第8話 私の魔法

 暗い……暗い……なにも見えない……

 頭が痛い……何も考えられない……

 私は……どうして……何かしないといけないことが……


「メムナ……」


 そう……メムナが、消えてしまった……

 鮮明に思い出せる……握った手が消えていく時の感覚……魔力が溢れ出す光景……それだけがこびりついてる。


「うっ」


 思い出したくない。

 嫌……嫌……嫌……

 何も考えたくない。

 そんなわけない……メムナが死んじゃうなんてそんなわけない……何かの間違い……そう……夢……全部悪い夢……そうに違いない。


「一緒にいたい……」


 そう言ってくれた。そんなメムナが死んでしまうなんてそんなわけない。

 きっと魔力がメムナの傷を治してくれる。きっと魔力だって足らないなんてことはない。


 メムナを助ける……助け続けるって誓った。

 だから助けないと……


 死んでるかどうかなんて関係ない。きっと助けられる。助けなくちゃいけない。

 ……けれど。


「私が……」


 私が一緒にいたいなんて言わなければ、メムナは死ななかった。あの男の言葉が頭の中を反射している。


 そんなわけない……!

 そんなわけない……と思う……


 けれどもしかしたら、私が一緒にいたいなんて言わずに、メムナが長剣を持った女についていけば、メムナは死なずに済んだのかもしれない。


 もし……そうなら私はメムナを助けない方がいいのかな……どうなのかな。私があの時……裏区で爆発や炎が広がっていた時……メムナを助けたのは間違いだったのかな……

 本当に助けられたのかな……私は……


 メムナは一緒にいたいって言ってくれた……けれど、今メムナは一緒にいない……どうして……どこ……メムナ……どこに行ったの……?


 メムナ……メムナ……どこに行ってしまったの……?


「メムナ!」


 メムナを見つける。

 メムナ……メムナ……!やっぱり生きてたんだ!

 けれど、動いてない……どうしたのかな……


「メムナ……!大丈夫……!」


 傷は治ってるはずなのに……

 魔力……?魔力が足らないの……?

 なら……私が……私が魔力を探してくるよ。


「急がなきゃ」


 魔力を探す。周囲を走って魔力を探す。

 幸い魔力はすぐ近くにあった。


「メムナ……!」


 魔力が少し動いた気がしたけれど、そんなこと気にする余裕なんてなかった。メムナを助けないと。

 メムナに魔力を与えていく。けれどメムナが起きる気配はない。どうして……?


「まだ魔力が足らない……」


 魔力を探してメムナに渡す。

 どれぐらい経ったかはわからない。ずっと……長い間そうしている気がする。けれどまだ魔力が足らない感じがしない……少ししか時間が立ってないのかもしれない。


 魔力は動いたりするけれど、それにも慣れてきた。

 すぐに捕まえて、とって、メムナに渡す。


「メムナ……!」


 メムナが目覚めるのか不安になる。

 けれど、いつかきっと。魔力さえあれば傷は治る。いつか目を覚ます。


「そのために……」


 魔力を探しにいく。

 今回の魔力はなんだか毛色が違った。


「いつもより明るい……?」


 明るい魔力は魔法を放ってくる。それをかわして魔力を取ろうとする。

 私が手を伸ばすと、魔力は逃げていく。最近はこういうのが多くて慣れてきた。


「捕まえた……」


 けれどその魔力は手の中からすり抜けていく。

 何度も魔力を取ろうとするけれど、何かに阻まれる。


「なにこれ……」


 魔力の壁……魔法……?こんなの邪魔!


 魔法なんて怖くない。

 私はメムナを助けるんだから。


 いつのまにか魔法なんて効かなくなってる。

 けれど魔力がなんで魔法なんて……魔法を使うのは人だけじゃないの……?


「うっ……!」


 頭が痛い。考えたくない。

 メムナ……メムナ……メムナのことだけを考える。メムナを助けることだけを。メムナに魔力を渡すことだけを。


 メムナと一緒にいる……ずっと一緒にいる……

 一緒に暮して、一緒に日々を過ごして、一緒に……一緒に……ずっと一緒に……


「そのために」


 魔力を……!

 明るい魔力を取り込む。

 まだメムナは目を覚さない。


 魔力がなくなってきた……魔力ってこんなになかったかな……早く魔力をあげないといけないのに。


「メムナ……もう少し……もう少しだから……」


 少しの魔力でもいい。早く見つけて、早く……早く……

 そうしないとメムナが死んじゃうよ。早くメムナに魔力を……


 どうして……どうして私はメムナを助けたいと思ってたのかな……思い出せない。

 なんで……?けれど、私はメムナを助けないと……魔力をあげてまた一緒に……


 メムナを助けれたら、それ以外はどうだっていい……メムナとまた手を繋げるならそれ以外どうだっていい。


 今がいつなの?

 ここがどこなの?

 私は誰なの?

 どうしてメムナを助けたいの?

 

 全部がどうでもいい。

 全部わからなくてもいい。


 けれどメムナは目を覚さない。


「……」


 やっぱり……本当は気付いてる。

 本当のことも全部わかってる。


 この暗闇の空間……魔力だけが見えるこの空間に来た時からずっとわかってる。けれど見ないフリをずっと続けてきた。


 でも……そうしないと……そうしなきゃ……


 そう思った瞬間外が見える。

 外が魔力によって捉えれるようになる。


 多分……今までだって見えてきた。その記憶もある。けれど見ないようにしてただけ。


 周りにはなにもなかった。私の周りにはなにも。


 その原因は何もない場所の上にある黒い霧。これがあらゆるものを魔力に変えて、魔力を吸い込んで、全てを消し去った。


 これが……これこそが私の魔法。それが理解できる。

 魔法が暴走しているのか……それとも別の何かが起きてるのかはわからないけれど、私の魔法は周りを飲み込んで、ずっと魔力を探している。


 私が魔力だと思っていたのは全部人だった。

 逃げ惑う人を捕まえて、魔力に変えて……


 魔法も魔力の塊が、動いてるだけの私の魔法には効かない。効かないどころか魔力を吸収して強くなる。私の魔法は、壁も飲み込んで外まで影響を及ぼしている。


 けれど……けれどメムナがいるのは嘘じゃない。

 ずっと私の隣に……私の魔法の中心で寝ている。


 だから魔力が必要だから……私がどれだけ恨まれてもメムナだけはきっと助ける……助けたい。きっと目を覚ます。


 メムナがいてくれたらいい。何が起きたってメムナがいてくれたらいい。私が大量殺人をしても……誰かを傷つけても……メムナさえいてくれたら……


 もうずっと手を繋いでない。

 メムナと手を繋ぎたい。

 もう一度だけでいい。もう一度だけ手を繋ぎたい。


 今度はもう離さない。

 手を握り続ける。メムナをもう離さない。


 小さな、薄い期待を込めて魔力をメムナに込め続ける。

 いつかきっと目を覚ましてくれるって信じて。

 そしてすごく長い時間が経って、取り込んだ魔力のストックも切れかけた頃、その時は来る。


「し……あ……?」

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