12
腹部の激痛に、タケシはマミを止めることが出来なかった。
マミとジョーカーの指折りマッチがが始まる!!。それぞれがキャラクターを操り格闘を繰り広げるバトルゲーム。
マミは「フリージア」という女性キャラを選んだ。フリージアは真白のブラウスにエキゾチックな紫色のスカートを身に着け長い髪を後ろで一つにまとめている。モデルのように長身の女性だった。人目を惹くほど美しいが格闘バトルには向かなさそうなキャラだった。
一方、ジョーカーは「ボーナス軍曹」という筋肉質で巨漢の、明らかに強そうな軍人の男を選択している。
「お前、なんでそんな弱そうな奴を選ぶんだよ。シロウトなのかよ!!、このゲームやった事無いのか!?」
「…。」
ジョーカーの問いにマミは答えない。
「舐めてるのか、お前は!!」
怒号とともにジョーカー=ボーナスの強烈なパンチがマミ=フリージアを捉えた。
強烈な洗礼だった。マミ=フリージアの身体がはじけ飛んだ。ボーナス軍曹は素早い上に凄まじいパワーだ。無防備なところへ先制攻撃をもらってしまったため、たった一撃で体力のゲージが一気に50%まで減少してしまった。
「まだまだ!!」
続けざまにジョーカー=ボーナスの長いリーチの回し蹴りが飛んできた。辛うじてガードはしたが、それでも体力がさらに半分の25%にまで減少する。マミ=フリージアは数歩も後退していた。ガードの上からでもこのダメージだ。次に喰らったら…、あと25%体力を奪われたら負ける。バトル開始早々、もう既に後がない。
「おい、さっきまでの威勢はどうした!?。てめぇ、これで負けたらこの場で裸に剥いてやるからな!!、覚悟しろ!!」
ジョーカーの下品な言葉に、ヨシヲが
「ジョーカーさん!!、女は俺にくれるっていう約束じゃ…ムギャッ!」
そこまで言ったところでジョーカーに殴られ、何も言えなくなってしまった。こいつはもはや、馬鹿の域を超えている。
マミはそんな事気にもしないでパンチ、キックの素振りやジャンプを繰り返している。
「大体わかったわ、操作方法が。」マミ。
「それはギャグで言ってんのかよ!!」
ジョーカー=ボーナスはさらに畳み掛けた。ラスト一撃で勝負を決める気だった。
病院スタッフも、患者も、見舞い客も、そして〇×家の兄妹たちも、それぞれの思いを胸に戦いを見守っていた。
この指折りマッチはマミとジョーカーだけでなく、ここにいる者と〇×病院にかかわる全員の未来を左右する戦いなのだ。ジョーカーは「こんな病院ぶっ潰してやる!!」と言った。この勝負に勝てば勢いに乗ったまま病院を破壊しかねない。
実際に「ゲームセンター荒らしのジョーカー」は過去に幾つものゲームセンターを潰してしまっている。
〇×病院が潰されれば患者たちは行き先を失う。ここは総合病院だ。入院、外来、ともに膨大な数の患者がいる。医師、看護師、技師、スタッフも同じだ。膨大な人員が路頭に迷うことになる。誰もがそうならないことを願った。
しかし〇×病院はカズを筆頭とする〇×家によって守られてきた病院だ。人生に絶望したジョーカーこと〇×ジローにとっては忌まわしき憎しみの温床なのだ…。
〇×家の兄妹たちは、ジョーカーが堕ちていくのを止めることが出来なかったという負い目があった。もしあの時、皆で協力して父カズからノブコを守ってやれたなら、このような事態にはならなかったはずだ。それが悔やまれる。彼らはジョーカーの肉親でありながら、彼を止めることはできなかった。
今、圧倒的に不利な状況でも毅然とジョーカーに立ち向かう少女がいる。顔面を潰されてもなお戦おうとする、まだ高校生のマミという少女に全てを託すしかなかった。
次の攻撃を受ければ、マミ=フリージアはガードの上からでも確実にダメージをもらってしまうだろう。それほどまでにジョーカー=ボーナスのパワーは強力なのだ。次の一撃でマミの敗北は確定してしまう。両腕全ての指をへし折られた上、裸に剥かれるという仕打ちまでついてくる。
**
ジョーカー=ボーナスの攻撃がはじまった。パンチからキックにつなぐ連続技だ。これは素人にはかわせない。一撃目はかわせても二撃目はもらってしまう。たとえガードできてもダメージを受けてしまう。残りの体力が無くなった時点でマミ=フリージアは負ける!!
しかし、ジョーカー=ボーナスの攻撃はマミ=フリージアに当たらなかった。
マミ=フリージアは一撃目も二撃目も紙一重のギリギリのところだったが、連続攻撃を読んでいたかのようにかわしてしまった。
「チッ、まぐれか!!」
「…。」
さらに休む暇を与えずジョーカー=ボーナスの三撃目が来た。空気を裂くほどの右ストレートだった。一撃目、二撃目ともに紙一重だったのだ。間髪入れずの三撃目はかわせるはずがない。ジョーカー=ボーナスは勝利を確信していた。
だが、マミ=フリージアはその三撃目をもかわした。
顔面をパンチがかすめるほどの至近距離でかわし、さらにその距離からジョーカー=ボーナスにカウンターを叩き込んだのだ。
カウンターは相手の突進してくる勢いを利用して自分の攻撃力を倍増させる高等技術である。マミ=フリージアはこれを狙っていた。ジョーカー=ボーナスの攻撃を常に紙一重でかわしていたのは、攻撃直後の無防備なジョーカー=ボーナスに、カウンターを至近距離から叩き込むためだったのだ。
もしも失敗すれば確実にやられてしまう危険極まりない賭けだったが、マミ=フリージアの反撃が始まった。
「なっ、何だとぉぉぉ!!!、お前は一体何者なんだ!!!!?」
「私はただの女子高生、マミよ。」
ジョーカー=ボーナスの体力が10%減少していた。勝機がこちらに流れ始めている。
しかし、マミ=フリージアがジョーカー=ボーナスを倒すためには このカウンターをあと9回も繰り返さなければならない。手の内が知られてしまった今、危険すぎる!。
ジョーカーは絶叫する。
「俺は、裏ゲーム界の帝王ジョーカーだ!!。こんな女なんかに負けるわけがない!!、負けるわけがないんだ!!」
「いいから、かかって来なさいよ。」
その後のジョーカー=ボーナスの攻撃は一発も当たらなかった。
マミ=フリージアの動きはもはやバトルなどではなく、芸術的で華麗な『舞い』を見せられているようだった。それほどまでに美しく艶やかで、それでいて力強い。誰もが息を呑んだ。
そのマミ=フリージアを実際に操っているマミの手の動きも、ゲームのコントローラーを捌いているのではなく、超絶技巧曲を演奏するピアニストのように滑らかに軽やかに動いているのだった。
マミ=フリージアはまるで風の中の羽毛のように舞い、ジョーカー=ボーナスの攻撃をかわし、見事なカウンターを決めていく。
1発…2発…。
ジョーカー=ボーナスの体力が徐々に減少していた。
80%…70%…と。
**
マミがここまでやれるとは、誰も思わなかった。この場にいる全員が息を呑んで、この戦いを見守った。
「こ…こいつただ者じゃない!!。」
ジョーカーは焦っていた。
ジョーカー=ボーナスの攻撃が当たらない。どんな攻撃を繰り出してもマミ=フリージアは宙を舞うかのようにかわしてしまうのだ。
「ゲームなんて所詮は誰かが作ったプログラムなのよ!。そんな中でいい気になって、帝王だなんて…あんたも只の『裸の王様』よ!!。こんな勝負で人を傷つけたり、命令したり、支配したり…、まるで馬鹿げてる!。私はそんな物認めない、絶対に!!」
マミの両手は目にも止まらぬ速さで動いていた。コントロールレバーで、右回転と左回転を交互に繰り返し、幾つもあるボタンを高速タップする。
「私が…、裏ゲーム界を変える!!!!!」
マミ=フリージアの身体が竜巻の如く高速回転し渦の中からおびただしい数の手刀による打撃を繰り出していた。ゲーム機を操作するマミの両手は目にも止まらぬ速度でコントローラーを動かしボタンをタップし続ける。マミはフリージアの限界の技を引き出したのだ。
それは誰も見たことのない幻の大技だった。
ジョーカー=ボーナスの巨体は数メートルも宙にはね上げられた後、激しく地面に叩きつけられ凄まじいダメージを負った。ジョーカー=ボーナスの残りの体力が一気に40%も減少し、マミ=フリージアと僅差になった。マミ=フリージア25%VSジョーカー=ボーナス30%。これなら逆転も期待できる。
ジョーカー=ボーナスはふらふらと立ち上がる。
「変えさせるものか!!。ゲームは俺の唯一の誇り。そして、1番になれる世界なんだ!!ゲームこそ俺の生きる道、俺はこの世界で真の帝王として君臨し、支配する。この世界の頂点として!!!」
ジョーカーは絶叫した。
ゲームの残り時間がちょうど1分を切り、アラームが鳴り始めた。このまま時間切れになれば決着は判定となる。体力の残量が多い方の勝利となるのだ。
ジョーカー=ボーナスは更に攻撃を続ける。しかし、これまでの技の切れが無くなっている。
「頂点になることが、1番になることが、それほど大事なの??。それはアンタのお父さんの価値観でしょうが!!。自分の物差しで測りなさいよ!!」
軽やかに身をひるがえしたマミ=フリージアだったが、その時マミ側のゲーム機が突然放電した。
機械内部でショートし始めていた。マミの激しい操作にゲーム機が悲鳴を上げている。常人のレベルを遥かに超える動きにゲーム機は限界に達していた。
あちこちから高圧の電気が漏れ出しスパークしていた。
特に酷いのがコントロールレバーだった。電気が流れて真っ赤に焼け始めていた。これでは操作できない。レバーに触れた瞬間に大火傷してしまう!!
マミ=フリージアは動けなくなってしまった。不運としか言いようがなかった。ジョーカーが機械に細工していたとは考えにくい。
マミ自身の強さがゲーム機を破壊し自らの首を絞めたというのか…?
これは時の運なのか?、運命は味方にはなってくれないのだろうか…?
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