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「"帝王タケシ参上"か…、落ちぶれた今じゃぁ只の間抜けさ。」
街を歩く者達があちこちの落書きを見て笑った。
この落書きは全て絶頂期のタケシが書いたものだった。
以前はこれを見た全ての人々が震え上がったものだ。ここは帝王タケシのテリトリーである。それはいつタケシと遭遇してもおかしくないということを意味している。
あの"暴君タケシ"と遭遇する!!。裏ゲーム界の頂点に君臨し極悪非道の限りを尽くす『暴君』に!!。もしも目をつけられる様なことになれば…。指折りマッチを挑まれるかも知れない。断ることなどできない。手下どもに囲まれ逃げることも出来ない。戦えば負ける。常軌を逸した技で瞬殺される。
そして、無残に指をへし折られるのだ…!!!!
しかし、今では誰もが怯えるどころか「間抜け。」と罵り、落書きに唾を吐きかけて通り過ぎて行くまでになっていた。
無敵を誇ったタケシの力が消えてしまったのだ。何の前触れもなく突然に。
麗羅と名乗った占い師の言葉通りだった。
タケシのゲームに対する技術、センス、才能全てが一夜にして消し飛んでしまったのだ。ゲームセンターの旧型のゲーム機すらクリアーできなかった。以前なら一瞬でクリアーしてしまい詰まらなさ過ぎて腹を立てゲーム機を店ごと破壊してしまったシューティングゲームで既に63回も失敗している。しかも開始早々にである。
「なぜだ…。」
店の旧型ゲーム機の前でたった一人で冷や汗を流すタケシ。手下どもは誰一人いない。それを遠目に見ながら他の客達がニヤニヤと笑う。
タケシもそれに気づいていた。全員ぶちのめしてやる!!。指折りマッチでその指をへし折ってやる!!
…しかし、それはできなかった。
今、勝負すればどんなに弱い相手にも負ける。逆に指を折られる。そうなれば二度とゲームはできない。復活し、帝王に返り咲くことが出来なくなる。奥歯がギシギシと鳴った。耐えるしかないのだ、今は…。
突如としてゲームセンター内に笑い声が響き渡った。
「ぎゃはははは!!!、『帝王タケシ』も落ちぶれたもんだぜ、今では旧型のゲーム機にまで弄ばれてるとはな!!!!!」
客の中の1人でタケシのよく知る人物だった。
学校一の嫌われ者ヨシヲだ。強きを助け弱きを挫く。タケシが帝王として君臨していた時は自ら使いっ走りを買って出て機嫌をとっていた。しかし落ちぶれた途端に態度を変えてきた。そういう所が皆から嫌われる。
先日、ヨシヲは学校一のマドンナであるマミに告白して振られた。その一方で毎日マミに追いかけられ世話を焼いてもらえるタケシの事を逆恨みしている。馬鹿である。
そんなヨシヲに絡まれてタケシの怒りのゲージは一瞬にして沸点を越えた。
「ヨシヲ!!、てめぇ誰に向かって口きいてんだゴルア!!!!」
「口のきき方が気に入らねぇか?頭に来たか??、じゃぁ、このサッカーゲームで指折りマッチといこうか、ああ?」
「…。」
「なんだ、怖いのか(笑)!!。帝王タケシってのは、とんでもねぇ『いくじなし』だったんだな!?」
タケシの怒りのゲージは瞬く間に破裂した!。
「上等だヨシヲ!!!、指2、3本じゃ済まさねぇぞ!!!」
タケシの凄まじい怒号が響き渡った。とうとう乗ってはいけないヨシヲの挑発に乗ってしまった。
2人は対戦型サッカーゲームで勝負することになった。
**
ピィィィィッ!!
ホイッスルが鳴りサッカーゲームは勢い良く始まった。
タケシに喧嘩を売ってきたヨシヲは下手糞だった。そもそもパスが繋がらない。味方のいない場所にパスを出す。もしそこに味方がいたとしても上手くボールを取ることが出来ない。シュートで空振りをする。もしシュートを打てたとしても味方選手を直撃してしまい外れてしまう…。この程度のレベルでよく自信を持ってタケシに指折りマッチを挑んだものだと、その度胸に感心せざるを得なかった。
これでは勝負してくれる相手すらいないのではないかというほどのレベルだった。遊ぶ相手欲しさにタケシに喧嘩を売ったのか!?。だとすれば…、馬鹿である。
しかし、タケシはもっと弱かった!!!!!!!!!
自陣のゴール前で味方ディフェンスがクリアしたはずのボールが巨大なカーブを描き、そのまま自陣ゴールへ吸い込まれていった。オウンゴール!!!!!
ピィィィィッ!! 1-0。
キーパーが放ったゴールキックが真正面の味方の顔面を直撃し、跳ね返ったボールはまたも自陣のゴールネットを揺らす。オウンゴール!!!!!
ピィィィィッ!! 2-0。
追い詰められたタケシは大技に懸けるしかなかった。
「こうなったら、リーサルウェポン(最終兵器)だ。マグナム・ドライブ・マックス・タイガー…えーっと(噛んだ)、パンナコッタ・シュウウウウトォォォォォ!!!!!」
放たれたボールは高速回転し焔を纏っていた。大気を切り裂きソニックブームを巻き起こし、ディフェンス3名とキーパーを渦中に巻き込んだままゴールに突き刺さり大爆発を起こした。タケシは土壇場でとんでもない技を繰り出したのだ。観客は凄まじい大技に言葉を失った。これ程高度な操作技術を必要とする技は誰も見たことがなかった。幻と言われる技だった。
これが『帝王タケシ』と呼ばれる男の実力なのか!!!!
「見たか俺の実力を!!」
しかし、誰も何も言わなかった。複雑な表情をしていた。
反対だった。逆だ。方向が。攻める方向が!!!!!
そこは自陣のゴールだ。
タケシは自分のゴールに向かってシュートを放っていた。巻き込んだディフェンス3名は味方。ゴールキーパーも味方。破壊したゴールも自陣のものだ。
オウンゴオオオオオオオオオオオオオオオル!!!!!
ピィィィィッ!! 3-0。 ここで試合終了!!!!!
あっという間にゲームは終わってしまった。
負けた。ヨシヲが何もしないうちに、自らのオウンゴールのみで敗北した。こんな試合は見たことも、聞いたこともない。
タケシの心の中を風が吹き抜けていった。
「弱い、弱過ぎるぜ!!。こいつがあの帝王タケシなのかよ!!!。笑っちまうぜ!!!!。」
ヨシヲが大笑いし、それにつられて店内にいた客もどっと笑った。帝王タケシの時代は終わった。
そして…これからは『帝王ヨシヲ』の時代が始まるのだ。
帝王ヨシヲが口を開いた。
「タケシ、確か指2、3本じゃ済まさねぇんじゃなかったのか、おい?」
「…。」
ヨシヲが合図すると、何処からやって来たのかタケシの手下どもが現れタケシを押さえつけた。どんな試合内容であれタケシが破れた今、こいつらは帝王ヨシヲの手下となるのだ。これからは帝王ヨシヲの命令を聞くのだ。
これが裏ゲーム界に身を置く者達の宿命(さだめ)だった。
「お、お前ら、畜生!!」
押さえつけられたタケシは身動きできない。その状態で何処からか持ってきた鉄パイプの穴に指を突っ込まれた。このまま関節の逆方向に力を加えれば簡単に折れる。千切れるほどの激痛が走った。その時、
「お願い、待って!!!!」
店内に悲鳴にも似た叫び声が響き渡り、タケシの指に掛けられたパイプにかかる力が弱まった。まだ折れてはいなかった。
叫び声を上げたのはマミだった。たった今ゲームセンターに駆け込んできたところで、肩で荒い息をしていた。つい先日ヨシヲの事を振った女が懇願してきた。それを見たヨシヲの表情は凶悪犯罪者のごとく変貌した。
「マミちゃ~んじゃないか。指折りマッチの邪魔しちゃだめじゃねぇか?。やめて欲しいのか?。どうしようかなぁ。ああ、そうだ。お前が何でも言う事を聞いてくれるんなら、考えてやってもいいぜぇ?。」
ヨシヲは昂っていた。両眼の瞳孔が開ききっていた。この状況を利用すれば一度は振られたマミを自分のものにする事だって容易い。
「よせマミ、やめろ!」タケシ。
「お前は黙れ!」パイプに力をかけられた。またも激痛が走りタケシはそれ以上しゃべれなくなった。
マミが口を開いた。
「…くから。」
「ああ?、聞こえねー。」ヨシヲ。
「何でも言う事聞くから。」マミ。
「違うだろ!!。『何でも言う事をききます。』だろうが!!。」ヨシヲは再びパイプに力をかけた。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!」タケシの指が今にも折れそうなほど反り返る。あまりの激痛にタケシは絶叫していた。
「何でも言う事を聞きます!!。おねがいです、やめて下さい!!。」
マミの悲痛な叫びが響いた。
ヨシヲは鉄パイプを投げ捨てた。恍惚の表情になっていた。気の強いマミを屈服させることに快楽を覚えていた。このままではマミは何をされるかわからない。
「次の日曜、俺とデートしろ。その時のお前の態度でタケシをどうするか決める。言っておくが、今この時からおれが帝王だからな。逆らったりすればタケシはどうなるかわからないぜ。」
ヨシヲは笑った。ゲームセンター中に響き渡るほど大声で笑った。欲望の塊だった。帝王の力を使い、一度は振られたマミを力ずくで自分のものにしようとしている。
「忘れるな、次の日曜だぞ!!」
帰り道、タケシは何も言えなかった。
マミも何も言わなかった。
ただ二人並んで歩いた。そして、何も言わずに別れた。
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