ゲーム少年Takeshiの欲望
Yoshinari F/Route-17
1
ゲームの主流がまだゲームセンターだった時代。
子供から年寄りまで楽しめるゲーム社会。その光の射さない底辺に『裏バトル』が行われる『裏ゲーム界』が存在していた。
勝った者、強い者が絶対的権力を持ち支配する世界。
勝者が敗者を貪り喰う。文字通り弱肉強食の世界だ。
この『裏ゲーム界』は現代社会においてもタブーであり、親が子供を決して近づけたくない、まさに『ゲーム社会の世紀末』、暗黒のカオス社会だった。
裏ゲーム界に1人の少年がいた。
まだ高校生でありながら『帝王タケシ』と呼ばれていた。その腕前は鬼神のごとき技を繰り出し幾人もの強敵を打ち倒した。タケシは彗星のごとく裏ゲーム界に現れその圧倒的強さを見せつけた。誰一人として彼に敵うものはいなかった。
裏ゲーム界でデビューを飾ってからタケシはは敗北を知らない。まさに帝王の名にふさわしい経歴だった。
裏バトルを挑まれれば必ず受けた。そして完膚なきまでに叩きのめす。何人もの腕に覚えのある者たちが帝王タケシに挑み、そして葬られ裏ゲーム界の礎となっていった。
裏バトルの中には、負けた者の指をへし折る『指折りマッチ』なるものが存在した。パイプに指を差し込み関節の逆方向に力を加えるのだ。あっけない程簡単に折れる。指を折られれば二度とゲームが出来なくなり勝者の手下となる。どんな無理難題も拒むことも逃げることも許されない奴隷としての世界が待っていた。
タケシに指折りマッチを挑んだ者は、敗北後に帝王タケシの大勢の手下どもに押さえつけられ、まるで割り箸のようにその指をへし折られ手下となっていった。
町中のゲームセンターはことごとくこの帝王タケシの支配下に堕ちていた。
タケシは裏ゲーム界を恐怖のどん底に叩き落した。
この世界では強者であるタケシこそが正義。帝王タケシはこの裏ゲーム界を欲しいままに支配していた。
タケシの両親は既に諦めていた。海外出張と称し、タケシを残して長期間家を空けた。タケシが健全なゲーム少年に戻ることは不可能だとわかっていた。彼はゲームの暗黒面に堕ちたのだ。自力で抜け出す事などできなかった。裏ゲーム界の帝王として極悪非道の限りを尽くすだろう。
帝王タケシの恐怖による支配は永久に続く、タケシが死ぬまで…。人々はそう囁き合った。
**
数日前。放課後。
帝王タケシは十数人の手下を引き連れて駅裏の人通りのない寂れた路地を歩いていた。
たった今、駅近くのゲームセンターを壊滅させるほど荒らし回ってきた。タケシは有頂天だった。彼にゲームで敵う者はいなかった。タケシに敗れた者たちはことごとく彼に指をへし折られてひれ伏していった。手下となった。
爽快だった。タケシは裏ゲーム界の王様だった。彼に逆らえる者はいなかった。
そこへ、「タケシ、今日も学校サボったでしょう!!、卒業できなくなっちゃうじゃない!!」
同級生のマミが立ちはだかった。彼女は成績優秀で気が強く、タケシとその手下にも毅然とした態度で向きあった。その日も学校をサボり一日中ゲームセンターに入り浸っていたタケシに説教し始めたのだ。
彼女は瞳が大きく鼻は高く整った顔立ちで、背中まで伸ばした黒髪をポーニーテールにしていた。校内で男子生徒にも人気があった。
そして、タケシとお互いの家が隣同士、つまり幼馴染だった。
ここでマミの事を紹介しておく。
マミの両親は自宅の店舗で定食屋を営んでいた。タケシの家の隣である。小さくて古い定食屋だった。マミは毎日学校から帰ると店を手伝いをする。とても親孝行でかわいい看板娘だと近所でも評判だ。タケシも親がいない日はこの店で食事をした。忙しそうに店を手伝うマミを見てタケシはいつも感心した。これほどよく店を手伝っていながらも成績は常に学年トップクラス。しかも学校中の男子生徒を虜にするほど容姿端麗でちょっと気が強いけど性格も良い。
彼女の両親も優しくてタケシにとても親切にしてくれた。こんなにも不良でガラが悪くゲームにばかりうつつを抜かしているタケシにさえ優しい言葉をかけてくれた。
「タケちゃん、しっかり食べて栄養つけて頑張るのよ!。男の子はやんちゃなくらいが丁度いいんだからね。」
「そうだぞ、(ゲームでも)人間何か1つでも誇れることがあるというのは幸せなことだからな!。おっちゃんなんか何にも無くってな、はははは!」
「おっちゃんの定食、とっても旨い。誇ってもいいと思うぜ…。」食べながらタケシが答えると、
「いいこと言ってくれるぜ、ムスコよぉぉぉ!!。マミと結婚してうちのムスコになってくれよお~!」
「…!?」
「ちょっとお父さん、何馬鹿な事言ってんの!。タケシ、食終わったのなら早く帰って明日の予習やりなさいよ!。明日もサボったら承知しないからね!!」
大声を出すマミは耳まで赤くなっていた。マミの両親は笑っていた。
両親が度々海外出張で家を空けるタケシにとって、マミの家族は二番目の家族のようなものだった、のだが…
再び駅裏の路地にて。
「うるせえ、マミ。俺に付き纏うのはもうやめろ!。『帝王』の俺に学校など必要ない!。」
「何言ってんの!!、あんた一生ゲームの中で生きていくつもり?!。そこまで馬鹿だったの!!。」
「何だと!」
「ゲームなんて所詮は誰かが作ったプログラムよ!。そんな中でいい気になって、帝王だなんて…あんたなんか只の『裸の王様』よ!!!」
マミは学年でトップになるほど頭が良い。彼女の言葉は常に鋭い真実を語る。
「言わせておけば!!」
タケシは拳を振り上げた。頭に来れば女でも殴る最低な奴だ。
マミは目を閉じた。いくら気が強くても殴られるのは怖い。まして、タケシは握った拳で殴る気なのだ。
そんな二人の間にどこから現れたか赤い影がふわりと割り込んだ。
「いけないわ、男の子が女の子に暴力を振るうなんて。」
真紅の衣装に身を包んだ女性だった。アラビアの姫を思わせる衣装にヘッドベールとフェイスベールで素顔を覆い、ヘッドアクセサリー、ネックレス、イヤリング、ブレスレット、など様々な装飾品をつけている。とても幻想的で駅裏の寂れた路地には似ても似つかない出で立ちだった。
「私は麗羅。占いを生業としてる。」
その女性は麗羅と名乗った。
真っ赤なフェイスベールとヘッドベールの間から、睫毛の長い漆黒の瞳が何でも見透かすようにタケシ達を見ている。
「……」
タケシは拳を振り下ろせずにいた。麗羅と名乗る真紅の女性がタケシの拳の前に手の平を添えているだけだったが、蛇に睨まれた蛙のように全く力が入らない。タケシの手下たちも全く動くことが出来なかった。やがて向き合ったタケシとマミの間から彼女は風に舞う絹のようにふわりとマミの背後に回り込んだ。この状況下にあってもその動きはあまりにも妖艶で誰もが目を逸らすことが出来なかった。
マミの背後から優しく腕を回しその頬を細い指で妖しく撫でている。マミも動けなかった。
「こんなにかわいい彼女さんがかわいそう…。」柔らかそうな唇がゆっくり動く。しかしその言葉が麗羅の本心かどうかは判らなかった。
麗羅は若いのかどうかも判らなかった。ベールの間から覗くその漆黒の目とマミの頬を撫でまわす指だけが露出しているがそれだけでは手がかりが少なすぎた。
「彼女…じゃ、ありま…せん。」マミ。
「あら、お似合いだと思うけど…?」麗羅。
そして、タケシにしっとりと艶やかな視線を向けながら彼女は続ける。
「あなた、ゲームの達人ね?。今あなたに敵う相手はいないでしょう?。でもその運はこれまでよ。人間は一生の間に使える運の量は誰でも同じなの。今、全ての運を使い果たしてしまうとその先どうなるのかしら…、急激に衰えていくわ。」
訳の解らない事いう彼女に少しムッとしたタケシは
「何なんだよ…お、お前、金でも恵んで欲しいのかよ!」
そう言い返すのが精一杯だった。
「大切な事は伝えたわ。それでは御幸運を。」
麗羅がそれだけ言った時、駅裏の寂れた路地に一抹の風が吹いた。その一瞬の間に麗羅は忽然と姿を消した。まるで妖術でも見ているようだった。
その数日後タケシの身に異変が起こる。
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