第56話 プチ暴走

恵が絢斗の部屋をたずねてきた。


「どうしたの?」

「少しお話したくて」

「明日じゃダメ?」

「皆がいたら恥ずかしいし」

「う~ん…わかった、そこに座って。」


備えつけのソファーに誘導してお茶の用意を始める。

「さ、どうぞ。」

「いただきます。」

少しお茶をすすり恵は話始めた。

「私一人っ子でずっと兄妹きょうだいに憧れがあったんですよ。」

「へぇ、そうなんだ」

「小さい時に両親が見てたテレビドラマに絢斗さんが中学生の役で出てたんですけど、どんな役だったか覚えてます?」

「たしかヒロインの弟で3姉弟きょうだいの真ん中だったよな。」

「そうなんです!あの時、姉や妹に優しくしてる絢斗さんを見て、あぁこんなお兄ちゃんがいたらなぁってずっと思ってたんですよ」

「でもあれは役だから…」

「それでもです!両親は共働きでずっと1人ぼっちだったからあの時の絢斗さんの妹役の子がすっごい羨ましかった・・・」

「ぼ、ぼっちの何が気に入らないんだね!?キミは!」

「ボッチが悪いとかそういうんじゃないんですよ?それは人それぞれだし。ただ、私は寂しかった。だから絢斗さんがお兄ちゃんだったらってずっと妄想してましたw」

「寂しかった…か。」

「絢斗さん、お願いがあるんです」


あまり良い予感はしないなぁ


「俺に出来る事なら。」

「私のお兄ちゃんになって欲しいんです!!」

「なれって言われてなれるもんじゃないんじゃないかな??」

「そうじゃなくって!

絢斗さんの事、『絢斗お兄ちゃん』って呼んでもいいですか?」


その時、絢斗の脳から脊髄にかけて電撃が走った!!


『絢斗お兄ちゃん』・・・

お兄ちゃん、お兄ちゃん?

絢斗お兄ちゃん!?


バカな!?


な、なんだこの感情は?

俺に妹…だと!?

そんなっ…兄属性が今更芽生えたというのか!?

これはダメなヤツだ!

わかってるはずだ!

了解しちゃダメだ!!!!


「ダメ…かな?

『絢斗お兄ちゃん』?」


あぁやぁとぉおぉにぃちゃーーーん


「ダメなわけないじゃないか!

恵、お前は俺の妹だぁぁぁっ!!」


恵(かかった!)


それは一人っ子の絢斗に防ぎきれるような攻撃ではなかった。

そして恵は思う。

絢斗が単純バカで良かった、と。


「さぁ、恵!なんでもお兄ちゃんに言ってごらん?」

「恵ねぇ、お兄ちゃんと遊びたいなぁ」

「あぁ!勿論だとも!何をして遊ぶんだ?」

「恋人ごっことかしてみたいなぁ」


バタンッ!!


愛「ちょおっと待ったぁぁぁ!!」

絢斗「うぉ!?な、なんだ!??」

檸檬「絢斗、騙されてはダメよ」

恵「ちょっとお姉さん達?盗み聞きとかあまりいい趣味じゃないですよね?それに私が絢斗お兄ちゃんを騙すわけないじゃないですかぁ?」

絢斗「そ、そうだぞ?妹が俺を騙すなんてあるはずが」

檸檬「あらあら、洗脳完了しているじゃないの」

愛「絢斗くん!そんな小娘に踊らされちゃダメだよ!」

恵「人聞きの悪い事を言わないでもらえますぅ??絢斗お兄ちゃん、お姉ちゃん達が怖いぃ。」

絢斗「君達やめないか!俺の妹におかしな事を言うのはよしたまへ!」

檸檬「絢斗…可哀想に。あなたの純粋な心を逆手にとられたようね。こっちにいらっしゃい。おーよちよち」

絢斗「ま、ママ…?」

愛「はぁ!?あんたも洗脳してんじゃん!!」

檸檬「これは絢斗が望んだ結果よ?ねぇ?絢斗ちゃん♪」


絢斗は対面のソファに座った樹里の太股に顔をうずめていた。

恵「ちょと!私と絢斗お兄ちゃんの関係を邪魔しないでもらえますぅ!?お兄ちゃんも何やってるんですか!」

絢斗「うっ、め、恵…」

愛「こ、こうなったら…

はぁ、あっついなぁ、パジャマ脱いじゃおっかなぁ…チラッ」

絢斗「・・・・」ピクッ

檸檬「あ、絢斗?」

恵「絢斗お兄ちゃん??」


衣擦れの音に全神経を集中させて脱ぐのを待ち構える絢斗だが…


武井「坊ちゃま、そろそろ正気に戻っていただかないと坊ちゃま相手にビンタする事になりますが…よろしいですか??」


絢斗「・・・・・さぁ、みんな、俺はシャワーを浴びて寝るんだ!明日は撮影だろ?君達も早く寝たまえよ!」

武井「はい、良くできました。」


や、ヤバかったぁ…

妹というパワーワードに危うく騙されるとこだったぜ。




~~~~~~~~~~~~~~

※にゃんぺろから一言

ハマってましたよね?


絢斗は両親が亡くなるまでは基本的にお調子者だったので頼まれたら拒めない性格のようですね。その辺り檸檬と恵にはバレているような偶然のような…?

野生のJCは恐ろしいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る