重い愛
ヒロイン(アメリア)視点
「夜は外に出ないでね? ちゃんと鍵もかけて、誰か来ても開けちゃダメだからね」
「カミラさん……もう何回も聞きました」
「やっぱり、イザベラの所に泊まらない?」
「……私、成人してるんですけど」
カミラさんが泊まりがけで訓練に行く事が決まってから、もう何度も聞いた。初めてお留守番をする子供のように、心配されている。
カミラさんはかなり反対したらしいけれど、例年通り今年も行われることになったらしい。
「あぁ、行きたくない。リアも一緒に行こう」
「私も仕事があるので……明日には帰ってくるんですよね?」
一緒に行けるなら、本当は行きたい。でも、一般人が同行したらダメなのは分かる。
「うん。すぐ帰ってくるよ」
「明日は休みなので、家で待ってますね。その、私も寂しいですし……」
実家への帰省以外でカミラさんがいない夜を過ごしたことがないから、絶対寂しいと思う。
「……っ、リア、ベッド行こ?」
「残念ながら、もう出勤時間です。まだ足りないんですね……」
「足りるわけない」
1日会えないから、と全然寝かせてくれなかったのに元気すぎる。さすが2、3日寝なくても余裕な人は違う……
「リア。今日の夜はしっかり寝ておいてね」
「はい。早く寝ます」
「帰ってきたら、寝かせてあげられないから」
また寝かせてもらえない感じですね。知ってた。
「あぁ、心配だな……本当に1人で大丈夫?」
「大丈夫ですって。最初は1人で旅行に来たんですよ?」
「そうなんだけど……出会った頃のリアも可愛かったなぁ。もちろん今だって可愛いけど。警戒心の塊で、初々しくて、ちょっと触っただけで真っ赤になって……」
「何を思い出してるんですか!? そういう事を思い出して欲しい訳じゃないですから!!」
「怒ってるリアも可愛い」
「……仕事行きますよ!」
恥ずかしすぎる。カミラさんに言わせると、全部可愛いになっちゃうんだもんな……絶対可愛くないのに。相変わらず激甘……
「リア、待って」
「はい?」
「本当に気をつけてね。リアに何かあったら生きていけない」
呼び止められたかと思えば、抱き寄せられて真剣な表情で伝えられた。真っ直ぐ伝えられる言葉が、偽りのない本心だって分かる。
万が一、私に何かあれば戸惑いなく後を追うだろうから。カミラさんからの愛は、それほどに強く、重い。
人族のままなら、重さに耐えられなかったかもしれない。
でも、竜人族に限りなく近づいたことで、番の繋がりも感じるし、これが無くなったら私も生きていけないと思う。
「はい。気をつけます。カミラさんも、気をつけてくださいね」
「うん。リアと引き離された鬱憤を存分にぶつけて来るよ」
「……それは、程々に……」
カミラさんが本気で暴れたら、地形が変わっちゃうんじゃないかな。訓練相手の方、強く生きて……
「リア。行ってらっしゃい。じゃあ、また明日。……明日、か。はぁ……」
仕事場まで送ってくれて、自分で言って落ち込むカミラさんが可愛すぎる。
「カミラさん、可愛い」
「リアの方が可愛い……ねぇ、やっぱり一緒に行こ?」
超絶美形の甘えた声も表情も、反則だと思う。通行人の方、気持ちは分かるけど、前を見ないと危ないですよ。
「明日には会えますから、頑張りましょう」
「はぁぁ……行ってきます……」
「はい。行ってらっしゃい」
おでこに口付けが落とされて、何度も振り返りながらカミラさんは詰所に向かって行った。
さて、今日も1日頑張ろう。
*****
「これにて本訓練は全て終了です。各隊長の皆様、補足はありますか? ……はい。無いようですので、各自解散で結構です。お疲れ様でした」
団長補佐に引きずられて登場した残念な兄からの言葉だとか、文官からの事務的な内容を聞かされたけれど、早く帰りたくてあんまり聞いていなかった。
「エマ。先に帰る。後は任せた」
「はいはーい」
「隊長、ずっとイライラしてましたもんね」
「文官さんだってお仕事なのに早くしろ、って圧掛けられてビクビクしてたよ」
「アメリアちゃんが待ってるんですもんね。一緒に家までついて行って再会を陰から見守りたいけど、隊長に追いつける気がしない……」
「絶対竜化して帰る気ですよ。あんなに目立つのが嫌いだったのに。あ、やっぱり」
「はー、いつ見ても輝いてるわ」
「あの辺の子、唖然としてるけど隊長の竜化初めて見たのかな?」
開けた場所で竜化をすればざわめきが聞こえてきたけれど、エマに任せたし、私の仕事はもう終わり。1秒でも早く、リアの元に帰ろう。
スペースが無くて直接家には帰れないから、詰所で降りて竜化を解いた。庭に降りられるように引越ししようかな……よし。今度リアに相談してみよう。
「リア、ただいま。会いたかった」
「カミラさん、おかえりなさい。私も会いたかったで……えっ、どこへ??」
「ベッド」
1日ぶりにリアに会ったのに待てる? 待てない。
待てないのが分かっていたから、詰所でシャワーを浴びてきて正解だった。
抱き上げたリアをそっとベッドに降ろして組み敷けば、仕方ないなぁ、というように微笑んでくれて、早々に理性を手放した。
「カミラさん……ベッドに入ったのはまだお昼すぎだったと思うんですが……今何時ですか?」
「あと2時間くらいで出勤時間かな」
「……あさ」
「ご飯食べる? 簡単に作ったけど」
ちょっと前に、リアが気絶するように眠っちゃったから家にあるもので作った。本当は美味しいものを食べて欲しいし、イザベラの所に行こうかと思ったけど、少しでもリアと離れるのが嫌だったから。
「食べたいです」
「はい、あーん」
「……ん」
「かわい」
リアは何をしていても可愛い。もうちょっと時間があるし、もう1回できるかな。
「美味しいです!」
「良かった。もっと?」
「はい」
ベッドの中だと、食べさせてもらうことに抵抗が無くなったリアは素直に口を開けてくれて嬉しい。とにかく疲れているだけかもしれないけど。
「ご馳走様でした」
「リア」
「……おやすみなさい」
「だめ?」
「まぁ、今寝ても1時間も寝れないですけど……」
頬を撫でれば、上から手を添えてくれた。これはもう、OKって事でいいよね。
手の届く範囲にリアがいれば、いつだって触れ合っていたい。
離れていても繋がっている感覚はあるけれど、やっぱりそばに居たい。
リアが望んでくれるなら仕事中だって一緒に居たいけど、ちゃんと自律しているし、そこは強制できない。そういう、意思の強いところも好きだし。嫌いなところなんてないけど。
他種族だと、番からの愛の重さに耐えられない、なんて聞くこともあるけれど、リアは大丈夫だろうか、と
心配になる。
耐えられない、と言われてしまってももう逃がしてあげられない。
「カミラさん、何か不安ですか?」
「あー、伝わった? 私からの愛が重すぎて嫌になったりしてない?」
「はは、確かに重いですよね」
「うん……」
「でも、全然嫌じゃないです。私もきっと、同じくらい重いですから」
お互い様ですね、と笑うリアがどうしようもなく、愛しい。かけがえの無い、私の半身。
これからもずっと、私のそばで笑っていて。
リアに私の全てを捧げるから。
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