第19話 相談

 週末、麦が調整してくれた事もあり、僕らは桐島カップル含め六人で遊びに行く事になった。


 だけど三組の内二組は仮という状況。不安が無いわけでは無かった。僕は牧村が出てくる駅の改札口の前の狸のオブジェの前で待っていた。


「佑、待ってた?」

「今来たところだよ。でもわざわざ先に待ち合わせする必要ってあるのか?」

「もう、佑はカップルというのを分かってないなぁ……普通は二人の時間を過ごしたいんだよ?」


 そういうものかと、納得する。

 すると牧村は僕の方をチラチラと見てきた。


「どうしたの?」

「別に、私服で会う事はほとんど無いのに何もないんだ?」

「えっ、何? 何か必要だった?」

「だめだこりゃ……佑、あんたモテないよ?」


 今更モテないとか言われても「そうだ」としか言えない。だけど、彼女の私服はピッタリとしたデニムにTシャツ、キャスケットの色が綺麗だ。


「服、似合ってるね」

「今更遅いんですけど?」


 なるほど。カップルらしいというかめんどくさいというか、でも嫌いじゃない。


「佑はバンドTシャツとかブレなさすぎでしょ?」

「一応オシャレしてきたつもりなのだけど」

「らしくていいんじゃない?」


 ドンッ!


 背中に衝撃が走ると、聞き覚えのある声がした。


「おいおい、お前らいい感じにカップルしてるじゃねーか!」

「麦!?」

「何驚いてんだよ? とりあえずの待ち合わせ場所なんて大体被るだろ?」


 確かに、駅前で目印になる所なんてそんなに沢山ある訳では無い。


「あれ? 小春は?」

「あいつはアレだ、うんこだ!」

「誰がうんこよ…………麦、変な事言わないでくれる? 化粧直してただけなんだから……」


 そう言って現れた小春はそこまで怒っている様子はない。しかし、何処か気合いが入った様に女の子らしい格好をしていた。そのすぐ後に牧村を見ると彼女はニシシと笑っているのがわかった。


 僕らは意図せず揃い、待ち合わせの場所に向かう。普段と違うのは、話しながら行く相手が剥きではなく牧村という事だ。


「あの二人なんだかんだでいい感じじゃない?」

「そうかな? 普段通りに見えるけど……」


 確かに小春は明るくなった。しかし、どちらかというと元に戻ったと言った方がいい。


「おやおや? まだ未練があるのかな?」

「未練って。まぁ気にならない事は無いけど、僕には花音がいるしね」


 彼女は少し驚いた様な顔をしたが、特にはなにも言わなかった。距離が近い牧村の横顔はまるでドラマの主人公の様にみえる。


 ふと、僕は自然と彼女と手を繋ぐとニヤニヤして聞いてきた。


「なに? 好きなの?」

「この方が自然だろ?」

「まぁ、そういう事にしておいてあげる」


 いつからだろう。彼女の事を警戒しなくなったのは……思い返せば、いつの間にか近い存在になっていた。


 まるで──。


「おはようございまっす!」

「おはよう桐島!」

「おはようございます?」


 まるで今からライブの準備をするかのように、桐島と合流する。唯音も以前見た時とはちがい少し柔らかい雰囲気に見える。


「すみません、なんか巻き込んだみたいになってしまったすね」


 桐島は申し訳なさそうに言う。そんな彼のどことなくぎこちない雰囲気は最初に会った時のイメージとは違い好感がもてた。


「それでどうする? 六人いるしバスケでもするか?」

「いや麦、ここじゃ使える体育館とか近くにないと思うけど?」

「俺、あまり運動系は苦手なんすよね……」

「桐島〜、人生半分は損してるぞ?」


 僕はバスケでも良かったのだが、半分というのには共感はしない。だけど桐島はあまりスポーツは得意では無いのだと知ることが出来た。


 すると、タイミングを見計らった様に小春がたずねた。


「ねぇ、二人は普段どんなところにいくの?」

「俺らっすか? 買い物とか、ご飯行ったり……そうそう、カラオケとかすかね?」


 意外と普通なのかと思っていると、牧村と唯音が何か話している。


「ん? どうしたの佑」

「いや、思ったより似てないんだなと……」

「二人で居るとそれはよく言われる。あたしはお母さん似だからねぇ」

「お姉ちゃんの方が可愛いっていいたいわけ? まぁ事実だけど……」

「いや、美人姉妹だと思うよ?」

「恋人の前で妹を褒めるのはどうかと思う」


 唯音が本領を発揮し始めたと思うと、桐島が口を挟んだ。


「唯音、今日は一緒に遊びに行くんだぞ?」

「わかってるよカズ君……」

「なんかすみません、唯音は花音さん大好きなんで嫉妬してるんすよ」

「なるほど、それで……」

「うるさい、もういいってば」


 桐島も僕が気にしていない事がわかったのか苦笑いすると、唯音を繋ぎ止める様に手を握った。


 僕らはとりあえず近くのファーストフード店に向かい、何か飲みながらどうするか話す事にした。


「麦……どこ行くとか決めてなかったのかよ?」

「は? まさかバスケしないとは思わねーだろ?」


 なるほど……彼はバスケしか頭に無かったわけか……。


「二人は付き合い長いんすか?」

「うん、中学の部活が一緒だったんだよ」

「そういうのは、なんかいいっすね」

「俺は二人の方が気になるけどな?」


 すると桐島は唯音の顔をチラリと見た。


「路上でライブしてた時に知り合ったんすよ……声かけてくれて」

「それで惚れたわけだ?」

「ま、まぁ……」


 桐島は顔を赤くすると、唯音も同じくらい赤くなっているのがわかる。


「わかるぜ、いきなりこんな子に声かけられたらテンションあがるよな! ってイテテ……小春なにすんだよ!」

「テンション上げられた記憶無いんだけど?」

「そりゃまぁ? 小春だし? ちょっとだから痛いって!」


 小春は事ある毎に麦をつねっているのがわかった。


「お二人も仲いいんすね!」

「まぁ、付き合いは長いしな」

「そういえば、宮園さんは最近なんすよね?」

「あ……うん」

「なにかきっかけがあったんすか?」


 仮なのだけど、こう言った質問の返しを考えてはいなかった。


「きっかけっていうか……気付いたら?」


 事情を知る麦は笑いを堪えている。僕は助けを求める様に牧村の顔を見た。


「あたしが佑を好きなんだよ」

「えっ?」

「うおっ、さすが姉さんっすね!」

「話しやすいっていうのもあるけど、あたし自身結構周りを巻き込みがちなんだよねー。でも、佑は「仕方ないなぁ……」って巻き込まれながらと笑って許してくれる」

「なんとなくわかるっす!」

「でも、周りを考えていたり芯は持ってたり……」


 牧村、そんな事思ってたのか?

 これが思いつきで話しているならとんでもないペテン師だというくらいに説得力がある。


「まぁ、佑はそういう所あるよな!」

「麦までそんな」

「流されやすいって言ってんだよ」

「それはあるかな?」


 牧村と釣り合わない事くらいはわかっている。だけど彼女の言葉で、いつも近くにいてくれる理由がわかった気がした。


「いきなりこんな事を言うのはアレなんすけど……」


 桐島の空気が変わり、彼は深刻な顔をする。


「どうした?」

「相談っていうか、相談なんすけど……」


 彼は何かいい出しにくい事でもある様な口ぶりで、少し下を向く。


「なんだよ、深刻な顔しやがって。早く言えよ?」

「うんうん、とりあえず言うのはタダだしね!」



「俺……文化祭出れなくなったんすよ……」



 その瞬間、僕は夢の記憶と繋がる。曖昧に感じていたものがリアルになる不安で、背筋が凍りつく様な感じがした。

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