第6話 内側の戦い

 壁の内側は、多くの建物が立ち並び、中心には一際高い塔がある。綺麗な景観……だけれど今は、巨大生物が空中を飛んでいる。

 巨大生物は空中を雄大に飛行しながら、巨大な魔力を落とす。その魔力は火に変わり、建物を破壊し燃やしていく。


「外に行った方が良かったかな……」

「あれ……」


 メムナが巨大生物が開けた壁の穴を指す。その辺りには、魔導機と人……なのかな、それが戦っている。

 たくさんの魔法を使って魔導機を破壊していく。魔法は1人ひとつのはずなのに。しかもなんでこんな時に争ってるのかな。


「どういうこと……?」

「シア、こっち!」

「これ……魔力?」


 そこにはさっきの巨大生物が通った影響か、何かの機械の破壊されていて、そこから魔力が溢れ出ている。

 いつもの魔力とは比べ物にならない量。


「とっちゃおう……こんな状況だからバレないよ」

「そうだね……何が起きてるのかわからないのが怖いけれど」


 空には巨大生物が魔法を放ち、家を破壊していく。

 巨大生物に攻撃用魔導機からミサイルや魔法が放たれて、巨大生物は空中で魔力に変わって大気に消えていく。

 攻撃用魔導機に人が魔法を放ち撃墜する。

 人に人が魔導機から魔法放ち、殺し合いが始まる。


 そんな光景が見える。

 まるで現実の光景じゃないみたい。


「シア!それ以上とっちゃダメ!」

「え?」


 遠くの景色を見ながら、魔力を身体にいれていると、シアが止めてくる。気づくと身体の中の魔力量が限界値に近くなってるのがわかる。さっと魔力の摂取を止める。


「魔力情報が書き換えられちゃうよ!」

「少しぼうっとしてた。ありがとう」

「もう……じゃあ、これからどうしよう」


 どうしよう。どうする?

 まずこれからの目的……目標は生きること。メムナを助けること。そのためにはどうすれば……


「そうだね……今起きてることの全体像がわからないし……騒動が終わるまで隠れておこうか」

「うん……どこに隠れるの?」

「壁の内側がどうなってるのかがわからないからね……」


 これなら裏区に行った方が良かったかな……あっちならどこに何があるかもわかったけれど……

 いや、いつあの巨大生物に潰されるかもしれないのにそんなことできない。この内側で生きていくしかない。


「あれ……何?」

「え?」


 メムナが指したのは、壁の穴。

 そこを見ると穴の向こう側……裏区のさらに先、外から何かが来ているのが見えた。まだ遠くて何かかはわからない。けれど、逃げた方がいい。それはわかる。


「えっと……こっちいこう!」

「……うん!」


 家と家の間通って、さらに曲がって息を潜める。

 何も見えないけれど、少しづつ音が大きくなってくる。

 最初はなんの音かわからなかったけれど、大きくなるにつれてそれが足音であるとわかる。人の足音。それもすごく多い。


「ほんとにあるんすねー壁の外に」

「静かにしろ、作戦行動中だぞ」

「まぁまぁジオイスさん、そんな怒らないでやってくださいよ。壁の外にこんな街があるなんて知ったら誰だって声ぐらい出ますよ」


 壁の外に街……?ここは壁の内側のはずなのに……

 いや、そうじゃないのかな……彼らは裏区の先、外から来ていた。もしかしてこの壁の外から見た人間から見れば、ここは壁の外になるのかも。


 何人彼らがいるのかわからないけれど、多分数人とかじゃないと思う。たくさんの足音がするから。

 足音が道を抜け、遠くへと去っていく。


「はぁ……ひとまず大丈夫……かな」

「怖かった……ずっとここに隠れてたらいいのかな……」


 メムナが震えてる。私も怖い。けれど、生きないと。メムナを助けないと。


「大丈夫……うん……大丈夫……っ!」

「なにっ!?」


 隣の家が吹き飛ぶ。

 爆音で耳が痛い。粉塵で前が見えない。


 煙が晴れると、そこには地面がえぐれ、何もなくなっていた。たくさんの家や、いろんな建物、広場や木もあったはずなのに、跡形もなく、えぐれて消えていた。

 そのえぐれた後には魔力だけが残っている。誰かが死んで出た魔力が。


「なにが……?」

「シア!あれ!」


 そこには誰かがいた。名前も知らない誰か。

 だけれど魔導機を向けてこっちを見ていた。その人の前から地面はえぐれていた。つまり、この人が今の惨事を起こしたってことになる。


 そこまで理解すると同時に駆け出していた。メムナの手を取り、通路を抜けて、道を駆ける。

 どんどん壁から離れていく。


「シアこっち!」

「え!?」


 メムナがいきなり横に走り出す。

 それと同時に、風が地面をえぐり、目の前の道を破壊する。そのまま走っていたら当たって殺されてた。


「どうしよ……!」

「とにかく走ろう!」


 とにかく走った。道を走り、右に曲がり、左に曲がった。

 風はまだ飛んできて、かすって皮膚がえぐれて、血が滲み出る。けれど、さっきとった魔力のおかげですぐ治る。


「はぁ……はぁ……」

「巻いたかな……?」


 いつの間にか風は来なくなっていた。魔力切れがそれとも、見失ったのか。

 とりあえず逃げれた。けれどあんな規格外の攻撃を相手にどこに逃げればいいのかわからない。どうすればいい……どうすれば。


「そういえば街の人は……?」

「……こういう時はシェルターに入ってるんだとおもう。けれど私達はは入れないよ……内側の人だけだから」


 じゃあだめか……どうしよう。

 空には巨大生物……地上には強力な魔法使い……どこに逃げれば……


 そいつは空から降ってきた。

 空から、強力な魔力と共に。


「ごめん」


 声を上げる暇もなかった。動く隙もなかった。

 空から降ってきた男の姿が消え、次の瞬間には目の前に現れる。短剣が今にも首に刺さろうとしていた。けれど何かに止められている。


「間に合ったか」


 長剣を持った赤い髪の女がいた。その長剣で、短剣を受け止めて私を守ってくれた。

 長剣が短剣を弾き飛ばす。そのまま斬りかかるも、すらりと交わされ距離をとられてしまう。


「おい……お前たちは逃げろ……早くシェルターに行け」

「そ、それが……無理で……」

「なに?……お前たち壁の中のやつか……」


 金属音が鳴り響く。

 長剣と短剣が高速でぶつかり合う。


「よそ見してていいのかな?」


 男の姿が消える。いや、速すぎて見えないだけ。証拠に金属音はまだなっている。私には見えない攻撃を弾いてる。


「すごい……」


 そこはもう異次元の領域だった。

 姿が消え、金属音が鳴り響く。

 戦い。私にはなにもできないような戦い。


「今のうちに!」

「シア……!」


 メムナの目には涙が浮かんでいた。

 こんなに怖ければ当然かもしれない。

 私も怖い。私の視界も少し潤んでる。


 けれどメムナの手を取り逃げる。

 助けるって、助け続けるって決めたから。

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