第28話 死闘!セルジとバートル

 セルジを鍛えること約1ヶ月。 

 その日俺たちは、族長バゼルの住居で今後のことを協議していた。


「セルジは強くなりました、もう僕が教えることは何もありません」


「うむ…長きに渡るセルジの鍛錬、心より感謝申し上げる。レイン殿」


「本当にありがとう、レイン。お前は俺の恩人だ。この恩は必ず返すからな」


「いやぁ…僕はただのきっかけにすぎません。頑張ったのはセルジ自身ですよ」


 もはや以前のセルジとは別人と言ってもいい。

 魔法による身体強化はもとより、確固たるイメージに裏打ちされた水魔法は、目を見張るものがある。


「さて…あとは枯れたままの湖なんですが…」


 俺はあれから試しに何度か枯れた湖に水を注ぎ込んでみたが、やはり次の日には、湖は空っぽになってしまっていた。

 原因は未だ不明だが、このまま放っておくわけにはいかないので、それをバゼルやセルジと相談しようと思っていたのだ。


 しかしその時、テントの外から、緊迫したホランの声が響いてきた。


「…父さん、兄貴!!」


 んん?

 ホランの声がするが…。


 1人キョロキョロする俺とは違い、バゼルとセルジは落ち着いた様子でテントの外へ出ていった。

 俺も丸くなって寝ていたシロを突っついて、外へ出てみる。

 すると。


「そろそろ来る頃だろうと思ってたよ、バートル」


「あぁ。強くなったみてぇだな、セルジ。約束を果たしてもらいにきたぜ」


 そこに居たのは、相棒の地龍を従え、真剣な顔で仁王立ちするバートルだった。

 そして今日のバートルは、いつものブリヤート族の服装とは違い、全身に地龍を模したような、見事な赤い刺繍が施された、真っ白な服に身を包んでいた。


 黙ったままのバゼルやホラン。


「ねぇねぇホランさん、今日は誰かの結婚式かなんかですか?」


 小さな声で、こっそりホランに尋ねる俺。

 ホランはちょっと呆れたような顔をしながら、小声で答える。


「んなわけないだろぅ。あれはな、ブリヤート族の戦士が本気で闘う意志を示す時に着る服なんだよ」


「おぉ…ということは…」


「…バートルが、兄貴に真剣勝負を挑みに来たってことだな」


 そう言えば…。

 確か俺がここに来た最初の頃、バートルがなんかゲロ吐きながらそんなことを言ってたような気も…。

 いや、ゲロ吐いてただけだったか…?

 うーん、なんかゲロのことしか浮かんでこねぇや。


 しかし、ゲロのことしか思い浮かばない俺とは対照的に、セルジはしっかりと憶えていたようだ。


「わかった。俺も準備をしよう。中央広場で待っていてくれ」


「あぁ。待ってるぜ」


 そう言い残し、テントの中へ入っていくセルジと、その場から立ち去るバートル。

 

 あの勝負服をセルジも着るのか。

 いやぁ、いいなあの服。

 ここぞという時の一張羅があるのは羨ましい。


「バートル…」


 マッチョバゼルは中央広場の方へと歩いていくバートルの後姿を見つめていた。


 その時、セルジが何か思い詰めた様子で、再び外に出てきた。


「ホラン!大変だ…!」


「ど…どうした兄貴…!?」


 ホランは緊張した面持ちで尋ねるが…。


「俺の服…どこにしまったかな…?無いんだが…」


 おーい、そこの地龍くん。

 セルジの頭1発どついてやってー。


 ※※


 広場の中央では、既に準備万端という風なバートルが待ち構えていた。

 ただならぬ雰囲気に、集落の人々もなんだなんだと集まり出している。


 そしてバートルと同じ服装に身を包み、地龍に乗ったセルジを先頭に、バゼル、ホランそして俺とシロが続く。


 …先程勝負服をないがしろにしたセルジの頭には、バゼルのきつい拳骨が落とされたことを付け加えておこう。

 あれは見ているだけで痛かった…。


「…来たな」


「ああ…」


 地龍から降りたセルジは、バートルと向かい合って立つ。

 セルジの地龍は、ホランがバートルの連れていた地龍の側へとつなぐ。


『ゲギャァ』

『ゲギャギャ』


 2頭の地龍は何かコミュニケーション?を取っているのかな?

 まあご主人たちと違って、やり合おうって雰囲気ではなく、仲が良さそうで安心した。


 そして対峙する2人のもとへ、バゼルが歩み寄る。


「我らブリヤート族の正装をした両名、一族の決闘に臨むということで異論はあるまいな」


「はい」


「おお!」


 決闘…。

 成程、あの勝負服はそういう意味合いがあるのか。


「では承知していると思うが、掟に則り説明する。原則武器の携帯はなしとする以外に禁則事項はない。互いの全存在を賭け、全力で衝突せよ。以上だ」


 おいおい、マジかよ?

 目潰しや金的、なんでもありなんか?

 下手したら死にかねんぞ?

 だからこその勝負服なのか…。


 ハラハラする俺をよそに、バゼルは続ける。


「では汝バートル、勝利した際の望みを此れへ」


「へっ…俺の望みは、次にこのブリヤート族の族長になることのみよ!!」


 バートルは天高く拳を突き出し、吠えた。

 物凄い気合いの入りようだ。


 周囲がどよめく。

 ホランも心配そうな表情でそれを見つめる。


「相違ないな?」


「おうよ。あとよ、負けた時はこの集落から出て行くし、金輪際ブリヤート族であることは名乗らねぇ」


 バートルの不退転の決意。

 セルジは眉間にシワを寄せ、厳しい表情でバートルを見る。


「全て承知した。では続いて、汝セルジ…」


 そうバゼルが続けようとした時だった。


「…もういいぜ族長。…俺はこの日をずっとずっと待ちわびていた。いやぁ、長かったぜ…」


 バゼルが片眉を上げて、バートルを見る。

 ルール説明を遮られたバゼルの額に青筋が浮かぶ。

 ひぇ…。


「…今はセルジに問うているのだが…?」


 バートルはバゼルの威圧に怯むことなく続ける。

 いやぁ、俺ならバゼルにあんだけ睨まれたら、すんません!自分めちゃ勘違いしちゃってました!ってジャンピング土下座もんだな。


「俺が勝てば次の族長は俺。負ければ出て行く…それでいいじゃねぇか…。なぁ、セルジよぉぉ!!!」


 ズダン!


 突然バートルは猛然と駆け出し、セルジの方へ突進する。

 これには流石のバゼルも意表を突かれたようだ。


「…ま…待たんか!バートル!?」


 俺も咄嗟にセルジを見るが…。

 あいつ全然身体強化してないぞ!?

 んな状態でぶん殴られたら…!


 しかしセルジは微動だにしない。

 あくまで自然体で、バートルを見ている。

 そして…。


 バキィ!!

 ガッシャァーン!!


 バートルの右手ストレートを顔面にまともに食らったセルジは、物凄い勢いで後方に吹っ飛び、そのまま倉庫として使われているテントに突っ込んだ。


 おいおい…。

 だ…大丈夫か…?


 バゼルはセルジが吹き飛ばされた方をじっと見つめている。

 ホランを始め、集落の人々もどよめいた。

 中にはバートルの不意打ちを非難する声も…。


 しかし周囲のざわめきの中、バートルは少しも笑うことなく、拳を突き出したままの姿勢でこう言った。


「…来いよ。強くなったんだろうがよ…」


 カラン…。


 小さな物音が鳴る。

 衝突の勢いで破壊されたテントからだ。


 そこにはセルジが立っていた。

 殴られた左頬は腫れて青くなり、口は痛々しく切れて血を流している。


 それでもセルジはしっかりとした足取りで、再びバートルの元へ。

 バートルもその様子をじっと黙って見ている。


 次に口を開いたのはセルジだった。


「バートル…この最初の1発。俺はどちらにしても受ける気だった。全ては俺の弱さが招いたことだからな…」


 バートルはニヤリと笑う。


「はっ!それは殊勝なこったな!…で?このまま俺に負けて族長の座を譲ってくれんのかよ!?」


「ぺっ!」


 セルジが赤い血のまじった唾を吐き出した。

 げげ…歯が折れとる。


「すまないが、それはできん」


 そう言った途端。

 セルジは、自身の身体の隅々にまで無属性魔力を行き渡らせ、肉体の強化を図る。

 その魔法行使の様子には何の違和感もなく、淀みなく、極自然に行われていた。


 …おぉぉぉ!!

 セルジの身体がどんどん魔力で強化されていく!

 うんうん、よくぞそこまで…。

 おっちゃんは嬉しいぞ…。

 まるで巣立っていく雛を見る親鳥のような気持ちだわ…。


「俺は族長の息子として、次代の族長を継ぎ、ブリヤート族に尽くしていかねばならん…」


 セルジが腰を深く落とす。

 いよいよもって闘いの姿勢だ。


「来い!バートルーーー!!」


 セルジの雄叫び。

 雄々しく、猛々しく響く叫び声。

 その声に族長バゼルやホランを含め、その場にいた全員が戦慄した。

 それもその筈。

 これはもはや気合いの叫びなとではなく、無属性魔力の乗った、凄まじい「威圧」だ。


 それは相対するバートルも例外ではない。

 セルジの強烈な威圧に驚愕し、尻もちを着かないように、辛うじて耐えている。

 加えてバートルからすれば、1ヶ月前とは別人のようなセルジの様子に、驚きを禁じ得ないのだろう。


「…へっ…へっへっへ…。ちったぁやるようになったじゃねぇかよ…?あのお坊っちゃんとの特訓の成果ってわけか」


 バートルが俺の方をチラ見してきた。

 俺は笑顔で手を振り、にこにこと愛想を振りまいておく。


「んじゃまあ、その特訓の成果とやらを……篤と見せてくれやぁ!!」


 闘いの口火を切った先程の一撃に勝るとも劣らない勢いで、再び猛然とセルジに殴りかかるバートル。

 だが。


 パシィ!


 その場にいた全員が、再び言葉を失う。

 それは確かに、強靭な地龍でも吹っ飛びそうな、バートルの渾身の右ストレートだった。

 俺もそう思った。

 しかしセルジは…。


「か…片手で…止めただとぉ!!?」


 あまりの事態に絶叫するバートル。

 しかしセルジは、そのまま落ち着いた様子でバートルに告げた。


「武器を…お前の自慢の斧を持ってこい、バートル。…このままでは差があり過ぎる」


「…な…なんだとぉ…!?…うぐぐっぐ…!」


 セルジの言葉に怒りを覚えるバートル。

 しかしその怒りよりも、自慢の腕力を涼しい顔で押さえ込むセルジに対する理解が追いつかない。


「武器を持って来い?差があり過ぎる…!?大きくでやがったなセルジィ!!…いいぜ…望み通りぶった切ってやるぜ…!!…いいんだなぁ、族長!!?」


 バートルは怒りの形相でバゼルを見る。


「うむ。双方の合意があれば、わしに異論はない」


 バゼルが静かに頷くと同時に、セルジはバートルの拳から手を離した。


「上等だぜぇ…!!」


 バートルはそのまま自分の相棒の地龍の元へと駆け寄り、鞍に括り付けていた自慢の斧を取った。


 その時、セルジとバートルの地龍たちをよく見ると、仲睦まじく、お互いの体を寄せてじゃれあっていた。


『ゲギャ!ゲギャ!ゲギャ!』

『ゲギャーん、ゲギャーん』


 緊迫感の中、突然目に入ったその光景に、皆が顔を背けて笑いを堪えている。

 審判役のバゼルも必死に笑いを堪え、逆に面白い顔に…。


 ぶぷっ!

 我慢できず、盛大に吹き出してしまった俺。

 ごめんバートル、これあかんやつや!

 我慢するのは無理!


 バートルは顔を真っ赤にし、いよいよもって鬼のような形相に。

 まあまあ…そんなに怒らんでも。

 地龍たちには地龍たちの都合があるさ…。


「ちぃ…イイ気なもんだなぁ…お前らはよぉ…!」


 そう言うとバートルは、再びセルジの方へと向き直り、猛然と走り出した。


「来い、バートル!!」


 セルジはさらに魔力で身体を強化する。


「うおりゃぁ!!喰らえセルジーーー!!」


 バートルはその巨体に見合わない跳躍力で、空中へと飛び上がる。


 誰もが息を飲んだ。

 しかし、誰1人として目を逸らさない。

 男と男、いや漢と漢の真剣勝負だ。


 俺はバゼルやセルジをはじめ、集落の人たちに光の治癒魔法を行使できることは伝えていない。

 故にセルジが、俺の治癒魔法を期待してバートルに斧を持ち出させたわけではない。


(セルジは算数全般はちょっとアレだけど、馬鹿じゃあない。ならこれは、きっとそういうこと・・・・・・なんだろう)


「兄貴ー!!バートルー!!」


 悲鳴にも似たホランの絶叫がこだまする。


 グワシャアン!!


 鈍い金属音が響く…。

 バートルの斧の一撃は、確実にセルジの額を捉えていた…かに見えたが。


 ポタ…。

 ポタ…ポタ…。


 セルジから滴り落ちる、真っ赤な血。

 誰もが勝負は決したと考えた。

 

 …いや、正確にはそう錯覚・・していた。

 なぜなら。


「そんな…馬鹿な…!?…斧が…通ってねぇ…!!」


 バートルは今日何度目の驚愕だろうか。

 今日だけでもう一生分驚いたのではないだろうか。


 なんとバートルの斧は、セルジの頭を砕くどころか、クロスした両腕でガッチリとガードされ、腕の薄皮1枚を切ったに過ぎなかったのだ。


 俺も思わず安堵のため息を漏らす。

 …にしても無茶するなぁ。

 大丈夫だろうとは思ってたけど、俺も当たる瞬間、思わず拳に力が入っちゃったぜ…。


 ポロ…。

 ガシャン…。


 バートルは思わず斧を取り落とした。


「こちらの番だ。行くぞ、バートル。これが俺の特訓の成果だ」


 そう呟いたセルジは、右手をゆっくりと前に出し、そして二の腕辺りに左手を添えた。

 以前のような魔法詠唱はしない。


 キュイイイイ……!


 セルジの右腕に見る見る魔力が集まって来る。


 さぁ、セルジ。

 訓練の集大成を見せてやれ!


「ま…待て!何をするつもり…」


 バートルは後ずさる。

 周囲の人間も、もはやセルジが何を巻き起こすかわからず、身構えた。


「イメージは怒涛の水流…!喰らえバートル!!…ナイアガラの川下り!!」


 ドッバシャアァァァ!!!


「ぐわあぁぁぁ…!!?」


 セルジの右腕から、物凄い勢いで繰り出される水流。

 名前はちょっとアレだけど、威力は本物だ。

 激流が直撃したバートルは、そのまま勢いよく集落の囲いを突き破り、外まで吹っ飛んでいった。


「…そ…そこまで!!勝者セルジ!!」


 うわあぁぁぁぁ!!!


 大きな歓声と拍手が巻き起こった!


「すごいじゃないか、セルジ!!」


「いつの間にあんなに強く!?」


「すげぇや!セルジ兄ちゃん」


 次々にセルジへ贈られる拍手、そして喝采。

 だがセルジはそんな祝福の声には目もくれず、その歩みをゆっくりとバートルの方へと向ける。

 そしてセルジは、倒れていたバートルの側へしゃがみ込むと、ゆっくりとその身体を持ち上げた。


「…な…なんだよ…敗者を笑いに来たのかよ…」


 息も絶え絶えのバートルは、それでもセルジに憎まれ口を叩く。

 だが、セルジがそれに怒る様子は無い。

 いや、寧ろ…。


「バートル…これまで本当にすまなかった…。俺が不甲斐なかったばかりに…」


「勝ったくせに、なに泣いてやがんだよ…相変わらずダメな奴だぜ…お前はよぉ…」


「あぁ…そうだとも…俺がダメダメだったから…弱かったから、お前に迷惑を掛けっぱなしだった…」


 セルジの目は涙に溢れていた。

 そして両目から頬を伝って流れ落ちる。


「…知るかよ…俺はただ…うぐぐ…自分の強さに酔って族長になろうとした、ただの謀反人だぜ…?約束通り、敗者はさっさとここを出て行くさ…」


 その時。

 1つの影が、セルジの向かいにしゃがみ込んだ。

 ホランだ。


「バカバカバカ!バカバートル!!…あんたが自信をなくした兄貴を励ますために…ぐすん…いっつも喧嘩売ったり憎まれ口を叩いたりしてたのは…みんなみんな知ってんだからなぁ!!…ぐすん…ぐすん…なのに…なのに1人で全部自分で背負い込もうとして…ぐすん……このあほ…!…うわぁーーん!!」


 セルジに抱えられたバートルの胸の上に寄っ掛かり、大泣きを始めたホラン。


「…なんだと…バレてただと…!?そ…そうならそう言いやがれ…!俺1人で喚き散らして、悪態ついて…俺が…馬鹿みてぇじゃねぇか…!!」


「だからバカバートルだって言ってんだろ!!うわーんうわーん!!」


 そして最後に族長バゼルがその場へ立った。


「…うぐっ…族長よぉ。最初に伝えたよな…?俺は闘いに負けた…セルジの奴も強くなった…もはや思い残すこともねぇ…早々にここを出て行くぜ…」


 セルジの手を払い除け、フラフラながら、自ら立ち上がるバートル。

 そこでセルジが小さく口を開いた。


「父上…いや、族長…。俺は闘いに賭ける望みをまだ伝えていない…」


 バゼルはその言葉に頷く。


「うむ…汝セルジよ、勝利した後の望みを此れへ」


 セルジの両眼から、再び涙があふれる。


「俺は…やっと…やっと少しだけ強くなれた…こんな俺を鍛えてくれたレイン、目標であり続けた父上、強く優しいホラン…集落のみんな…そして…」


 ぽんっ


 セルジはバートルの肩に手を置いた。


「…俺なんかを見放さず…バートルが声を掛け続けてくれた…!」


 バートルの両眼からも止め処なく涙があふれる。

 あ…俺も目から水が…。


「だから…俺は…俺が望むことは、これからもみんなで…このブリヤートの大草原で、助け合って生きていくことだ…」


「うむ、承知した。バートルもよいな?」


 バゼルの声はとても優しい。

 成程。

 バゼルのその目は、息子2人を見る目そのものだな…。


「へへっ…。ほんっと、甘ちゃんばっかで困るぜ…。こんなに甘い奴がいつか族長になるってんなら、俺が側で護ってやらねぇとな…危なっかしくて見てらんねぇぜ…」


「…あぁ、頼んだぞ…バートル」


 そう言ってセルジはバートルに握手を求め、手を差し出した。

 その手を取ろうとするバートル。


 誰もが死闘を終えた若い2人を祝福した。

 ブリヤートの一族はきっとこれからも大丈夫、誰もがそう思った。

 もちろん俺だってそう思ったさ。


 …そう思って…油断してた…。


『ゲギャア…!!』


 少し離れた場所で、バートルの相棒の地龍がけたたましい声で叫ぶ。

 その瞬間の出来事だった。


「あぶねぇ!セルジ!!」


 咄嗟にその場からセルジを突き飛ばすバートル。


 そして、赤い血飛沫が舞う。

 それはあたかも、霧雨のように。

 

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