休日(後)
カミラ視点
カフェに到着して、わくわくしているリアはいつにも増して可愛い。もちろん、その可愛さは更新され続けているけれど。
リアが私の想いを受け入れて、隣にいてくれることは当たり前じゃない。私たち竜人族にとっては唯一でも、番の概念がない種族には伝わらないから。
リアはもう竜人族に近いとはいえ元々同族ではないのに、私からの重すぎる愛を嫌がらずに受け入れてくれて凄いなって思う。
もし、嫌だと言われても、もう逃がしてあげられないけれど。
「……カミラさん、なんか不穏なこと考えてます?」
「ん? リアが逃げたら、どこに閉じ込めようかなって」
「思った以上に物騒だった」
「リアが許してくれるなら、誰にも見せずに閉じ込めるのに」
「全力でお断りしますね」
物騒な私の言葉にも、普段通り笑っているリアから信頼が伝わってくる。リアからの信頼は何があっても裏切れないから、私は一生リアには勝てない。
「私が閉じ込められてもいいけど」
「……なんでそうなりました? しませんけど? ……そんな風に不満げな顔してもダメです。私がいじめてるみたいじゃないですか」
リアに閉じ込められるとか、私の世界にはリアだけってことでしょ? 幸せしかないのに。
「そんなことより、もうすぐ順番ですよ! ねぇ、メニュー見てください!! どれも美味しそう……どうしよう!?」
「可愛い」
どうしようは私の台詞。私の番が可愛すぎてどうしたらいい?
「カミラさん、美味しいですね」
「うん。こっちも食べる?」
「欲しいです! もらってもいいですか?」
「もちろん。はい、あーん」
「うわ、美味しい! こっちの方が好きかもです」
「はい、もう一口」
「んー、美味しい!!」
席について、頼んでいたものが届いた。抵抗なく口を開けてくれるリアに、満たされた気持ちになる。リアが食べるものは全部食べさせてあげたいけど、残念ながらそれは許してもらえていない。
今日は私が頼んだ方が気に入ったみたいだから沢山食べてくれそうで、これを頼んだ自分を褒めたくなった。
「リア、デザート来たよ」
「かわいい!」
「かわいいね」
キラキラした目でデザートプレートを眺めるリアは可愛いけれど、その表情を私に向けてくれたらいいのに、なんて考えるのは私の心が狭いからなのか?
「カミラさん」
「ん?」
「あーん」
「……っ」
私の番が可愛すぎて辛い。家なら触れられるのに……触れるだけのキスくらいなら許してくれないかな……
「お腹いっぱいですか?」
「ううん、ありがとう。美味しいね」
「良かった。本当に美味しい!」
「リア」
「はい?」
「ふふ、かわいい。ここ、ついてるよ?」
「ーっ!? 外ではそういうことしちゃダメです!」
リアが怒るだろうから手で取ったのに、ダメだったらしい。キスできるな、って思ったけど自重したのにな。大人しくリアが食べるのを見ていよう。
「デザートも美味しかったし幸せです。連れてきてくれてありがとうございます」
「それは良かった。リアが望むなら、どこへでも連れていくよ」
リアがこんなにも喜んでくれるなら、休みを合わせて旅行に行ってもいいかもしれないな。
「遠いところでもすぐ行けちゃいそうですよね」
「今度旅行行く?」
「行きたいです!!」
「かわいいね。どこか行きたいところはある? 私はリアと一緒ならどこだっていいよ」
「行きたいところは沢山あるんですけど、今すぐには決められないです」
「リアが行きたいところ、全部行こうね」
「全部!?」
「うん。寿命も長いし、なんなら仕事をやめて色んな所に住むのもいいよね」
「そうやってすぐに辞めたがると、エマさんが泣きますよ?」
リアが望むことなら、なんだって叶えるのに。リアを養うだけのお金は余裕であるのに、リアはねだってくれないからなぁ。
「あ、中庭お借りしますし、騎士団の皆さんに……いや、全員分は無理ですよね……エイダンさんと何人かにお土産買ってもいいですか?」
「そうだね。何か買っていこうか」
「はい!」
お土産を選ぶリアも可愛いんだろうな。リアにもお土産を沢山買おう。
*****
第三者視点
『リア、愛してるよ』
自分に向けられたセリフじゃないのに、心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃。人気のカフェに到着し、最後尾に並べば、前から聞こえてきたセリフ。腰まで伸びた艶のある銀髪に切れ長の碧眼で、恐ろしいほど整った容姿の女性が茶髪ショートの小柄な可愛らしい女性に微笑みかけている。
横顔だけれど、こんなに綺麗な人に出会ったのは間違いなく初めて。しかも、声も良い。完璧すぎでは……?
愛しくて仕方がないと伝える視線も、甘い声も、どうしようもなくドキドキする。隣を見れば、心臓を押さえている友人と目が合った。周囲も同じ状況のようで、至る所で目を合わせて頷き合うという妙な連帯感が発生した。通りすがりの人も立ち止まってしまって人も集まってきているけれど、完全に無関心。恋人しか見えていないみたい。
『リアが許してくれるなら、誰にも見せずに閉じ込めるのに』
頬に手を添えて、うっとりした表情で監禁願望を口にする銀髪の女性の破壊力が凄まじい。部外者の私が動揺してしまったけれど、そのセリフを向けられた小柄な女性は”そんなこと”と流すから凄すぎてびっくりした。もしかして、慣れてる? これが日常……?
立てかけてあるメニューの横まで進んでから、何にしようか悩む恋人を蕩けそうな目で見守っていて、ひたすらに甘い。
順番が来て、案内のために出てきた店員さんが固まっていて、横顔ですら直視できないのに、正面から見ちゃったらそうなるよなぁ……頑張れ、と心の中で応援した。
至近距離で甘い空気を浴びただけではなく、2人の後に案内されたのは隣の席で、変わらず空気が甘すぎて思わず甘さ控えめなメニューを聞いてしまった。
同じ気持ちだったのか、私の注文を皮切りに、あちこちで甘さ控えめなものを店員さんに聞くという事態が発生した。店員さんもこの短時間で理解していたようで、すんなりおすすめを教えてくれた。2人がいる間は周辺の席には聞かれる前からおすすめする店員さんの姿が見られた。
正面からあんなに綺麗な人に見つめられて、あーんされて、ニコニコ笑ってるって凄すぎる。もちろん、小柄な女性も可愛らしいけど、銀髪の美人は人を惹きつける圧倒的な存在感がある。
考えるのも恐れ多いけれど、もし自分が恋人だったとして、隣に立つプレッシャーと、劣等感に耐えられるのだろうか? ……きっと耐えられないだろうな。
『ふふ、かわいい。ここ、ついてるよ?』
えっっっ……!? 口についたクリームを取ってあげたのはいいとして、その後の指を舐める仕草と、恋人を見つめる視線がエロすぎませんか……? 外ではダメだと叱られていたけど、本人は不思議そうにしていた。無自覚って恐ろしい。
この2人、見守る会とか絶対あるよね……? あれば、今日並んでいたお客さんたちはもちろん、渋滞を起こしていた通行人達も間違いなく入ると思う。通り過ぎて戻ってきた人もいたもんね。
こんなに目立つ人が近くに住んでいたら間違いなく分かるから、観光かな?
そんなことを考えていれば、騎士団の話題が出ていたから、騎士団の食堂で働いている友人に聞いてみたら何か分かるかもしれない。あわよくば、会長さんとか紹介して貰えないだろうか……
*****
「……なんか呼ばれた気がした」
「クロエ、カミラが居ないからってサボらない」
「隊長、今頃アメリアちゃんとイチャイチャしてるんだろうなぁ~見たいなぁ……はっ、向こうの支部の会員に報告書出してもらえばいいのか! 私、天才では? いや、いっそ私が向こうに……」
「クロエ、その書類の山を片付けたら帰っていいよ?」
「すぐに終わらせますっ!!」
「この子、やる気になれば仕事できるのよねぇ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます