第57話 樹里の抜け駆け
翌早朝
コンコン
コンコン
ピロリロリンピロリロリン
コンコン
ピロリロリンピロリロリン
「もしもし」
「私、今あなたの部屋の前にいるの」
「樹里か…おはよう、ってまだ暗いな?どしたの?」
「あら、もう怖がらないのね」
「樹里の声ならもう怖くないよ」
「か、鍵を開けてくれないかしら」
「ん」
カチャリ
「ふぁ~、おはよう樹里、こんな朝早くからどしたの?」
「部屋の中だとまた武井さんがわいて出てきそうだし少しお散歩しない?朝日のさすビーチを撮影したいの。」
「ハハ、うん、わかった。ちょっと待ってね」
ほんのり明るくなり出した空を眺めて急いで身支度を整える。
勿論洗顔と歯磨きも怠らない。
「お待たせ、行こうか」
別荘を出て島の周回道路をゆっくりと歩く。
樹里はハンディカメラ片手に撮影しながら話し出した。
「こんな時間に外にいるなんて初めて。」
「うん、普通に生活してたら夜明け前に外にいるなんて無いかもな」
「絢斗はあるみたいね」
「ああ、昔メディアに出てた頃にロケとかあったしな」
「今日は撮影じゃない?緊張しちゃってあまり眠れなかったのよ…」
「なるほどね」
「私がモデルとか経験するなんて一生無いと思ってたし、考えもしなかったから。」
「そうだろうね」
「正直に言うとね、少し怖いの。
私みたいな陰キャがモデルなんてって思っちゃうのよ…大和さんもそうだけど一緒に撮影する東雲さんにも迷惑かけちゃうんじゃないかって心配しているわ。」
「大丈夫じゃないかな?」
「私が大丈夫じゃないからあなたに話して少しでも気を紛らわしているのよ。」
「いや、そうじゃなくって、みんな最初は不安になるんだと思うよ。でも大和さんはプロだし東雲だって失敗する樹里を見て嘲笑うような子じゃないし逆にアドバイスしてくれるんじゃないかな。」
「・・・・。」
「素材だって一級品なんだ、素人な分は素材でお釣りがくるよ。自信持てなんて言わないけど心配はしなくてもいいよ。」
「ありがとう」
「お、見てみ?朝日が」
「綺麗ね…あなたと2人でこんな景色を見れる日が来るなんてあの頃は考えもしなかったわ。」
「よし、戻って朝飯だ!乗れ!」
そう言って背中を向けて屈むと
「は、恥ずかしいわよ」
「いいから!」
「もぅ、強引ね…」
背中に樹里を乗せて少し早めに歩く。樹里の体温、背中と腕に感じる柔らかさに少しクラクラしたけど涼しい朝にその全てを心地良く感じてしまっている。
「お、重いでしょう、もう少しゆっくりでも…」
「いや、軽いw ちゃんと食べてるのか心配になるわ。それに背中と腕にあたってるクッションがね、気持ちいいからw」
「バ、バカね…」
そう言って俺の首に腕を回してしがみついてくる樹里が…
いやいやいやいや、待て待て待て!
俺はなにをやってんだ!?
なんか急に恥ずかしくなってきたんですけどぉ!?
「あら、あなた耳が真っ赤よ?」
「き、きっと朝日を浴びて化学反応をおこして」
「私に反応したんじゃないって言いたいのかしら?」
「胸を更に押し付けてくりゅなぁぁ!違う所が反応しちゃうかりゃ~!」
「男の子だもの、別にいいのよ?フゥ~」
「息を吹きかけちゃらめぇ!!!」
「フフ、ありがとう」
樹里は小さく笑っていた。
もう緊張もとけたのかな…
愛「ああああ!こらぁ!抜け駆けしてんじゃないわよぉ!絢斗くん、私もおんぶして?」
檸檬「あなたはダメよ。その破廉恥極まりない胸で何をしでかすかわからないもの。」
絢斗「た、たしかに…」
愛「なんでよぉ!!!」
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