番外編
カミラの嫉妬
リアの気持ちを疑ったことなんてない。接客業という仕事上、色んな人と接するのは仕方ないし。でも実際に見ると自分の感情が抑えられない。今すぐリアに触れた人族の男を店から追い出したいけれど、それをしたらリアに怒られるのは間違いないよね……
「カミラ、手。傷つけたらアメリアちゃんに怒られるよ?」
エマに言われて、また無意識に手を握りしめていたことに気づいた。
「分かってる」
「カミラさん、番ちゃんには相変わらず勝てないんですね」
アイラがしみじみ呟くけれど、"私の大切なカミラさんを自分でとはいえ傷つけないでください"なんて言われたら勝てるわけないよね? 私の番、可愛すぎない?
「それにしても、嫉妬するカミラさんを見ることになるなんて数年前は想像もしていませんでした! 怒ってるカミラさんの冷たい視線が堪らないですね! ほんと、アメリアちゃんには感謝しかないです。また午後からも頑張れます!」
「……そう」
何が楽しいのか、私と接客をしているアメリアを交互に見ながらクロエがニヤニヤしている。
こっちは結構本気であの男をどうしてやろうか、なんて感情と戦っているのに。
「カミラさん、皆さん、お仕事お疲れ様です」
「リアもお疲れ様」
少し経つと、リアもお昼休憩になったのか、空いていた私の隣に座った。まずはさっき人族の男が触れた手を拭かないと。
「カミラさん、くすぐったい」
「我慢して」
「はーい」
私の好きにさせてくれるリアはきっと私の嫉妬に気づいてる。
見回りだったり、仕事が落ち着いている時にリアに会いに通っていたら、休憩が重なった時には一緒にお昼を食べてくれるようになった。私は嬉しいけれど、お客さんも他の従業員もいるし大丈夫なのか心配になって聞いてみたら、どうやら店長からの許可が出ているらしい。
私とリアが揃っているとお客さんが増えるんだとか。見世物じゃないんだけど、とは思うけど、リアと過ごせるならそんなことはどうでもいい。
「リア、あーん」
「わーい! 今日のランチも美味しい」
「ふふ、かわい」
リアが笑っていると私も嬉しい。リアのお昼が運ばれてくるまで私が頼んだものを食べさせていたら、少し離れたところでリアの同僚がランチプレートを持ったまま固まっている。
「リア、あれ」
「え? あー、カミラさんがそんな風に笑うから……」
私のせい? ちょっと行ってきますね、とリアは同僚のところに行ってしまった。
「カミラさん、相変わらずでれっでれ……最高……」
「さっきまで怒ってたとは思えないですね」
同僚と話をしているリアは私のことを褒められて嬉しそうに笑っている。はぁ、かわい……好き。
「カミラ、声に出てる」
「え?」
無意識に呟いていたらしい。リアが可愛いから仕方がない。
「すみません。ご飯貰ってきました」
「おかえり」
ランチプレートを持って戻ってきて、美味しそうにご飯を食べるリアは本当に可愛い。リアが許してくれるなら全部食べさせてあげたいんだけどな。
「カミラさん、これきっと好きだと思うので食べてみてください」
おかずを私の口元に近づけて食べさせようとしてくれる。嬉しいけど、リアに食べさせてもらうのはいつになっても照れる。
「……ん、美味しい」
「良かった。今度家でも作りますね」
「ありがとう。リアが作ってくれるご飯は全部美味しいから楽しみ」
お世辞でもなんでもなくて、リアが作るものはなんでも口に合う。私がろくに料理をしないからリアが担当になっているけれど、負担になってるかもだし私も少しは覚えようかな。
「カミラさんは食べる担当でいいんですよ」
「あれ、声に出てた?」
また無意識に呟いてた?
「ううん。負担になってるかな、とか考えました? そんな顔してたので。私が作ったご飯を美味しそうに食べてくれるカミラさんを見るのが好きなので、気にしなくていいんですよ」
「リア……好き」
優しく笑うリアが可愛すぎる。一緒にいる時間も長くなって、私の考えていることを読まれることが増えてきた。
頬を撫でればくすくす笑うリアが愛しくて、引き寄せられるように顔を近づけた。
「はい、そこまでー」
「エマ……手、邪魔」
「エマさん、もう少しだったのに……!! でもその前のやり取りも尊い……」
リアの唇に触れるはずだったのに、触れたのは前に座っているエマの手。テーブルに反対の手をついて体を乗り出して遮っている。
「睨んだってだめ。ここはどこでしょう?」
「リアの職場」
「はい、正解です。周り見てみな?」
言われた通りに見渡してみれば、お店にいる全員がこっちを見ているんじゃ、という程の視線。
ものすごく注目されてる……さっきリアに触れた人族の男の驚愕したような表情も目に入った。
「カミラさん、恥ずかしいのでキスはお家でにしてください」
リアを見れば、照れくさそうに笑っていて今すぐ家に帰りたくなった。午後休んでいいかな?
「リア、午後休もう?」
「ダメですよ。お仕事頑張ってきてください」
「口じゃなかったらいい?」
リアは私のものだって見せつけておきたい。私の独占欲に、仕方なさそうに笑って頷いてくれた。
「ありがとう」
「嫉妬させちゃってましたよね? でも、私にはカミラさんだけですから」
おでこに口付けをして離れようとしたら、グッと手を引かれて頬に柔らかいのものが触れた。
「じゃ、私は戻りますね。ごゆっくり」
イタズラっぽく笑って、食べ終わった食器を持って戻っていった。うわ、不意打ちはずるい……
「番ちゃんイケメンー!」
「受けのカミラさんもあり……!! カミラさん、実際どうなんです?!」
「クロエ、こんな所で話す話題じゃないから……」
盛り上がっている部下たちの声も、周りからの悲鳴も全く耳に入ってこないくらい、リアだけを見つめていた。
リア、帰ったら覚悟しておいてね?
「おかえりなさーい!」
玄関を開ければ、リアがパタパタと走ってきてぎゅっと抱きついてきてくれた。
「ただいま」
「ご飯できてますよ。もう食べますか?」
首を傾げながら見上げてくるリアが可愛い。
「うん」
「ぉわっ?! ちょっと、ご飯は?!」
「リアをちょうだい?」
「……っ、その声はずるい」
抱きあげれば逃げようとしていたけれど、耳元で囁けばすぐに大人しくなった。
「ここ、絶対痕付けましたよね?! 朝までに消えるかなぁ……」
「消えなくても見せつけたらいいよ」
「それ、絶対ニヤニヤされるじゃないですか」
裸のまま、首にくっきり付いたキスマークに触れてリアが唸っている。指輪も、番登録のプレートもあるのにリアに惹かれる男がいる訳だし。私だけ、と言ってくれても穏やかではいられなくて、目立つところにキスマークを付けた。
リアも治癒力が上がっているから、多分朝にはよく見ないと分からないくらい薄くなっちゃうだろうけど。
「男避け。リアに触れていいのは私だけなのに」
「嫌な思いさせてごめんなさい。なるべく厨房の希望を出しているんですけど、今日は人が足りなくて」
「仕事なのは分かってる。でも、絶対故意にリアに触れてたし、嫌だった。リアが怒るだろうから割り込むのは我慢したけど」
「我慢してくれてありがとうございます」
嫉妬なんて情けないな、と思いつつ文句が溢れればリアがぎゅっと抱きしめてくれた。
「リア、好きだよ」
「私もです。カミラさん、可愛い」
「リアの方が可愛い……っ、んっ」
優しく見つめられて、ゆっくり唇が重ねられた。リアから触れてくれることも増えて、好奇心旺盛に色んなことを吸収していくリアの成長スピードに驚かされる。初めは少し触っただけで真っ赤になってたのになぁ……
「カミラさん、何考えてるんですか?」
「え? 初めの頃のリアからは考えられないなぁ、って」
「そうですね。どうやったら攻められるか、って必死でしたもん。今もそれは変わらないですけどね? さて、今度は私の番ですよ」
そう言うリアは今私の上にいて、私を組み敷いてニヤリ、と笑っている。悪い顔するようになっちゃって……そんなリアも好きだけれど。
「リア……キスして?」
「っ……そんなに煽って、知らないですからね」
大人の意地で余裕を見せてみたら赤くなる所はやっぱり可愛い。
「ふふ、赤くなっちゃって可愛いね?」
「カミラ……もう黙って。私がカミラさんしか見てないって証明してあげます」
「ーっ!! んぅっ……」
突然の呼び捨てはずるい。言葉と共に唇を塞がれて一気に余裕がなくなった……
日に日に成長していくリアの傍にいられる幸せを感じながら、余計なことは考えずにリアに身を委ねようと目を閉じた。
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