第二章 ユヴェン

【3】相棒



兵士「ただいま食料、生活用品を積んだ輸送車両がこちらへ向かっています!もう少々お待ちください!」


 避難所には、既に大勢の生き残った町の人で溢れかえっていた。


 家族の安否が気になっている者、もう全てを見届けて何も考えることができない者、攻撃を行ったと思われる敵国(ドイル)への憎しみを隠しきれない者・・・。


 あの地獄が始まってから一日、避難所には悲壮な空気が漂っていた。

この避難所で得た情報によれば、あの時メヴィルにいた総人口のうち、生き残ることができたのは約6割ほど。

爆弾の集中した地域、比較的まばらに投下された地域と、場所によって被害の程度も違うようだ。


 スクルド達が避難した倉は運が良かった。

それは、スクルド達がいた地域には爆弾の投下量が少なかったことも関係しているだろう。

もし、爆弾が倉に直撃していたら、ひとたまりもなかった。


スクルド「目先は、寝床の確保だな。

今回の爆撃でドイルは防空網を潜ってフランチェ内部まで潜り込むことができることが証明された。

 フランツェは政策として、間違いなく軍拡を加速させるだろう。ドイルに比べて若干劣る陸軍より、その陸軍を援護しつつ、いち早く敵の飛行場を麻痺させる空軍に人員と予算が割かれるはずだ」


カナン「分からないわ、ドイルは海軍も手強いと聞く。なんでも海に潜って進む船があるそうよ。現に出港したきり帰還しなかった貨物船は多い。北と南が海に接するフランツェが、上陸作戦を実行されたら、東の陸戦の状態も一気に悪くなるんじゃないかしら」


スクルド「確かに・・・ただでさえ他への出兵なんかできるはずもない防衛一方の国境付近なのに、これ以上他方から叩かれるとなるとな」


ジュリー「その東の方から敵がきたら、私たちはどうなるの・・・?」


カナン「ジュリー」


カナンはジュリーの両肩をガシッと握りしめる。


カナン「私たちはそういう事態に備えなければならない。目先は生き延びることが最優先だけど、生活ができるようになったら私たち一人一人が報復できる技術を持つのよ」


ジュリー「報復・・・」


スクルド「つまり、俺たちの家族の命を奪ったやつをぶっ殺すってわけだな」


ジュリー「それじゃダメじゃない!!!

今私たちは家族を殺されてこんな悲しい気持ちになってるのに、人を殺したらその殺された人が今の私たちと同じ気持ちになっちゃうってことでしょ!」


スクルド・カナン「それでも、俺(私)達はやらなければならない」


 結局どこも重苦しい強い空気だ。

スクルド達が口論したところで、避難所は何も変わらなかった。


その瞬間までは。


 スクルド達が口論している間、避難所の入り口に1人の女が現れた。

すると、その女と目があった。

いや、あっているような気がした。


 ブロンドの髪、目に巻かれた黒い布。

目の前など見えてないだろう女はこちらを指差して何かを言っていた。



女「あれよ。黒髪で背の高い女の方は違うわ、あの少年と少女の2人。あとは・・・もういないわね」


軍人A「わかった。おい!」


軍人B「皆さん!!!食糧が到着しました!!!!全員が来ると危ないので、代表者の方だけが身内の分を取りに来てくださーい!」



「おおお!!!」

「この人数だ、すぐなくなるぞ!」

「急げえええ!!!!」



 明日ちゃんと生きていられるかさえ不安な人々は、目の前にあるだろう自分たちの何も入っていないお腹を満たすモノを手に入れるために、動き出した。


カナン「私が行ってくるわ。ついでに後ろの方にいる暇してそうな軍人さんにお声かけして今の外の情報も持ってかえって来ましょう」


 単に荷物持ちするだけならスクルドで良かったが、整った顔と、場面によってガラリと変わる愛嬌のある性格、そして話術に長けているカナンが軍人と接してきた方が情報は集まるだろう。


 入り口に向けて一斉に押し寄せる人々。

カナンがその中に混じり姿が見えなくなったその時だった。


 突如、強い眠気に襲われた。


(な、なんだこれ・・・よくわかんねぇが、アホみたいにねみぃ・・・・・)


 もう目蓋を開く気力もなく、一瞬にして眠りの世界へと落ちていった。




カナン「戻ったわ、少し面白いことが分かったのだけれど・・・あら?スクルド?ジュリー?」







スクルド(ん・・あぁ?どこだここは?)


カチャカチャ


スクルド「・・・チッ」


 目を覚ますと何もない部屋で手足を拘束されていた。

足は動かせるが、ては完全に壁から離れないようにガッチリ固められている。

それどころか、硬い手袋のようなものを着けられており、指一本すら動かすことができない。

また、声の響きようからして、どうやら地下室のようだ。


 左側の壁には、自分と同じようにジュリーが拘束されている。

先に起きたのは自分のようだ。


(カナンがいない・・・いったいどこに行った?

そして避難所で寝てから、いや眠らされてからどれくらい時間が経った?

まぁなんにせよ、拉致ってことだしいいモンではなさそうだな・・・

あとは・・・)



男「おぅ、起きたか?」



 左の壁にジュリーが拘束されているように、対角の壁にも1人、男が拘束されている。

少し長い茶髪にヘアバンド、鍛えられている体。歳は自分とあまり変わらなさそうだ。

 よく見ると服の一部が焼けた跡がある。もしかするとこいつも同じメヴィルの人間なのかもしれない。

何が楽しいのか、ニヤニヤした表情でこちらを見つめている。


(拘束されているもの同士、敵ってわけじゃなさそうだが・・・なんだこいつは)


茶髪の男「びびるよな、なんか急に眠くなって目が覚めたらこれだ。お前さんは何か知ってるか?」


スクルド「おはよう、でいいのか?とりあえず俺は何も知らねぇな」


茶髪の男「そうか〜。まぁ、暇だし仲良くしようや。俺はロウ、よろしくな、えーと」


スクルド「スクルドだ。全く、明らかに理不尽でよくわかんねぇ状態だってのに、呑気なモンだな?」


ロウ「はっはっは。お互い様だぜスクルド。んじゃもう一個きくんだがよ、そこにいる」


スクルド「女なら、俺の家族だ。

元々メヴィルで暮らしていたんだが、そこで爆撃があり、生き残った俺たちは避難所に留まっていた」


ロウ「おっ!?俺と同じなのか・・・。そうか」



コツコツコツコツ・・・



スクルド「少し静かに。・・・・・・何人かがこちらに歩いてきている」


 足音はすぐ隣まで近づき、スクルドがいる部屋のドアが開けられた。


 そこに立っていたのは、30代前半くらいの銃を構えた2人の男とその二人より老けている銃を持たない男が1人。

 この3人は軍服を着ている。そして、立ち振る舞いや胸の勲章から、銃を持っていない男が上官であることも一目でわかる。

そしてその後ろには見覚えのある女と、気持ち悪いほどの笑顔をした男。


 軍人以外の2人は成人しているかどうかくらいの若々しさがある。

ブロンドの髪に目に巻かれた黒い布をつけた女・・・。

こいつは避難所で最後に見たやつだ。



銃を持たない軍人「おはよう。突然こんなところに連れてこられて縛られて、混乱していると思うが、まず、自己紹介からさせてくれ。

 私はラーヘル・マエルフォールン。

階級は大佐、見ての通りフランツェ国の軍人だ。

訳があって、今は君たちを拘束しているが、君たちを酷い目に合わせたいわけではない。安心してくれ」



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