第4話 ここででるの?
「あのさぁ、男と二人乗りとかして彼氏とかに怒られたりしない?」
「なに? 気になるの?」
「いや、後で呼び出しとかされたら嫌なだけ」
「ふうん……」
彼女はそう言って少し黙ると小さな声で言った。
「彼氏はいないよ。だから安心して?」
「えっ? そうなの?」
「そこ驚く話?」
「いや、だって彼氏とかいっぱい居そうだし」
薄いシャツ越しの腰の辺りに激痛が走る。
「イタタタ……何するんだよ」
「いっぱいって、デリカシーなさすぎ」
「あぁ、ごめん」
「はい、ここでストップ!」
コンビニの前に着くとそう言って、牧村は飛び降り小走りで中に入る。すると両手にペットボトルを持ち、直ぐに出てきた。
「はい!」
「なにこれ?」
「コーラ、バンドマンはみんな好きでしょ?」
「いやそれ、すごく偏見だとおもうよ?」
じっと僕の方を見る牧村と目が合った。
「まぁ……好きだけど」
「やっぱりね! 送ってくれたお礼だからきにしないで!」
「……ありがと」
ちょっといい奴かも知れないと思い、つくづくちょろい人間なのだと実感する。彼女に貰ったコーラを吹き出さない様にゆっくり開けて口に含む──。
「西村さんの事好きでしょ?」
「ブフッッ!! ちょっと、いきなり何いいだすんだよ!」
「ほほう、図星ですかな?」
「小春とはそんなんじゃないよ」
好きかと言われたら好きだ。だけど、記憶の中であの日彼女は来てくれなかった。
「じゃあ西村さんは麦くんの事が好きなの?」
「いや、多分それは無いと思うけど……まぁ、麦も世話の焼ける妹位にしか思ってないだろうし」
別に仲は良い方だと思うけど、恋愛とかでは無い様に思っている。すると彼女は表情をゆるめ肩を叩いた。
「良かったぁ」
「えっと……話が読めないのだけど、何が?」
「麦くん、カッコいいよね!」
「まぁ、アイツはカッコいいよ」
「そうじゃなくて、フリーなんだよね?」
彼女のその言葉で僕は察した。牧村は麦の事が気になっているのだろう。さらにいえば、僕にどうにかしろと言っているのだと分かった。
駅までの道で、僕の予想は正しかったのだと我ながら感心した。
もうすぐ夏休み。
学校で会えなくなるのを防ぎたかったのだろう。
「宮園は西村さん、あたしは麦くん。ちょうどよくない?」
「まぁ、何が丁度いいのかはわからないけど普通には攻略出来ない奴だから協力するよ」
「本当に?」
「うん。ただ、こう言うの苦手なんだよなぁ」
牧村がどうやって小春とくっつけてくれるのかはまだわからないが、学校の人気者の彼女と秘密を共有しているのは色々と役に立つと思った。
屋上の彼女を見つけた時も、バンドが知られて居なかったとして牧村ならきっかけになると思う。駅前送った後、僕は彼女と連絡先を交換した。
次の日、曲については調べても見つからなかったことを二人に伝えた。
「なるほど、余計に問題は無くなったわけか」
「それで、夏休み中に纏めるの?」
「うん、一回作ってみようかなとは考えている」
普段通りのバンドの話。だが僕の頭の中では、どうやって牧村を遊びに誘う話にするか必死で考えていた。
「夏休み先生にも借りれるように言っておかないとだね!」
「そうそう、夏休みなんだけどさ……」
「夏祭りいかね?」
話を切り出す前に、麦が差し込んでくる。
「夏祭り?」
「7月の終わりにあるだろ? 高校生最後の夏だぜ、祭り位行っとかないと良い曲も書けないだろ」
記憶の中でも夏祭りに行った記憶がある。三人で出店を見て花火を見に行った。確かに曲を作るためにも良い刺激になると思う。
「それなんだけどさ……」
「なんだよ佑、僕は止めとくとかいわないよな?」
「いや、そうじゃなくて牧村呼ばない?」
「えっ、牧村さん?」
麦よりも小春が反応する。
「あ、いや……小春も女の子いた方がいいかなって。牧村も小春と仲良くなりたいみたいだし」
「そうなの?」
「俺は別にいいけど、そんな話いつしたんだよ?」
「……昨日の帰りに」
そう言うと麦はニヤリと笑い「なるほど、そしたら呼んどいてくれよ」と軽い口調で言い小春に見えない様にサムズアップした。
いや、コイツ何か勘違いしてないか?
進捗の報告として夏祭りの事を牧村にLINEで伝えると、サムズアップした猫のスタンプが直ぐに返ってくる。どこか麦に似た反応に少し微笑ましく思え、これで彼女との約束は果たしたのだと安心した。
「そうそう、四人で行くなら久しぶりにバスケやらね?」
「夏祭りの前に?」
「だって、夕方まで暇だろ? 牧村も運動神経良さそうだし丁度いいんじゃないか?」
僕と麦は、中学生の時に部活が同じという形で出会った。あの頃はまだ音楽にものめり込む前だった事もありバスケットが全てだった。
麦はミニバスの経験があった事もあり、部活内ではエース的な存在だった。そんな彼と高校ではバスケを辞めて一緒にバンドをしているというのは当時は全く予想出来なかった。
「準備あるだろうし、一応牧村にも言っておくよ」
「おう、夕方一旦帰るのもアリだな!」
麦は久しぶりにバスケが出来る事でテンションが上がっていた。後はどうやって牧村とペアを組ませるかが重要だが、夏祭り前にスポーツする事で麦は話しやすくしようと考えているのだろう。
その事も含め牧村にLINEを送り、ひとまずは順調に進んでいるかに見えた。だが、その様子を見ていた小春と目が合う。
「佑、牧村さんの連絡先知ってるんだ?」
「こないだ交換したんだよ」
「そうなんだ……」
何? なんで小春が気にするんだ?
「牧村さん、かわいいもんね」
「何か気になる事でもあるの?」
「別に。ただ本当にわたしと仲良くなりたいのかなって思っただけ」
もしかして、彼女は嫉妬しているのだろうか?
いや、そんな事は無いと思う。ただ少しだけ、知らない人が増える事が不安なのだろう。
小春の事が気になっている中、放課後牧村にLINEで呼び出されてしまう。
「あんた西村さんにあたしが仲良くしたいって言ったわけ?」
「だって、他になんて言えばいいんだよ」
「そんなのあたしの行動が伴ってないんだから疑われるに決まっているじゃない」
牧村の言う通り、彼女は一言も小春の事には触れていないし、練習を見に来たときも全く話して居なかった。
「あの子には別に恋愛感情は無いかも知れないけど、仲のいい男友達が他の女の子連れて来たら良くは思わないと思うよ」
「……ごめん。そこまでは考えていなかった」
牧村はやれやれと言った表情で、自転車置き場の僕のチャリに跨った。
「それ、そのまま乗って帰る気じゃ無いだろうな?」
「フフフ、乗っていいよ?」
「これ、僕のチャリなのだけど……」
何も考えず、後ろに乗ろうとした瞬間。彼女の背中が見える。ブラウスが少し透け、ブラジャーの肩紐が見えると僕は乗るのを躊躇った。
「何してんの? 早く乗りなよ?」
「あ、いや……僕が後ろなわけ?」
「気にしてるの? 早く乗らないなら置いていくよ?」
「だから、これは僕のチャリだって!」
戸惑いながらも荷台に跨ると、アッシュ色の髪が風になびく。甘い様なそれとは別に美容室のような心地よい香りがする。
牧村はゆらゆらと左右に振りながら漕ぎ始めると落とされそうになった僕は、彼女の腰にしがみついた。
「ちょっと、どこに捕まってんのよ」
「だって牧村が揺らすから」
「重いんだから仕方ないでしょ!」
力の入った声で漕ぎ進め、スピードが乗って来たところで揺れるのか収まった。
「普通は肩を持つでしょ? いきなり腰を掴むとか何考えてんのよ」
「あ、そうか!」
「もう……」
少し不機嫌そうに牧村は小さく呟いた。
「ところでどこに行くんだよ? 駅はこっちじゃ無いぞ」
「別に、駅に行くなんて言ってないし」
「それじゃ、どこに……」
そこまで言うと、牧村は落ち着いた声で言った。
「宮園、デートしよっか?」
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