第4話 行動の理由

 見つかったら殺される。けれど動かなかったら、魔力がなくなって死ぬ。動くのが怖い。怖い。


 落ち着け……大丈夫。大丈夫。なんとかなる。

 今までもなんとかなってきた。これからもきっと。


 動かないと。でもどうしよう。

 見つかれば殺されるなら不用意には動けない。


 私のするべきことはまず魔力を回収しないと。そうしないと結局意味ない。けれど魔力を探しに行こうにも、不用意には歩いても、あの男に見つかったら死ぬ……闘う力もない私には抗う術がない。


 だけど、さっきのところ……さっき男がが誰かを殺した場所なら確実に魔力がある。もう何処かに行ったはずだし、あそこから取るしかない。


 見つかるかもしれない……けれど他の場所を漁るよりはいいはずだし、それに、熱さもなんとかなる。

 この魔力の身体は魔力さえあれば治る。だから、魔力を全部消費する前に魔力を回収すれば大丈夫なはず。

 だから……


「だからやるしかない」




 なんとかなった。

 見つかることはなかったし、無事に魔力も回収できた。


「いてて……」


 足は表面が爛れて痛いし、身体の至る所にも火傷があるけれど、これは魔力さえあれば治る。普段の数倍の魔力を回収できた。これだけあれば大丈夫。


「とりあえず……」


 少し魔力を飲んて治癒して痛みを和らげる。

 あとはゆっくりしてから……あの空間に戻ってから……


 でもゆっくりと、少しづつ。焦って見つかったら殺されてしまう。怖い。今にもすぐそこからあの男が、熱が登場するような気がして。


 ゆっくりと、足音も立てないように進んでいく。

 本当は駆け出したい。早く走りたい。そんな気持ちを抑えて歩いていく。

 怖い。けれど、裏区の私たちはいつだって死と取り合わせだった。それが現実感を持った形として現れているから怖いだけ。こんなの抑えられる。


 他の裏区の人はどうしているのかな。今日はまだあの子……私が連れてきた水色の髪の少女以外見ていない。通路には誰もいない。物音もしない。だから、私の足音や息遣いが良く聞こえる。少しの音が響いて恐ろしい。


 ここを右……左……左……ここをくぐって……


「はぁ……!」


 着いた。この空間にきたら一安心。

 火傷がまだ痛い。早く治したい。


 水色の少女と目があう。その目は途中から見開かれるけれど、すぐにうつむいてしまう。


 多分火傷に驚いたのかな。裏区で火傷するような熱を浴びることはほとんどない。火を使えるような魔力があるなら、生きるために使うから。


「えと……これ、魔力ね。足らなかったら言ってね」

「……」


 入手した魔力を、身体に馴染みやすい液体に変換して、彼女に渡す。これは助けた、助けてしまった私のするべきことだと思う。

 彼女からは生きる気力を感じない。そんな人はこれまでも見てきた。見て、見ないふりをして、見逃してきた。けれど彼女は助けてしまった。

 だから魔力を渡して、助け続けないといけない。


「私も……」


 いつもより多いと言っても、あまり外に出たくないから節約しないと。もう少し少なくても大丈夫かな……けど治癒しないといけないし……これぐらいにしよう。


 魔力をとる。全身の火傷が治っていく感じがする。爛れた皮膚が治っていく。痛みも引いていく。ひりひりした感じが消えていく。


「…………なんで?」


 沈黙から水色の髪の彼女が喋る。


「…………どうして、助けるの」


 どうして。どうしてと言われても私にはわからない。

 今までもたくさんの人を見捨ててきた。何もせずに、何をしようともせずに見捨てた。助ける力がなかったから……自分のことだけで精一杯だったから……


 けれどそれは今も変わらない。自分のことだけで精一杯。

 でも、あの時……


「……なんでかな……助けたいって思ったから」


 ただそれだけ。

 ただの気分。そういえばそうなのかもしれない。

 けれど、なんだかそうしなきゃいけない……そうするべき……そうしたい気がしたから。


「そう……」


 またうつむいてしまう。液体魔力に舌を垂らしている。

 あまり魔力摂取に乗り気ではないのかもしれない。もう生きていたくないのかも。


 もう少し話がしたかったけれど、この様子だともう話してはくれない。無理に聞いても仕方がない。今は生きる気力はないかもしれないけれど、魔力をあげてればいつかは……もしかしたら……


 部屋の端に座って、残りの液体魔力を飲む。

 全部一気に飲むのはもったいないから、舌だけつけて少しづつ摂取する。少しづつ魔力が全身に馴染んでいく。


 魔力情報が魔力によって安定していく感じがする。魔力は全然足らないけれど、今日はこのぐらいで我慢。明日以降も生きていかなきゃいけないんだから。


 魔力消費を抑えるために、座り込んで動かずじっとする。

 またいつか、明日か、その次かにはまた外に出ないといけない。その時はどうしよう。また同じところに行く……?いや、多分もう魔力は無くなっていると思う。

 じゃあどこかに魔力を探しに行く……?それは見つかる前に、あの男に見つかるかもしれない。どうしよう。


 ……また明日考えよう。

 けれどこれからは彼女の分も探さないといけない。大変だけれど、私が助けた……助けたいって思った人だから助けないと。


「メムナ」


 彼女の声がする。

 ぱっと振り向くと、目が合う。


 こっちを少し顔を赤らめて見ている。


「私の……名前……それだけだから」


 またうつむいてしまう。

 でも……進展した。私に名前を教えても良い。そう思ってくれた。まだ名前だけだけれど、いつか、きっと。


 私がこの子を……メムナを助ける。助けて、生きたいって、生きても良いって思ってもらいたい。

 いつかデドが私にしてくれたみたいに。

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