休日(前)
ヒロイン(アメリア)視点
「カミラさん、今度のお休みなんですけど、行きたいところがあって……」
「行きたいところ? どこにだって連れていくよ」
寝る前にベッドでのんびりしながら、次の休みの予定を決められたらいいなと話しかければ場所を聞かれることも無く了承してくれた。
「隣街に新しいカフェが出来て、人気ですごく並ぶらしくて……カミラさん並ぶの嫌じゃないですか?」
「リアと一緒なら、2、3日でも並べるよ?」
何が問題? というように首を傾げるけど、そんなには並ばないです。というか私はそんなに長く並べないです。
「長くても1、2時間くらいだと思います」
「なんだ。すぐだね。飛ぶ? それとも、たまには陸路がいい? 陸路なら軍馬を手配するけど」
「え、軍馬……? 乗合馬車じゃないんですか?」
「うん。普通の馬は私を怖がるから、乗合馬車は難しいな」
新事実。カミラさんの番になってからは乗合馬車に乗る機会が無かったから知らなかった。よく考えてみれば、カミラさんが乗合馬車に乗ったら乗り合わせた人達が落ち着けないかも……?
「カミラさんにもゆっくりして欲しいから馬車の方が良いかなって思ったんですけど、軍馬の手配って簡単に出来るんですか……?」
「リアは優しいね。リアが良ければ、私は全然大丈夫。リアを乗せて飛ぶ時間も幸せだし。馬車でも、手配は簡単に出来るからリアが好きな方で構わないよ」
「……それなら、カミラさん乗せてくれますか?」
「もちろん。リアなら何時でも大歓迎。選んでくれて嬉しいよ。楽しみにしてる」
そう言って微笑むカミラさんは今日も私に甘い。結局、いつも通り乗せてもらうことになった。今度の休みが待ち遠しいな。
「リア、おいで。今日も1日お疲れ様」
先に寝転んだカミラさんの腕を枕に横になれば、甘やかな眼差しとともに、おでこに口付けが落とされた。
「ふふ、カミラさんもお疲れ様でした」
「可愛い」
「……いや、どこに可愛い要素がありました?」
「全部」
毎日のことだけれど、カミラさんは私を甘やかしすぎだと思う。何しても可愛いって言うもんね……
「カミラさん、おやすみなさい」
「眠るのがもったいないな」
「え?」
「ずっとリアを見ていたいけど、怒るでしょ?」
「はい。寝てください。というか、見て楽しいですか?」
「うん。触れないのが残念だけど、明日は、ね?」
優しく唇が重ねられて、至近距離で見つめられる。その目の奥に欲情が見えて心臓が跳ねた。色気が……!
「……っ、でも、明後日出かけるのでお手柔らかに」
「ふふ。それはリア次第だね。本当、可愛い」
私が誘惑に負けないように頑張ればいいってことですね? ……え、無理じゃない? 何が困るって、休みの日に離してもらえない事を嫌だって思っていないこと。
そして、そんな私の気持ちはカミラさんに筒抜け。
顔中に口付けが降ってきて、早速誘惑に負けてしまいそうになるけれど、明日は仕事だし朝起きられないのは困るからそっと目を逸らした。
*****
隣街の騎士団支部の庭にカミラさんが降り立てば、歓声が上がり、周りを見れば沢山の種族の隊員さんが集まっていた。
私が降りやすいようにと地面にペタリとお腹をつけたカミラさんに、ざわめきが広がった。
「リア、疲れてない?」
「大丈夫です」
「良かった」
周囲のざわめきなんて全く気にすることも無く、竜化を解いたカミラさんが微笑むから悲鳴まで聞こえてくる。
「カミラ隊長、お待ちしておりました。そちらが?」
この騒ぎをどうするのかと遠い目をしていたら、青髪の男性が進み出てきた。偉い人っぽい?
「そう。私の番。リア、ここの部隊長のエイダン。竜人族だよ」
……偉い人だった。
「初めまして。エイダンと申します。一応、ここのまとめ役ですが、カミラ隊長の部下になります。お見知りおきくださいませ」
「元、ね」
「今も部下のつもりですが?」
「あ、アメリアと申します。よろしくお願いします」
そしてカミラさんの元部下……動揺しちゃったけど、とりあえずは挨拶ができて良かった。
優雅に礼をするエイダンさんは華があって、知性的な感じ。竜人族って失礼だけど脳筋タイプが多い気がするから、なんだか新鮮。
「エイダンはこの街に仕事で来た時に番を見つけて、辞めるって言うからそのままこっちを任せる事になったんだ。ちょうどこっちの部隊長も番の懐妊が分かったから里に帰るって言ってきててちょうど良くて」
「その節は大変お世話になりました」
いい笑顔のエイダンさんもやはり番至上主義の竜人族でした。それにしても、竜人族って番が絡むとみんなこうなのかな……カミラさんの前の隊長も、番を見つけて辞めちゃったんだもんね?
それにしても、カミラさんの部下の方って他支部にもいたんだ……しかも、部隊長。改めて、私の番って凄いんだなぁと実感する。
「リア、大丈夫? 疲れた?」
考え事をしていたからか、カミラさんが膝をついて私の手を握り見上げてくる。眼差しが物凄く心配そうで、申し訳ない。
「すみません。大丈夫です。カミラさんって凄いなぁって思ってただけなので」
「……? まぁ、リアが大丈夫なら良かった。無理しちゃだめだからね」
「はい」
「大変微笑ましいやり取りですが、そろそろ抑えるのも限界でして。よろしければ部屋に移動出来ればと思いますが……」
エイダンさんが申し訳なさそうに切り出してくる前から、周囲の悲鳴が凄いことには気がついていた。エイダンさんの部下らしき方たちが近づいてこないようにガードしてくれているし……
「騒がせてごめん。このまま出かけるよ。帰る時もここを使わせてもらっても大丈夫?」
「もちろんです」
「ありがとう。リア、行こうか」
「はい。エイダンさん、ありがとうございました」
立ち上がり、エイダンさんにお礼を言って歩き出したカミラさんについて行く。カミラさんの足取りは迷いがないから、きっと何度も来ているんだろうな。
「うわ、凄い人」
「へぇ。開店前でこんなに居るんだね」
騎士団支部から歩いて10分程でカフェに到着すれば、開店時間前なのに既に行列が出来ている。聞いていた通りの人気。
最後尾に並べば、周囲から物凄い視線を感じる。カミラさんって背が高いし、お顔が綺麗すぎるから何処へ行っても注目の的。本人は何時でも平常運転だけど。
「リア」
「どうしました?」
「ふふ、周りばっかり見てるから呼んだだけ」
「……っ」
流し目、反則では? 本当に自分の顔の破壊力を理解して欲しい。
「カミラさん、それダメなやつです。顔が良すぎなんですから」
「んー、私は別にこの顔を好きだなんて思ったことないし、顔が好きって言ってくる人にも全く興味なんてない。でも、リアが好ましく思ってくれるなら親に感謝かな。好き?」
「もちろん、大好きです」
「ふふ、嬉しい。リア、愛してるよ」
切実に、ご自分の顔の破壊力を考えて?
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