理性と本能
「ん……? カミラさん、おはようございます」
「おはよ。まだ寝ててよかったのに」
「そんな風に触れられたら起きますよ」
「リアが可愛くて、つい」
今日は私の仕事が休みで、朝方まで離してもらえなかった。実際、何時に寝たのかは分からないけど、回復していないからそんなに経っていないんだと思う。
私は起き上がるのがやっとなくらいなのに、カミラさんは艶々してる。この色気でお仕事大丈夫かな? もちろんカミラさんじゃなくて、周りの人達が。
「ねぇリア、聞いてる?」
「……聞いてますよ」
「絶対聞いてなかった。何考えてたの?」
カミラさんの目がすうっと細められた。あ、これは正直に答えないと大変なことになるやつ。
「カミラさんは艶々しててずるいです」
「え?」
予想してたことと違う内容だったのか、首を傾げるカミラさんが可愛らしい。
「誘惑しちゃダメですからね?」
「誘惑? リア以外を? そんなのした事ないよ」
心底心当たりがない、と眉を下げているけれど、そろそろ自分の容姿を自覚してもらってもいいですか?
「……まぁ、そういうことにしておきましょう。カミラさんは私のですからね」
「リア……! え? 何? 誘惑されてる? 少しくらい遅れてもいいよね」
「だめです」
そんな悲しげな顔をしてもダメなんですって。
「……あー、ずっとリアといたい」
「すぐ会えますよ」
「リアは寂しくないの?」
「それはまぁ、寂しいですけど」
「かわい」
心底嬉しそうに笑って、軽く唇が重ねられた。もうすぐ家を出る時間だからさすがに自重してくれたんだな、とお返しに触れるだけのキスを返せば、それはもう艶やかな微笑みが……あの、どこ触ってるんですか?
「ダメですからね」
「分かってる」
「言葉と行動が全く噛み合ってません」
「リアが誘ったのにひどい」
「誘ってません」
力の入らない腕で押し返せば、膨れるカミラさん。ギャップが凄いんですって。そんな私にしか見せない表情に日々キュンとしている。
「はぁー、離れたくないけど、行ってきます。リアに呆れられたくないし。早く帰ってくるね」
早く仕事が終わらないかな、なんてまだ仕事に行く前なのに切なげなカミラさんが愛しすぎるから少し抑えてほしい。
カミラさんを見送って、再びベッドに倒れ込んだ。
予定もないし、このままゆっくりしよう。そんなにかからず回復するだろうし。
それにしても、竜人族に近づいたというのに、カミラさんとの差は果てしない。これは縮むことはあるのだろうか……むしろもっと離れていきそうな気がする。
竜人族の番持ちの誰かに聞くにも、カミラさん無しで会える人なんて都合よくいないよなぁ……と思ったけれど近くにいた事に気がついた。適任がいるのに、どうして今まで話を聞かなかったんだろう。
「こんにちは」
「あれ? 今日は休み? カミラは?」
「カミラさんは仕事です」
「そっか。カウンターでいい?」
「はい」
頼ったのは、竜人族の旦那さんがいる、イザベラさん。イザベラさん自身も竜人族だから私とはまた違うけれど、参考になることがあるかもしれないと思い、少し休んでからご飯を食べに来てみた。時間があれば色々話が聞けないかなって思ってるけど、お昼を過ぎたけれどまだ混みあっているし、難しそうかな……?
「アメリアちゃん、この後は時間あるの?」
「あります」
「良かったらゆっくりしてね」
「ありがとうございます! 実は、ちょっとお聞きしたいことがあって」
「カミラ関連? 少しすれば落ち着くから、その後で聞くね」
「はい!」
イザベラさんの言葉に甘えて、のんびりお客さんの様子や、イザベラさんの接客と、料理を作っているイザベラさんの旦那さんのジオさんをチラ見したりして過ごした。
「お待たせ」
「忙しいのにすみません」
「ううん、ちょうどいい休憩になるし、ここからだとジオがよく見えて私にもいいことしかないから気にしないで。それで、どうしたの?」
イザベラさんとジオさんが微笑みあっていて、カミラさんに会いたくなった。
「私もそれなりに身体能力が上がったのを実感しているのですが、カミラさんには程遠くて……これは縮むのかな、と気になりまして」
「あー、そういう悩みか……番が他種族の場合、相手が強いほど影響が大きいとは聞いたことがあるけど、比較相手がカミラだとね……これからも上がり続けるのかは、私だと分からないな」
「そうですよね。ちなみに、カミラさんの身体能力って……」
「カミラは竜人族の中でもトップクラスの身体能力の持ち主だね。そっちに全振りだし、座学なんて、そもそも居ないか寝てるかだったかな」
「番の説明をしてくれた時も、ちゃんと聞いてなかったって言ってました……」
「長老達も最初は頑張ってたんだけど、昔は相当尖ってたし、力ずくで言うことを聞かせようとした過激派も居たんだけど返り討ちにあって。最後にはもう諦めてたよ」
お会いしたことのない長老さん達、お疲れさまです……
「そんなに凄かったんですね……今のカミラさんからは想像がつかないです。可愛いところだってありますし」
「カミラが可愛い、ねぇ…… あのカミラも番にはデレデレなんだもん、里の皆が見たらどれほど驚くか。行ったことなかったよね?」
「はい。カミラさんが、遠いし何もないから行かなくていいって……いつかは行ってみたいんですけどね」
「確かに、山しかないし、カミラの親もこっちに居るし行く必要ないか」
「……山しかないんですね」
「そう。広いから竜化の練習場所には困らなかったな」
竜化の練習か……カミラさんも、練習したんだろうなぁ。
「小さい頃のカミラさん、見てみたかったです」
「カミラは個の能力が高すぎて、加減が出来なくてよく暴れててね……どれだけ地形を変えたことか」
「え……」
あぁ、イザベラさんが遠い目を……
「今はアメリアちゃんっていう最愛の番を見つけたこともあって、全くの別人だけどね。竜人族って、個としての力が強いほど番への執着が強くて。例えばだけど、カミラほどなら、リアちゃんを家から1歩も出さずに閉じ込めていたとしても驚かないくらい。私もジオも、竜人族の平均くらいだけど、離れて仕事をするのは考えられないかな。目の届く所にいて欲しい。竜人族はほぼ例外なく番への独占欲って凄くてね。昔私がお客さんに絡まれた時なんて、ジオが半竜化しちゃって、ここ半壊したもん。私1人で対応出来たのにさ」
「半壊!?」
ジオさんはおっとりしているけど、しっかり竜人族なんだなって色々な話を聞いていて実感した。
カミラさんは我慢していることは無いのかな……聞いてもないって言うけど、同族ならしない苦労をさせてると思ってるし、日々ちゃんと確認しないと。……監禁はしないでほしいけど。
「イザベラさん、色々ありがとうございました」
「あまり役に立てなかったけど、何かあればまたおいでね」
「はい!」
沢山お話して、竜人族のことをまた学べたと思う。カミラさんが帰ってきたら、今日のことを話してみようかな。
*****
「カミラさん、今日もお疲れ様でした」
「うん。ありがとう。リアはゆっくり過ごせた? ふふ、可愛いね」
もう寝るだけ、という状態でベッドに腰掛けて、隣に座るカミラさんにくっつけば、嬉しそうに笑って抱き寄せてくれた。
「はい。イザベラさんの所に行ってきました」
「そっか。話せた?」
「はい。色々お話出来ました。ジオさんがお店を半壊させた話を聞いたりして」
「ああ、あったなぁ。客がイザベラに求婚して、断られたから無理やり連れて行こうとしたんだっけ。半壊だけなんてジオもよく耐えたよね」
「……そういう見方もありますね」
リアを怖がらせたくないから抑えるけど、私なら抑えたとしても更地になっちゃいそうだなぁ、って笑っていて、冗談じゃなくて確実にやるだろうな、と思えた。気をつけよう。
「あの……イザベラさんが、カミラさんほどなら私を閉じ込めていても驚かない、って言っていて」
「え?」
「その、そういう願望ってあるんですか?」
私の質問を聞いた瞬間、纏う空気が変わったのを感じた。
「ある」
即答したカミラさんは本気だった。隠すことだってできるのに、見せてくれたことが嬉しい。見せても大丈夫だって思ってくれてるってことでしょ?
「私なしでは生きていけないように依存させたいし、リアの全てを知りたい」
カミラさんの手が頬、唇、首、鎖骨へと下がっていく。
「リアの身も心も、全部欲しいよ」
胸元にある番の証を手に取って、視線は外さずに口付けされて、その色っぽさにくらくらする。
「ねぇ、全部ちょうだい?」
「……っ、全部カミラさんにあげてますし、カミラさんに染まってます」
言葉だけじゃなくて行動で示したくて、鱗があった喉元に触れれば、カミラさんが息をのんだ。
「は……リア……こっち向いて」
大胆だったかな、と恥ずかしくて逸らしていた視線を合わせれば、ギラギラした視線に射抜かれて、次の瞬間には噛み付くようなキスをされ、押し倒されていた。余裕のないカミラさんも好きだなぁ、なんて考えられたのは最初だけだった。
「カミラさ……もうっ」
「あぁ、リア、かわいい」
煽った自覚があったから責任をもって落ち着くまで受け入れようと思ったけれど、私が思っていた以上に理性を吹き飛ばしてしまったようで、抱き潰されることになった。私が考えていたよりも普段は相当抑えてくれているということを知り、煽りすぎないように気をつけようと誓った。
出会った番(つがい)は同性でした 奏 @kanade1
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