第27話 デリカシー




天国から地獄

宇宙までブチあがったテンションが海底一万メートルまで下がった気がした。

だから陽キャは嫌いなんだ。

人のパーソナルスペースを平気で侵害してくる。


俺は伊達眼鏡をヘアバンド代わりにグイッと頭へ引き上げ東雲愛を見る。

俺の表情に気づいたのかビクッと肩を震わせ「な、なに?」と怯えた声をだしている。


絢斗

「東雲愛さん?

キミさ、デリカシーに欠けてるって事に自分で気づかないかな」


東雲

「え、な、なに?急に…」


絢斗

「まずここがどこだかわかってる?」


東雲

「絢斗君の…部屋?」


絢斗

「うん、そうだよね。

それで?

人のプライバシーを勝手に覗き見るってどういう事?」


東雲

「だ、だって…」


俺は椅子から立ち上がり質問を繰り返す。

少しずつ距離を詰めながら。


絢斗

「だって、なに?」


ドンっと壁に手をつく。

世間で言われている壁ドンではない容赦ない威嚇だ。

東雲愛は足をガクガクと震わせながら涙をうっすら浮かべている。

その姿に嗜虐心を刺激され少し興奮を覚えた…


絢斗

「男の部屋にのこのこと勝手に入ってきたんだ、

覚悟はできてるんでしょ?」


恐怖で固まってしまった東雲愛をお姫様抱っこでベッドへと運んで

軽く放り投げるとさらに固まってしまう。


俺は片手で東雲愛の両手を頭の上に張り付けにして

耳元に口を寄せて囁く。


絢斗

「抵抗してもいいんだぞ」


首筋をペロッと舐めると「ひぅ!」と可愛い声をあげ…


東雲

「違う…こんなの違う…うぅぅぅ」

声を殺して泣いていた…


俺はなにやってんだ!?


絢斗

「ごごごごめん!!

少しお仕置きするつもりが!

でも…なんでそんなに俺に構うんだよ…」


東雲

「だって…

絢斗君を独りにしたくないんだもん!」


なんなんだよこの女は…

俺は1人が気楽でいいんだ。

だから存在感を消して誰とも関わらないようにしてあの時から生きてきたんだ。


東雲

「どうしてそんなに独りになりたがるの!?」


絢斗

「もう人前には出たくないんだ」


東雲

「だからどうして!」


絢斗

「・・・・・俺の両親が事故で亡くなった時…

いや、やめとこう、

キミには関係無い。」



東雲

「…汚された」


絢斗

「なに?」


東雲

「私の首、舐めた…」

ギクッ


東雲

「もうお嫁に行けない…うぅぅぅ」


絢斗

「そ、それはキミが!」


東雲

「うぅぅ、手首もいだいぃぃ」


ハッとした…

俺が片手で無理に押さえつけたギャル子さんの手首は

赤黒く痣になってしまっていた。


絢斗

「ごごごごめんなさい!」


東雲

「こんなんじゃ学校行けないぃ…

変な趣味だと思われちゃうぅぅぅ」


俺はオロオロするだけで

何をすれば、どんな声をかければいいのかわからなくなってしまい…


東雲

「男の子のお部屋なんて初めてだったのに酷いよぉ、うぅぅぅ」


絢斗

「ほんっとうにごめんなさい!

なんでもするから!

許して欲しい!」


自分がした事で女の子を傷つけてしまった…


東雲

「じゃあ、もう私を邪魔者扱いしない?」


絢斗

「しない!」


東雲

「もうぜっっったい私が傷つくような事もしない?」


絢斗

「絶対しない!!」


東雲

「優しくしてくれる?」


絢斗

「もちろんだ!」


東雲

「私の言う事何でも聞く?」


絢斗

「そ、それは…」


東雲

「何でもするって言ったのにぃ

嘘つかれたぁぁぁ!うわーーーん」


絢斗

「お、俺に出来る事なら何でもするから!」


東雲

「約束出来る?」


絢斗

「ああ、約束する!」


東雲

「じゃあ許したげる…」


あ…ハメラレタ?


・・・・・・・・・・・


しばらく泣いていたギャル子さんは疲れて眠ってしまったようで

可愛い寝息をたてている。

俺は自己嫌悪の海に沈みに沈んで…

結局何が正解なのかわからないまま寝顔を眺めていた。


自分がこんなにも女の子に弱々だったのにも驚いた。

弱々で甘々だ。

自分が酷い事をしたって自覚もあるからよけいだろうな。

こんな俺にここまで構ってくる他人なんていなかったから

どう接していいかわからないんだよ。



『だって…絢斗君を独りにしたくないんだもん!』


勝手な事言うなよ…

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