引越し
ヒロイン(アメリア)視点
「リアー、ソファここでいい?」
「OKです」
「リアー、テーブルはここでいい?」
「大丈夫です」
「リア、ちゃんと見てる?」
今日から住む家に荷物が運び込まれ、私はキッチン、カミラさんはリビングとそれぞれ作業をしている。
しゃがんでいて、私の位置からではカミラさんは見えないけれど、カミラさんの好みで配置してもらえれば問題ない、と軽く返事をしていた。
「リアー? テーブル本当にここでいいの?」
「え? あっ、良くないです」
立ち上がってリビングを見れば、テーブルはど真ん中に置いてあった。なんでそんなところに……
カミラさんを見れば、悪戯っぽく笑っている。
「絶対見てないと思った」
「うわ、バレてた」
「面倒になったんでしょ」
「え、そんなことないです」
「こっちみて言ってごらん?」
「今忙しいので」
なんか悔しいから絶対見ないんだから。
「リア、こっち見て?」
キッチン用品の片付けに戻れば、痺れを切らしたカミラさんが近づいてきて、じっと見られていて落ち着かない。
「リア」
片膝をついて頬に手を添えられ、カミラさんと目が合えばうっとり微笑まれて、慌てて目を逸らした。
「かわい。少し休憩しよ」
「えっ、まだ始めたばっか……」
「これから時間はたっぷりあるし」
私を軽々抱き上げたカミラさんは真っ直ぐ寝室に向かい、一番最初に運ぶように指示していたベッドに優しく降ろされた。
「リア、抱いていい?」
「今聞くんですね」
「うん。嫌? 昼寝でもいいよ」
どちらにせよ、片付けを再開するつもりは無いらしい。
「じゃあ、カミラさんがお昼寝してる間に片付けておきますね」
「えっ」
「眠いんですもんね?」
「えぇ、リア……分かってて言ってるよね?」
「なんの事ですか?」
眉を下げて見つめてくるカミラさんが可愛くて、ちょっと意地悪をしたくなったんだ。
「リアを抱きたい。気分じゃなかったら無理強いはしないけど、リアを抱きしめて寝たい。リアがいるのに、1人で寝るとか寂しい。そばにいて?」
「……っ」
カミラさんは照れることないの? こっちが照れる……
「リア」
「はい」
「好きだよ」
「……っ、私もです」
心底嬉しそうなカミラさんが愛しくて、手を伸ばせばぎゅっと抱きしめてくれた。
休憩のはずだったのに、体が重くて片付けをする気力はもうない。
リビングのソファに横になりながら、カミラさんが片付けをするのを見守った。縮まらない体力差が悔しい。
「よし、これで終わり」
「お疲れ様でした」
「うん。リア、少しは回復した?」
え? もしかして、また??
「違う違う。明るいうち
そんなに分かりやすかったかな。警戒が顔に出たのか、カミラさんは苦笑しつつ否定してくれた。気になる言葉はあったけど、聞いたらダメだ。聞かなかったことにしよ。
「せっかく竜化できる庭があるから、空の散歩でもどうかな? って思ってさ」
「行きます!」
「よし、行こっか」
庭で竜化したカミラさんは、惚れ惚れする程美しい。昨日まで住んでいた家に不満はなかったけれど、カミラさんの竜化をいつでも見られるんだな、と思うとそれだけで引越しをして良かった。
「ん? リア、乗らないの?」
「乗ります! これからはいつでもカミラさんの竜化が見られるんだなぁ、と思ったら嬉しくて」
「ふふ、これからは毎日でも見せられるよ」
カミラさんも嬉しいのか、声が弾んでいる。
初めて竜化を見た日、私が怖がるんじゃないか、と慎重だったカミラさんを思い出す。あの時は気づかなかったけれど、かなり不安だったんだろうな。懐かしい。
「リア、ちゃんと掴まっててね」
「はーい」
「まぁ、落ちても助けるけど」
「信頼してます!」
「ふふ。じゃあ、飛ぶよ」
ふわり、と浮き上がり、どんどん高度が上がる。
「なんか久しぶりな気がします」
「そうだね。中々機会がなかったもんね」
「やっぱり、空はいいですね」
「リアが気に入ってくれて良かった。リアが望むなら、何時だって飛ぶから」
声だけでもカミラさんからの愛情が伝わってくる。私が望めば、本当に何時だって飛んでくれるんだろうな。
「たまにこうして乗せてもらえれば充分です」
「そっか。リアは欲がないね」
「普通だと思います」
「もっと、ワガママ言って振り回してくれてもいいんだよ?」
「そんなこと言って、知りませんよ?」
「大丈夫。リアから与えられるものなら、たとえ痛みだとしても嬉しいから。そういえば、最近噛んで貰ってないなぁ……」
「噛みません……!」
「んー、もうちょっと興奮してもらわないとダメか……」
「普通でいいですからっ!」
まだ諦めてなかったのか……あれ、なんの話ししてたんだっけ??
「うん。リアは可愛いね」
「……なんでその結論になったのか分かりません。竜人族って、みんなこうなんですか?」
「ん? そうなんじゃない? 番が全てだから」
「すごい種族ですよね」
「リアもそんな種族の一員だけどね」
「そうでした。でも、私は嫌なことは嫌って言いますよ」
「もちろんそうして。我慢して嫌われるなんて耐えられない」
想像したのか、カミラさんが落ち込んだのが分かった。想像しただけでこんなに分かりやすく落ち込むカミラさんが愛しい。
出会った時に言われた通り、嫌なことをされたことなんてないのに。
「そろそろ帰りましょう。夜ご飯の準備をしないと」
「うん。今日は何作るの?」
「まずは買い物に行かないと、食料がありません」
「そうだったね」
元々のカミラさんのお家からそんなに離れていないから、生活圏内が変わる訳では無いのに、なんだかワクワクする。環境が変わっても、カミラさんが居れば何も心配ないって思うから、新生活への不安はない。
この先何度住む場所が変わっても、カミラさんと過ごす日常は変わらない。
「カミラさん、ずっと一緒にいてくださいね」
「……っ、リア、買い物やめない?」
「やめません」
「だよねぇ……あぁ、私の番が可愛すぎてつらい……夜は覚悟してよ?」
「え? ちょっと聞こえないです」
「ふふ、急に? そんなところも好きだけど」
カミラさんは相変わらず私に甘すぎる。
「私の嫌いなところとか無いんですか?」
「嫌いな所……? んー、もっと甘えて、依存して欲しい。私と離れたら生きていけないないくらいに。でも、しっかり意思を持ってるリアが好きだから。どんなリアも、愛してる」
「……聞いた私が恥ずかしいです」
相変わらず、激重。でも、そんな思いを向けられても嫌じゃないのは、私の意思を尊重してくれるって分かってるから。
竜人族の番の方はみんなこんな思いをしているのかな? 竜人族同士ならお互い様なのか……?
番持ちの方にいつか会えたら色々聞いてみよう。
長い人生、いつかは出会えるだろうから。
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