反動

 アメリア視点


 朝目が覚めると、身体が重かった。頭も痛いし、すごく寒い。


「げほっ」

「ん……リア?」

「起こしちゃってすみません」


 まだ早い時間なのに、私の咳で起こしてしまって申し訳ない……


「ううん、大丈夫。体調悪い?」

「なんだか寒くて……」

「ちょっとごめんね。リア、すごい熱い……」

「げほっ……風邪引くの久しぶりです……」

「え、風邪? 風邪ってこんなに熱出るの?」


 カミラさんは種族的に風邪を引きにくいから経験が少ないのか、珍しく慌てている。


「寝てれば治るので大丈夫です……」

「え、駄目だよ。こんなに熱いのに……でも寒いんでしょ? これ以上熱上がったら死んじゃうんじゃない!?」

「ふふ、死にませんよ」

「薬なんてあったかな……人間の医者? 竜人の医者? 今日の当番誰だっけ」


 もう私の言葉は耳に入らないみたいで、こんなカミラさんは初めて見る。



 心配性のカミラさんに抱き抱えられて詰所にやってきたけれど、すごく注目を浴びていて、恥ずかしすぎてカミラさんの胸元に顔を埋めた。あ、なんかざわついた。羨ましいでしょー? やばい、なんかテンションがおかしくなってる。


「あれ、隊長。番ちゃんどうしたんですか?」

「アイラ、いい所に。リアが体調崩してて。マリーの所に連れていくから、今日はエマの指示で動いて」

「伝えておきます。番ちゃん、お大事に」

「すみません、ありがとうございます」


 マリーさん、って人がお医者さんなのかな?


「リア、平気? もうすぐ着くから」

「はい。平気です」


 カミラさんの言う通り、直ぐに医務室が見えてきた。どんな先生なのかな。


「マリー、入るよ」

「お? カミラ? どうぞー。え!?」


 カミラさんを見て、お姫様抱っこをされている私を見て、またカミラさんを見て、なにやら頷いている。


「噂の番ね。カミラがデレデレって聞いて信じられなかったけど噂以上」

「ベッドに寝かせても平気?」

「もちろん」

「え、椅子でいいですよ!」

「駄目」


 抵抗虚しく、ベッドの上に降ろされた。しかも布団まで掛けてくるし。これから診察してもらうのに……先生も苦笑してるけれど、カミラさんはさらに追加しようとしてくる。


「カミラさん、これ以上は潰れます」

「でも寒いんでしょ?」

「それはそうなんですけど、苦しいです」

「うわ、ごめん」


 私が体調を崩しただけでいつも落ち着いているカミラさんがこんなに慌てちゃうなんて、寒いけれど、心は温かい。


「お名前は?」

「アメリアです」

「アメリアちゃんね。寒気と、他の症状は?」

「頭痛と、喉の痛みと倦怠感があります」

「うん。じゃあ診察するね。あ、カミラは外で待ってて」

「なんで」

「これから診察するけど、番に触られて黙って見てられるの?」

「無理。触れなくても診察出来るでしょ」

「はぁ……これだから番制の種族は……ほら、出てて」


 先生は呆れたようにため息を吐いてカミラさんを追い出した。カミラさんは渋っていたけれど、先生に何かを言われて外に出ていった。


「さて、ちょっと見せてね。あ、横になったままでいいから」

「ありがとうございます」

「カミラの鱗は飲んだんだよね? カミラの匂いと混ざってはいるけど、随分竜人族に近い匂いがする」

「はい」

「多分それの反動だと思うんだよね」


 一通り確認してもらった結果、やっぱり反動らしい。変化が落ち着いて、慣れてきた頃に体調を崩すケースが結構あるのだとか。

 人族から竜人族っていう種族差、しかもカミラさんは竜人族の中でも能力が高いから、この程度の症状しか出ていないのはかなり軽い方みたい。

 私の症状は風邪程度だけれど、急激な変化で身体が消耗しているから今日は横になっているように、と言われてしまった。


「さて、待てが出来なくて乗り込んできそうだから呼びますかね」


 途中で何度か声をかけてきていたし、きっとウロウロしてるんだろうなって思ったら思わず笑ってしまった。


「リア、大丈夫?」

「はい」


 呼ばれて直ぐに、というか話が聞こえていたのか呼ばれる前に入ってきたカミラさんに抱き寄せられた。


「聞こえてたと思うけど、今日は無理をさせないように」

「分かってる」

「カミラに余裕があって優しくできるなら性行為は問題なし。むしろ少し馴染ませた方が早く良くなるはず。抱き潰す、とかは駄目ね」

「あー、自信ないな……手とか、肌の触れ合い程度だと足りない?」

「本当は体液がいいんだけど。触れ合いだけなら、裸で抱きしめたまま半日くらいかな。耐えられる?」

「半日……」


 え、なんの会話?? 抱き潰す、とか体液、とかって言いました??

 今度は準備じゃなくて、カミラさんの鱗に適応するためってこと?


「リアの体調見て考えるわ」

「それがいいね。アメリアちゃん、お大事に」

「……ありがとうございました」


 2人は普通に話していたけど、私はただただ恥ずかしかった。



「飲み物持ってくるから待っててね……リア?」


 今日はお休みを取ってくれたカミラさんと家に帰ってきて、私をベッドに寝かせて部屋を出ようとするから、急に心細くなって思わずシャツを掴んでしまった。


「飲み物要らないです。そばにいてください」

「ーっ!? リア……あんまり誘惑しないで?」


 困ったように眉を下げて頭を撫でてくれる。カミラさんの新たな一面が見れて嬉しいし、キュンとする。


「すき……」

「はぁぁ……リアちゃん、少し寝ようね?」

「眠くないです」


 まだ10時前だし、全然眠れそうにない。


「喉、痛いよね?」

「痛いです」

「だよねぇ。ふぅ……よし! リア、服脱いで? 一緒に寝よ」

「はぃ??」


 服を脱ぐ……? 先生が言ってた、裸なら半日、ってやつ? 


「私が脱がせてもいいけど」

「っ、自分で脱ぎます……」


 カミラさんは着ていた服を脱ぎ捨ててあっという間に裸になった。いつ見ても綺麗で惚れ惚れする。

 布団を被ったまま服を脱いでベッド下に落とせば、カミラさんが横に寝転んで抱き寄せてくる。

 素肌が触れ合って気持ちいいけれど、行為もなしに裸で抱き合う、っていうのが初めてでなんだか緊張する。


「リア、緊張してる?」

「はい……」

「可愛い。早く良くなってね」


 そう言うと唇に触れるだけのキスをくれて目を閉じてしまった。

 絶対寝れない、と思っていたのにすっかり寝てしまって、起きた時には随分痛みが引いていた。


「リア、おはよ」

「おはようございます。どのくらい寝てました……?」

「6時間くらいかな」

「そんなに!? カミラさん、お昼食べました?」

「ううん。1食くらい食べなくても余裕」

「すみません……」


 ご飯も食べずに抱きしめてくれてたんだ……カミラさんと触れ合っていたからこんなに良くなってるんだろうな。


「随分熱も下がったね。お腹すいたでしょ? 持ってくるね。って言っても昨日リアが作ってくれたご飯だけど」

「私も行きます。あ、やっぱりいいです」


 離れたくなくてついて行こうとしたけど、裸なんだった……


「ふふ、待っててね」


 カミラさんは優しく微笑んで、裸のまま部屋を出ていったけれど、私にはまだハードルが高いです……


 カミラさんがご飯を用意してくれている間に下着を身につけて、シャツを羽織る。布団で隠せば、下はパンツでもいいよね。


「リア、お待たせ。あー、服着てる……」

「そりゃ着ますよ。むしろカミラさんはなんでまだ裸なんですか」


 不満そうだけど、さすがに裸だと落ち着かないって。カミラさんも服着てください……


「どうせまた脱ぐから?」

「目のやり場に困るので……」


 シャツを羽織ってくれたけれど、裸にシャツ1枚の破壊力……むしろ裸よりエロいんじゃ?? 結局直視できない。



「リア、喉の痛みどう?」

「良くなりました」

「良かった。優しくするから、いい?」


 ご飯を食べ終えてまた横になれば組み敷かれて、熱い視線で見つめられて頷いた。カミラさんのこの表情、好きだなぁ。


 カミラさんは優しく触れてくれて、むしろ焦らされてるんじゃないかって思うくらいゆっくり抱いてくれた。


 翌朝、体調はすっかり良くなったけれど、声は余計掠れた気がするし、腰が痛い。


 無理をさせない、って意味分かってます?? 

 焦らされすぎて私の方が先に理性が飛んでしまったから、カミラさんだけのせいじゃないけど……


「リア、体調はどう?」

「良くなりましたけど、腰が痛いです」

「それはごめん……弱ってるリアが可愛くてつい。欲しくて泣いちゃうリアも可愛かったし、お強請りも最高だったし、「わー、もうそれはいいです!」」


 思い出しただけで恥ずかしい。今すぐ忘れて欲しい。


「リアの可愛いところいっぱいあるのに」

「今すぐ忘れてください」

「残念ながら記憶力はいい方なんだ」

「最悪……」

「ふふ、可愛い」


 カミラさんが体調を崩す事があったら今度は私がお世話をしたい。弱ってるカミラさんとか絶対可愛いに決まってる。


 体調を崩して沢山心配させてしまったけれど、大事にされてるなっていつも以上に感じた。

 これからもずっとそばに居てくださいね。

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