第22話 おっさん参上



駅前に到着したことを柚子檸檬先生に連絡して待っていると後ろから声をかけられた。


おっさん

「七条院さんですか?」ハフハフ


絢斗

「はい、七条院です。」


ま、世の中なんてこんなもんだろ。

声で男だと察したんだが

まさかのアキバ型ぽっちゃりオヤジだ。

しかも息切れしてる。


あんな素敵なイラストを描ける人だから本人も…

なんて幻想でしかなかったようだ。


柚子檸檬なんて可愛いネーミングだったし

きっと柑橘系の甘酸っぱい爽やかさのある美人が登場するなんて

これっぽっちも期待したりはしていない。

ないったらない!

(ToT)


だが実力は本物だ!

俺はこの人を説得して契約してみせる!


おっさん

「ではついて来てもらってもいいですか?」ハフハフ


絢斗

「わかりました。」


駅から繁華街へ向けて歩き出した先生の後ろ姿から


『諦めたらそこで試合終(ry』


そんなオーラを感じる。

ぽっちゃりさんの後ろ姿は大概あんな感じなのだが

今はそう感じる!


ハフハフ言いながら前を歩く先生だが

たまにポケットからハンカチのようなモノを出して

顔に当てているのがわかる。


まさかあのハンカチに隠して

アツアツのコロッケを頬張ったりしているのではなかろうか!?

それならハフハフも納得ができる。


んなわきゃねぇか。

どこの世界にポケットにアツアツコロッケを収納するヤツがいるんだよ…

落ち着け俺!

イメージが違いすぎて動揺しているだけのはずだ!


駅前から5分ほど歩くと

レジャービル前で先生は止まった。

ビルの看板はカラオケやらビリヤードやら

様々な施設を連想させる写真が貼り付けてある。


ロビーへ入ると


おっさん

「少し待っててください。」

ハフハフハフハフ…


息切れしながら先生は去って行った。

トイレか?しかし息切れえぐいな。


もしやすでに何かの試練が始まっているのかもしれない!

こんなレジャービルとか

陰キャボッチである俺とはまったく縁のない場所に置き去りとか…

かなりハードな試練だ。

行き交う陽キャ達の俺を見る視線が痛い…。

陰キャが何しにきたんだ?

キモいからこっちみんな!

なんか臭いんですけどぉ?

…など俺をあざける声が聞こえる気がする。


※実際はデカい男がロビーで微動だにしないのが不思議なだけで誰も何も話してはいない。


待たされている俺がどんな反応をするのか監視しているのか!?


落ち着け!落ち着くんだ俺!

不屈の精神で待ってみせる!


ピロリン

『カラオケフロアの

302号室に来てください』


え?早っ!

30分は耐えてみせるつもりだったのに

2分でメッセージきたとか…


しかしまだ油断はしない。

カラオケボックスに誘導されたって事は

何かとてつもなく変な歌とか歌わされる可能性もある。


しかもそれを大人数で笑い物にするとかもありそうだ。

その辺も心に留めておかねば。

想定出来ていれば驚く事も焦ることもないのだ。


俺は意を決して302号室のドアをノックした。

生まれたての子鹿のように足をプルプルさせながら。

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