




 まわりから声をかけてくれると助かるんだけどな。




 「そこの君!」




 そんな不安なことを考えていると、思った通りに話しかけられた。


 これは僕に対してだ。ここの周りには僕しかいないから。




 ただその声には焦りと、ちょっとしたイラつきを感じた。




 声の方を見ると、身長はいづきよりも少し高く、眼鏡をかけている、規律を重んじたいかにも真面目な男性がこちらに向かっていた。


 その腕には生徒会と書かれた腕章をつけている。


 その生徒会の男性は声の通り、難しい表情で近づいてくる。




 「僕に何か用ですか?」


 「君、その制服はどういうことだ!?」




 あっ。またこのパターンか。


 これは入寮初日から続く女性勘違いパターンだ。


 ちょっとこの手の勘違いはもう飽き飽きだから流していこう。




 「僕はだんせ──」


 「なぜ君はサイズの合っていない服装をしているんだ!!」




 僕は表情に出てしまった。この人は今までの人と違うという驚きが。




 僕はやっぱり男だよね。


 この制服のおかげかもしれないけど、それでもやっぱり僕はちゃんと男と認知されるんだ!!




 「おい。話を聞いてるのか!?下は大丈夫だが上着とカーディガン少し大きいんじゃないのか」




 生徒会の彼は僕の体をまじまじと眺める。


 その顔は今までの変態たちとは違う真剣なまなざしだが、僕と目が合うとなぜか目を背けられた。




 「すいません。でも──」


 「言い訳はいらない。早くあったサイズに」




 そんな注意の途中横から僕の知った人影が近づいてくる。


 赤髪で生徒会の人と同じくらいの身長。やんちゃっぽいがそれでもイケメン。でも変態が隠せてない人が。




 「何してんの芦名?」


 「掛谷君! ちょっと制服のサイズがあってないって注意されちゃって」


 「はーそんなことで指導されてんのかよ」


 「そんなこととはなんだ? 規律は規律。守ってもらうぞ」




 いかにも仲良くはできなそうな二人の視線が交差する。


 何かそこに緊張が発生しているような感覚がある。


 その緊張を掛谷は感じなように副会長に近づき、肩をたたく。




 「よく考えろよ。彼氏の服借りてます感がでてて、かわいいだろ。これは普通の制服じゃありえないぞ」




 生徒会の人はもう一度僕の体をじっくりと見る。


 ただ目が合いそうになると、またそらされえる。




 「確かに、僕も最初はそう思った。だが決定的にたりてないものがある」


 「「なんだとっ!?」」




 僕と掛谷が驚愕する。


 足りてないもの。


 身長か。サイズもあってないからそういわれても仕方ないのか。




 僕も何が足りてないのか気になる。




 「君に足りてないのは……恥じらいだ」




 「……」




 意味が分からない。


 いや、恥じらう必要がない。


 まー確かにちょっと欲を出してオーバーサイズに手を出してしまったが。




 「それだ。俺も何か違和感があったんだ。芦名! お前にはきせられているって恥じらいがないんだ」


 「そんなのわかんないよ?」




 ちょっとこっちにこい。と掛谷に手招きされて、耳元でささやかれる。




 ごにょごにょごにょ




 「こんなことでいいの?」


 「これが正義だ!」




 正義ってどういうことなのかはわからないが、それを実行して生徒会の人に見せる。


 袖をもえ袖にして両手を口元に持っていく。




 それを見た生徒会の人は、すべてに納得したかのような満足げな顔で頷く。




 「これだよこれ。『彼氏の服借りちゃった! ちょっと恥ずかしい。でも彼のにおいがずっと……』的な奴だ!」


 「そうなんだよ! いや先輩っすよね。これをわかってくれる人には敬語を使わせてもらいます」


 「いい心がけだ。今までのため口は許してやる!」




 なぜか意気投合してる。


 僕のことなのに、僕以外の二人が。


 除け者扱いをされているが、でも混じりたいとは思わない。


 だって、これ同種だよね??




 てか、この二人お互いのこと全然知らないのになぜか抱き合ってるんだけど。


 発言も行動もやっぱり意味が分からないよ。


 ひとまず男同士の抱擁を見たくないから、話しそらそうかな。




 「そういえば生徒会の先輩の名前聞いてなかったんですけど」


 「あー。僕は若林渉。生徒会副会長だ。これからよろしく。そして存分に頼ってくれ」




 ん-。たぶんこの人には頼らないかな。


 そんな僕をわき目に掛谷と若林は二人の世界を作ってる。


 ここの生徒会は大丈夫なのかな?




 「あとそれより、芦名さんといったかな?」


 「はい。芦名あおいです」


 「君は、ひとまず彼氏の服を借りるのはかわいい限りだが、規則は規則。女子の制服に着替えてきなさい」




 あれ? この人は僕が男性だって気づいているんじゃ。




 掛谷の方を見ると、うんうんと頷いている。


 いや、君は否定してよ。




 「俺は芦名のスカート姿見てみたい」


 「はきません。というより、僕、男なんですけど……」




 若林は、ひどく驚いた表情で僕を見つめる。


 あなたもそちら側の人だったのかと落胆する。信じたのに……




 それと同様に掛谷も若林と同じ表情をしてる。


 なぜ、君がその顔をするの?


 『スカート』とボソッと聞こえる。


 それはありえないんだよ。




 何かが僕たちにかみ合ってなかった。


 そのかみ合わなさが、もう一つきてしまう。




 「あおいー! 俺と掛谷とあおい、三人とも同じクラスだったよ!!」




 そこにさわやかイケメンが登場する。


 いづきが来たことにより、若林の目線はそちらに移る。


 そして、未だに疑いの表情を隠せてない彼から、圧倒的に意味不明な言葉が出る。




 「そこの新しく来た一年生。君はスカート姿の芦名さんを見たいか?」




 なんでその質問が出てきたのか。


 一度脳の仕組みを──


 みたくない。




 いづきは最初、その言葉に動きが止まったが、すぐに表情が真剣なものになる。




 「僕は見たいとは思いません」




 いづき君はわかってくれてるんだ!


 僕が男性だって信じてくれるルームメイトができてよかった。




 「別にスカートじゃなくても、あおいはかわいいよ」


 「「まぶしいっ!!」」




 掛谷と若林は、いづきのさわやかパワーにやられて、目をやられてしまう。


 ただ、僕だけは違う意味で目を閉じる。




 ここにいる人たちはダメなのかもしれない。




 僕はこの石像前を離れて、静かになった掲示板の前に向かいことを済ませに行く。




 ひとまず、朝で分かったことは、副会長には近づかない方がいいことだけだった。

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