第5話 心の温もり

 魔力を探しに行く。

 魔力をなんとか見つけて、回収して秘密の空間に持ち帰って、少ない魔力をメムナと分け合う。炎使いの男に会うのは怖かったけれど、そんなことを気にしていられない。


 表区の近くで、魔力を探すことで少しは危険を避けることにした。流石に表区の人は殺さないと思ったから。


 表区は魔力が落ちていることも多いけれど、その分人が多い。魔力を見つけるのも早いけれど、取り合いになることも多いし、表区の住人に邪魔されることも多い。けれど、殺されることはない。


 そして、今日も明日も、その次の日も、次の日も、ずっと魔力を探して、持ち帰る。帰る時が1番恐ろしい。いつ炎使いの男が現れるかわからない。

 それに巡回している警備用と清掃用、回収用魔導機もある。魔導機に会うのも怖い。国に管理されている魔導機にあったら、情報が送られて居場所がバレるかもしれない。


「ただいま」


 メムナはまだうずくまって、虚空を眺めている。たまに目が合うこともあるけれど、すぐに目を逸らされるし、話すことはほとんどない。

 無理に話すこともない。少しづつ。いつかきっと。




「ただいま」

「…………おかえり」

「うん。ただいま」


 いつぐらいからか、メムナが少し話してくれるようになった。まだ視線は下を向いているけれど、話してくれる。

 今日はどのあたりで魔力を取ったとか、この辺りに焼け跡があって怖いとか、裏区の人が少ないとかそんな当たり障りのない話。

 けれど少しづつ。




「ただいま」

「おかえり……ありがとう」


 最初はほとんど話してくれなかったメムナも、今ではよく話してくれる。お互いの人生の話もした。

 私はデドが助けてくれた話をしたし、メムナは親に捨てられた話をした。


「私の家は……多分大きかったと思う……けれど、私はいると良くない存在だったみたいで、裏区に捨てられた」


 大きな家……表区の家は大体が同じような大きさだし、内側の人だったのかな。内の人でもそんなこともあるんだ。


「家の人は優しかった。私を置いていく時も泣いてた。けれど……私を置いて行った。私がいらないから」

「……そんなことないよ。私にはメムナがいてくれないと」


 そう。いつのまにか、メムナがいてくれることがすごく大切なことになっていた。メムナにたくさん助けられてる。

 思えば、今まで同年代の人と話すことなんてなかった。手を繋いだこともなかった。魔力を奪い合わずに分け合うこともなかった。


「私……明日からシアと一緒に行くよ。私も役に立ちたい」


 一緒に行く。魔力を探しに行く。ここから出る。

 それは殺される可能性が上がること。危険だと思う。

 けれど……


「……うん。わかった。明日からね」


 危ないかもしれない。けれど、生きたいって思ってくれてると思ったから。それにずっと私がいるかもわからない。明日私が炎に焼かれて死にかもしれない。その時のために。


 それからはメムナと魔力を探している。

 メムナは目がいいのか魔力を探すのがうまくて、今までよりずっと早く魔力を見つけれた。

 2人は1人の時に比べれば、ずっと気分が楽になる。それに数はそれだけで力になる。1人ぼっちの同じ裏区の人に魔力を奪われにくい。


 帰る時はメムナの手を握る。メムナは少し照れ臭そうだけれど、私はこの時が1番好き。誰かと手を握っていると、誰かの存在を感じれる。助けたいメムナのことを感じられる。

 暖かくなる。手を握れば、1人じゃないって思える。


 こんな時がずっと続けばいい。

 炎のことは怖いけれど、もう見かけなくなってるし、大丈夫かもしれない。表区で魔力を取れば生きていける。ずっと、少しづつ生きていけたらいい。メムナと明日も。




「シア……これ」


 その日目を覚ますと、遠くで大きな魔力を感じる。この前の炎の時と比べ物にならないぐらい大きな魔力。どれぐらい離れてるかはわからないけれど、すごく遠い。それでも感じられるぐらい大きな魔力。


「なんだろう」


 魔力は動く気配はない。遠くだからわかりにくいけれど、変化してる感じはない。ただ滞留している。


「もし取りに行けたら……」

「そうだね……でも」


 感覚からして歩いていけるような距離じゃないと思う。それになんだか高いところにある。壁の上の方だったりするのかな。


「どうしようもないし……気にしないようにしよう」

「うん……けど怖い……」


 メムナが震えて、不安そうな目を私を見る。見てくれるようになった。いつのまにか。


「大丈夫。私がついてるから」


 私がメムナを助ける。助ける続ける。




 次の日も、その次の日も、魔力はずっと同じところにあった。不安な予感はしていたけれど、私達にはどうしようもない。

 その不安な予感が的中したのは、魔力が出現してから1週間後になる。


 壁が揺れた。このずっと揺らがず、ずっと昔からあった壁が揺れている。


「メムナ!」


 表区の近くの路地でメムナの手を握る。

 こんなことは今までなかった。何が起きているのかわからない。怖い。けれどメムナを助ける。助け続ける。だから……


「シア……怖いよ……!」

「大丈夫……!」


 地響きが鳴り始める。それは裏区の方からしていて、どんどん大きくなっていく。

 何が近づいてきてる。


「きゃあぁあ!」

「わぁあああ!」


 たくさんの叫び声がする。地響きが不安を呼び、音が恐怖を呼ぶ。そしてその恐怖が現れる。


 轟音と共に、それが頭上を過ぎていく。

 巨大な生物のような何かが壁を破壊して通っていく。

 そのままそれは壁を抜けて、内側へと消えていく。


 けれどまだ音は続いている。

 さっきと同じ音。またあれがくる。


「何……あれ……!」

「わからない……けど逃げなきゃ!」


 メムナの手を取り反対方向に駆け出す。表区からの悲鳴を聞きながら、裏区の通を2人で走る。

 爆音がする。さっきの生物がいた方向から。少し後ろ振り返ると、またさっきの巨大な生物のような何かが抜けて行った。

 何が起きているのかはわからない。けれど、巻き込まれれば死ぬ。明日はない。


「はぁ……はぁ……どこまで行けばいいのかな……!」

「どうしよ……」


 あれが何かはわからないけれど、裏区の方からきた。だから裏区の方に行くのは危険だと思う。なら表区……いや壁を抜けていくなら……


「……内にいくしかない」

「え……でも内は……!」


 内に行ったことはないけれど、行くにはたくさんの魔力が必要で、それがなければ通れないらしい。最近は少し余裕ができたとはいえ、まだまだそんな魔力の余裕はない。けれど……


「今なら……こんなことが起きてる今なら、通れるかもしれない。それにかけるしかない」

「……うん」


 いろんな方向からいろんな音が聞こえる。

 悲鳴。爆音。衝撃。地響き。


 それらを感じながら、メムナと手を繋いで走る。手を繋いでいれば力が湧いてくる。なんとかなるって思える。


「あそこ!」


 大きな穴がそこには開いていた。

 さっきの巨大な生物が開けた穴かな。たくさんの魔力が辺りに散布している。たくさんの人が死んでしまっている。けれどここからなら……


「……内にいける!」

「いこう」


 表区を通り、内に走る。

 後ろを振り向くと外が見えた。

 外には緑が見えた。それ以外にも何があるけれどまだ遠くて良くわからない。


「ここが内側……」


 そして私たちは内側へと到着した。

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