咲いた絆

【咲いた絆】


 宇積咲弥うづみさくやには、なぎという腹違いの弟がいる。

 髪を染め、顔をピアスだらけにしていて、口も悪い。彼を悪く評価する者が多いだろう。

 それでも、咲弥は弟のことが好きだ。

 血が半分しか繋がっていなくても、大切だと思っている。例え、お互いに流れている血が忌々しい父親とのものだとしても。


「ただい──」


「貴方! もうやめて!」


「うるせえ!」


 帰宅した咲弥が聞いたのは、父親による母への暴言と暴力の音だ。咲弥は顔をしかめつつも、足を急がせる。


(薙……)


 共同の部屋に入ると、隅で薙が体を縮こまらせていた。


「咲弥……」


「薙、ただいま、遅くなってごめんな」


「いいけどよ……。んなことより、……これ」


 薙に手招きされる。

 咲弥が歩み寄ると、薙は掌を差し出し、ピアスを一欠片見せた。


「バイトして、買った。……親父には内緒な」


 薙は自分の耳元に指を当て、もう片割れを見せる。


「ずっと一緒な」


 咲弥は薙を抱きしめた。


 ──しかし、そのピアスは割れてしまう。


『事故……?』

「最近多いんですよね、あそこ。一命は取り留めたのですが……」


 透明になった咲弥は、慌てて薙に手を伸ばす。

 抱きしめようとしたが、指先からすり抜けてしまう。


『薙……』


 止まらない涙と共に、地面に膝を着けた弟には、もう声すら届かなかった。

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救えない話 青夜 明 @yoake_akr

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