【5】仇
〜 ラーヘル達が去り、ジュリー起床後 〜
ロウ「お、お連れさんも起きたようだな」
スクルド「説明の二度手間にならなくてちょうどいい。ここからはボリュームを下げて話すぞ」
ジュリー「え・・・ここどこ?」
〜
スクルド「今、俺たちがわかったことは、ざっと2つある。
1つは、
”超能力は実在している”
先輩さん方がご丁寧に兆候の詳細を話してくださった。
俺とジュリーの2人は体に電気が走る感覚があったからな。
俺1人が感じていたのなら、確証に至る質問は厳しかったから、まぁ運が良かった。
ロウも感じたんじゃないか?電気が走るような感覚」
ロウ「あぁ。確かに感じたぜ」
スクルド「もう1つわかったことは、”その超能力の発動方法”だ。
これまた先輩が懇切丁寧に教えてくれた。
要は手の甲を直接触れ合えばいいわけだ。
何故かは知らないが、なんとなく、そうすればいいってことは感覚として分かる」
ジュリー「確かに。今まで何度もしてきたような気がするわ。
一回やってみていい?」
スクルド「できるもんならな。俺たちの足は比較的ゆるいが、腕は指先まで固定されている。この縛り様が発動方法を教えてくれているようなもんでもあるな」
ジュリー「んん・・・あっ」
ロウ「おい・・・まさか???」
ジュリー「ちょっとひねって・・いたた!」
スクルド「耐えろ!多少の怪我ならあとでしっかり治療してやる」
ジュリー「んんっ!」
スポッ
ロウ「・・・ワァオ、ファンタスティック・・・」
スクルド「よくやったジュリー。お前は昔からこういうの得意だよな」
ジュリー「スクルドと違って私細いから余裕よ!へへん!
・・・でも手首のこのベルトはどうにもならないわよ?」
スクルド「いや、手の甲さえ合わせられればとりあえずは大丈夫だ」
ジュリー「こう?」
スクルド「馬鹿っ!待て!」
シュン
ジュリー「あれ?」
ロウ「・・・・・え?マジで?」
スクルド「瞬くより早く、部屋の真ん中に移動したな。瞬間移動ってところか」
ジュリー「うっそ!」
スクルド「体に触れ合っている服は一緒についてきてくれているな、良かったな」
ロウ「素っ裸で移動とか!はっはっは!!!最悪だな!!!」
ジュリー「もう!さいてーーー!
そういうの本当気持ち悪いから!!!」
スクルド「冗談はさておき、完全にジュリーだけを移動させるわけではないのなら、俺たちに触れていれば一緒に移動、つまり別の物体を転送させることができるんじゃないか?」
ジュリー「やってみるね!」
ジュリーは、スクルドの胸に触れようとした。
スクルド「いや、肌が露出してる部分がいいだろ」
ジュリー「えっ!?そ、そうだよね!!!」
慌てたジュリーは、スクルドの頬に触ろうと手を伸ばす。
スクルド「・・・足で頼む」
ジュリー「そ、そうだよね!!!!」
ロウ「キスでもするのかと思ったぜ!はっはっは!」
ジュリー「キッ・・・」
スクルド「いいから早くやってみてくれ」
ジュリー「・・・あ、うん!」
スクルドの足首に触れ、移動を試みるジュリー。
しかし、一向に何も変化はない。
スクルド「どうやらダメみたいだな。まぁ、俺らみんながピンチになったときは、その力でお前だけでも逃げられるってことだ」
ジュリー「そんなことしないから!」
スクルド「ジュリー、3人全滅と1人生き残るんじゃ全く話は変わってくる。わかるだろ?」
ジュリー「・・・うん」
スクルド「まぁ、そんなことがないように動きたいもんだな。
とりあえず、俺たちの手の拘束を解けるか?」
ジュリー「やってみる!何か刃物みたいな・・・鉄でできてる硬いものある?」
ロウ「俺のベルトの金具は何か役立つかもしれねぇな」
ジュリー「・・・本当に必要になったら言うね」
〜
カチャカチャ
ジュリー「とりあえずスクルドの分は取れそうよ!一回抜こうとしてみて!」
スクルド「クッ・・・お、取れたな、ありがとうジュリー」
ジュリー「やったぁ!どういたしまして!」
スクルド「とりあえず俺の力を使ってみるか、拘束具を破壊できるものかもしれない」
そういって、スクルドは手の甲を合わせ、目を閉じ、そして開いた。
ブォン
ロウ「・・・特に何も変わってねぇな」
スクルド「いや、これは使えるかもしれない。
ジュリー、正面から俺に石か何か投げてみてくれ」
ジュリー「え?、うん」
地下を掘ってできた部屋に落ちている爪先ほどの小さな石をつまみ、スクルドに向かってそっと投げる。
キンッ
スクルド「銃弾さえ防いでくれたら、十分だな」
ロウ「おおお!!!見えない壁ってことかよ!!!すげぇじゃねぇか!
お前には見えてんのか!?」
スクルド「俺にはしっかり壁が見えている。ロウの反応で、この壁は俺以外には見えないという特徴があることもわかったな。
つまり、この能力が体力をすり減らしたりしない限り、俺は常に背後や正面を守り続けることができるってことだ。相手にバレることなく、発動する瞬間も見せずに、な。
んでもって・・・」
ブォン
ロウ「お!?」
スクルド「成功だな。壁が硬けりゃ守るだけじゃなく、ぶつけることで立派は攻撃手段に成り代わる」
ロウ「おお!ありがとよ!!!」
動きたくてしょうがなかったのか、掌を開いたり、閉じたりしている。
嬉しそうな笑顔をみていると青年というより、少年と表現した方がしっくりくる。
ロウ「んじゃ俺も!・・・・うぉ!?」
スクルド「どうした?」
ロウ「こりゃいい!早速気に入ったぜ!!!」
ジュリー「?
何も変わったようには見えないけど?」
ロウ「いや、めちゃくちゃ体が軽くなったんだよ。そして、全身に力が漲ってきた!!!!
この天井一枚なんて一発で突き破れそうなくらいだ!
ただ、力を入れると服が破れちまいそうだ。それはまずいだろ?」
スクルド「いい判断だ。
ロウの能力は膂力の大幅強化ってところか」
ロウ「りょりょく・・・?」
スクルド「肉体強化、筋肉強化ってところだ。筋肉が肥大しそうということは、パワーが増しただけでなく、防御もできるってことだな。水中では沈んじまうが」
ロウ「おお!なるほどな!俺にふさわしい大当たりの能力だ!・・え?沈む?」
スクルド「とりあえず、俺たちの力はなんとなく分かった。
さて、本題はここからだ。
まだ分かっていない不確定要素が1つある」
ジュリー「私たちを利用しようとしてる、そのラーヘルって男が良い人かどうか?」
スクルド「お前にしてはかなり鋭いこと言うじゃねぇか」
ジュリー「何よ!どうせ私は・・・あれ?私頭良くなったのかな???」
ロウ「できるなら馬鹿のままでいてくれよ〜!仲間は多い方が嬉しいんだって〜」
スクルド「要はフランツェ国軍部が俺たちをどう見てるのか、って話だ。
それに関して、すごく的中してほしくない疑いがある。
・・・ロウ、お前が兆候を感じたタイミングはいつだ?」
ロウ「・・・・」
スクルド「爆撃の後か?だったら嫌なことを思い出させてすまない」
ロウ「かあちゃんと弟が火に包まれた時だ・・・・」
スクルド「・・・・お互い辛かったな」
ロウ「あぁ、全くだ。くそったれが・・・」
スクルド「そのくそったれなんだがな、色濃くなってきたぞ、最悪の説がよぉ・・・」
ジュリー「どういうこと?」
スクルド「今回の、誰も予想できなかった爆撃は”フランツェ国によって意図的に行われた可能性がある”ってことだ・・・」
ロウ「なんだと!?」
ジュリー「そんな・・・」
スクルド「今から言うことは全て、可能性の域を出ない話だ。
まず俺たちの体に超能力の兆候が起こったのは、”目の前の大切な人が亡くなった時”だ。
正直、思い出すだけで心臓が張り裂けそうなほど、辛く、悲しく、そして憤りを感じる。そんな出来事を俺たちは経験した。
その後に、兆候は起こった・・・。
予告も何もない状態で人々がいつも通り暮らす街に爆撃すりゃ、大勢の人が死ぬ。
それは生き残った人々に深い心の傷を刻み付ける。
それが超能力の発動条件だとするのならば、そうして生まれた超能力者を軍部に所属させ、ドイルへの憎しみを糧にする超能力者を産む環境を作る作戦、なんてのは現実的だろう。
ドイルに近く、爆撃の報を聞いても東の街メヴィルは、何も知らない国民に対して説明できる。
ついでに食い扶持も減るしな。
あのカルアとか言う女の探知、キールって男の催眠。
爆撃から今までの迅速な超能力者の確保。
フランツェが意図的にやったと仮定すると、全ての辻褄があっちまう」
ロウ「っ!
つまり、俺たちの仇は!!!」
スクルド「ああ!さっきまで飄々と説明しにきたあのクソ野郎どもと、この国自体かもしれねぇ・・・。
まだ確定ではないがな」
ロウ「お前、なんでそんなことわかるんだよ」
スクルド「さっき話した通りだ。この話は可能性の域を出ない。
でも、拉致するにはあまりにも都合が良すぎることが多すぎるんだよ。
ここで目覚めた時から、俺たちにとって善に思える組織が働いてる可能性はほぼ無いだろうと踏んでいたが・・・
それにしても、これが事実だとするならまるで隠す気が無いような動き・・・
ん?待てよ?」
ジュリー「ここでスクルドみたいに気づかれても、大丈夫ってこと?」
スクルド「ああ!連中、今俺たちが抵抗したところで、痛くも痒くもねぇのかもな。
それこそ、超能力だ。記憶の改竄ができたっておかしくねぇ。
・・・俺がタイミングをみて、この説の証拠になり得る挙動や言動を探してみる。
とりあえず、2人は俺に合わせて軍に協力的な姿勢を続けるんだ。
本当に奴らが俺たちを意図的に作り、利用しようとしてると分かったなら、
はっきりこう言ってやる」
〜
スクルド「この、生きる価値なんて微塵もねぇクソ野郎どもがあああ!!!」
ガラン「いきなり大声出すなよぉ、地下なんだから響いてうるせぇじゃねぇかぁ」
ロウが倒れた今、スクルドとジュリー2人で、目の前の銃を持った兵3人と拳銃を持つラーヘルとガラン、そして強制的に眠らせてくるキールの6人をなんとかしなければならない。
とにかく、ジュリーだけはなんとか逃げられるかもしれない。
今はこれが達成できれば自分たちの勝ちだろう。
もたつくする時間はない。
さっきの銃撃音や声で敵の応援が駆けつけてくるのは、時間の問題だろう。
また、もう一つ厄介なのが、カルアの存在だ。
彼女の能力の前では、スクルド達に逃げ場はない。
ガラン「腕を狙えぇ」
ダダダダダッ
キキキキン
ガラン「チッ、めんどくせえなぁ!おい、もうそろそろいけるだろぉ?」
キール「・・・へへへっ」
スクルド「っ・・・ジュリー、とにかく上を目指して移動しろ!」
ジュリー「でもっ!」
スクルド「俺はこの通り自分の身くらい守れる!お前だけでも脱出しろ!
そしてこの事実を広めろ!」
ジュリー「嘘!守れるなら私も守ってよ!」
スクルド「こんな状況になったら1人でも逃げ切るって、”うん”って肯いたよな!?」
ジュリー「そうだけど!」
スクルド「ジュリー・・・」
大きく見開かれた目は、ジュリーが初めて見るスクルドの目だった。
ジュリー「分かった・・・・・・絶対!必ず!また会うんだからね!!!」
スクルド「ああ、またあとでな」
キール「へへへへへ!」
スクルド「やっと手を伸ばしやがったな魔道士モドキ野郎おおおお」
ジュリー「・・・っ!」
シュン
ブォン
キール「っげええええ!!!!」
ジュリーが瞬間移動したのと同時に、スクルドは展開していた壁をキールの手首に目掛けて振り下ろした。
銃弾をも弾く硬度の見えない壁が、手を振り下ろすスピードでぶつかってくるのだ。
痛み苦しむキールは手首の骨を折り、叫び声をあげた。
しかし、スクルドは攻撃のために自分を守る壁を遠くに飛ばしてしまっていた。
ダン
ガラン「やりやがったなぁクソガキがぁ!!!」
ガランが発砲した弾丸は、スクルドの右腕を貫いた。
スクルド「っ!」
ガラン「あのメスガキは瞬間移動能力者かぁ!ますます捕らえなければならんようだなぁ!!!
ラーヘルぅ!カルアからメスガキの居場所を聞き、全ての兵に伝えろぉ。見つけ次第片腕撃ち抜いておけよぉ!!!」
ラーヘル・カルア「ハッ!」
カルアが先に部屋を飛び出す。
ラーヘルも続いて駆け出し、部屋を飛び出した。
————かのように見せかけた。
ダダンダダンダダン
兵士3人が頭から血を流してその場に倒れた。
撃ったのは・・・・ラーヘルだ。
ガラン「・・・何をやっているぅ。
ラあああああああヘルうううううう!!!」
ラーヘル「うおおおお!!!」
ガランとラーヘルが互いに銃口を向けあい、引き金を弾いた。
ダダダダダダン
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