18.引越し

 リアと週末だけ一緒に過ごす生活も早2ヶ月が過ぎた。

 リアがこっちに住むと言ってくれたから、リアのものが家に増えていっている。

 私に触れられる事にも随分慣れてくれたし、一緒に住める日が待ち遠しい。


「カミラ、やっと会えたな。おーい? 聞こえてる? 聞こえてるよな?」


 リアの事を考えながら執務室に向かう途中で面倒なのと遭遇した。話題なんてひとつしかないのは分かっているから無視して通り過ぎる。


「呼び出したってちっとも来やしない。皆お前に番が現れてでれっでれだって言うから、紹介してくれるのを待ちわびてるぞ」


 まだ蜜月期間すら過ごせてないし、しばらく紹介するつもりなんてない。無視しても気にせず話し続けていて、すれ違う隊員たちがギョッとして避けていく。


「なぁ、番の子、次いつ来んの?」

「教えない」

「相変わらず冷てー。お前がでれっでれとか想像つかねぇ」


 なんで優しくしてやらないといけないのか。余計なことしか言わなそうだし、リアには絶対会わせたくない。


「昔はお兄ちゃんお兄ちゃん、って可愛かったのになー」

「いつの話?」

「ほら、呼んでみ? なんならお兄様でもいいぞ?」


 絶対嫌。呼んでたのなんて何十年も前の話でしょ。


「で、どこまでついてくる気?」

「そりゃ番の子の情報が貰えるまで」

「はー、さっさと回収しに来てくれないかなぁ……」


 きっと抜け出してきたんだろうし、今頃探してるんじゃないかな。


「見つけた! やっぱりここでしたか」


 と思ってたらちょうどお迎えが来たみたい。


「団長補佐、お疲れ様です。これ、連れ帰ってください」

「お前、お兄様相手にこれって……」

「では、私はこれで」

「近いうちに帰ってこい、だってさ。伝えたからなー!!」


 団長補佐に引きずられながら、大声で叫ぶ兄……あんなのが騎士団長でいいんだろうか?



「お帰り、ってあれ? なんか疲れてる?」

「さっき団長と遭遇して」

「あー、それで」


 エマが納得したように頷いている。少しの時間だったけれどどっと疲れた。


「カミラさん、さっき団長とすれ違いましたけど会いました? 相変わらずキラッキラでした」

「残念ながら会った」


 少し遅れて入ってきたアイラも遭遇したらしい。

 ハイテンションすぎて疲れるからあんまり会いたくない。外見は似ていると言われるけれど、性格は真逆。


「わざわざこっちまで来たってことはカミラに会いに来たの?」

「そうみたい。リアに会わせろ、ってさ」


 普段は違う建屋にいるから滅多に会うことなんてない。私が呼び出しに応じないから焦れて直接来たんだと思う。


「会わせるの?」

「出来るなら会わせたくないから、忙しい時を見計らって実家に帰るつもり」

「さすがにカミラの番には手を出さないでしょ」

「もちろん出させないけどね」


 というか、出したら殺る。

 兄はとにかくモテる。そして来る者拒まずだから常に彼女が何人もいる。女の子達もそれでいい、って更に寄ってくるからハーレムが出来上がっているけれど、もし番が現れたらどうするんだか。ま、私には関係ないけど。


「アメリアちゃん、もうすぐ引っ越してくるんでしょ?」

「そう。今週来るよ。2週間休むからよろしくね」


 リアが仕事を辞めると話したら、カフェの店長が元々はこっちの出身らしく、2店舗目を出す予定があるからまた働かないかって言って貰えたらしい。私たちにとっては願っても無い申し出だった。


「カミラが辞めなくなったし、2週間任されました」

「その後も隊長を押し付けられなくて残念」


 リアがこっちに住むなら辞める必要が無いとエマも喜んでくれたしね。2週間の休みも貰うし、それまでしっかり働きますか。



 待ちに待ったリアが引っ越して来る日、仕事終わりに迎えに行くと家族総出で外で待っていてくれた。


「おはようございます。お待たせしてしまったようで申し訳ありません」

「カミラさんおはようございます。お迎えありがとうございます!」

「リア、おはよ」


 今日もリアは可愛いな、と眺めていたらリアの隣にいる義父から視線を感じた。視線を送れば、バッと逸らされる。

 挨拶に行った後も何度かお会いしたけれどいつもこんな調子で避けられている。

 やはり娘を奪っていく私には複雑な思いがあるらしい。引越しの日までそんな様子の義父に皆苦笑している。


「じゃ、行ってきます! ちょこちょこ遊びに来るね」

「全く、買い物行ってくるね、位の軽さなんだから」

「飛べばすぐだもん」

「アメリアが飛ぶわけじゃないでしょ」


 呆れたような義姉と、そんな姿をにこやかに眺める旦那さん。番が可愛くて仕方ないんですよね。分かります。


「カミラさん、妹のことよろしくお願いします」

「こちらこそ。何かあればすぐに来ますので遠慮なくご連絡ください」


 連絡がなくても、定期的にリアを連れてくるつもりだけど。


「アメリア、カミラさんにご迷惑おかけしないようにね」

「はーい。気をつけます」

「カミラさん、娘をよろしくお願いしますね」

「はい。大切にしますのでご安心ください」


 義母は相変わらずおっとりしている。初めて挨拶に行った時も動じてなかったしね。


「いってきまーす! カミラさん、行きましょう」

「では、失礼します」


 挨拶を済ませて、リアと並んで歩き出す。荷物はもう一通り揃っているから、普段泊まりに来る時と同じくらいの荷物しかないけれど、これから一緒に住めるんだもんね。ここまで長かったな……



「リア、おかえり」

「ただいま」


 軽く夜ご飯を食べてから帰宅して、ただいま、と言って入ってきてくれたリアがちょっと照れくさそうで可愛い。


「はー、やっとリアと住める」

「お待たせしました」


 ソファに座ってそっと抱き寄せれば背中に腕を回してくれて、こういう触れ合いにも随分慣れてくれたなって嬉しくなる。リアの職場のカフェのオープンまで2週間あるから、私も休みを取っているし、今まで離れていた分補充しないと。


「さて、明日から2週間休みだね?」

「……はい」


 頬に手を添えてじっと見つめればじわじわ頬が赤くなってくる。こういう所は相変わらず初心で可愛らしい。


「キスしてもいい?」

「……はい。もう聞かなくて大丈夫です」


 部屋で二人きりで、いきなりそういう雰囲気になるとまだ怖いかな、と確認するようにしていたのだけれど、もう聞かなくていいの?

 いい、って言うなら遠慮なく。


 びっくりさせないように軽い口付けをして、徐々に深いものにしていけばリアが縋り付いてきて可愛すぎる。


「ん……はぁ、カミラさ……苦し……」

「可愛い。本当に可愛い」


 ちょっと夢中になってしまって、リアが涙目で見上げてくる。もう可愛いしか出てこない。


「えっ、カミラさん、待っ……んゃっ」


 ゆっくりソファに押し倒して、唇で首筋に触れればリアから声が漏れて煽られる。


「リア。いっぱい声聞かせて?」

「やです……! っ、ぃたっ?!」

「ん、綺麗についた」


 2週間は休みだし、と今まで付けたくても我慢していたキスマークをつければリアがびっくりしたように目を見開く。


「もしかしてキスマークですか??」

「うん。ずっと付けたくて。リアも付けてみる?」

「えっ?! カミラさんに?! どうすれば……?」


 最初だし、二の腕辺りがつけやすいかな、とリアを起き上がらせてやり方を説明する。

 自分で言っておきながら、リアの唇が触れると思うと緊張する……


「じゃ、失礼します……」

「ーっ!」


 ゆっくりとリアの顔近づいてきて、二の腕に唇が触れる。これでいいのかな? と言わんばかりに見上げてくるリアが可愛くて、軽く付けてみる? なんて言った事を後悔する。

 これ、私が辛いだけじゃない? 無理。可愛すぎて無理。


「わ、すみません、痛かったですか?」


 私の様子を見て、痛かったのかと心配そうにしてくれるけれど、リアの可愛さに動揺したなんて情けなくて言えない。


「……ううん、平気。上手についたね」


 誤魔化すように、抱き寄せて頭を撫でれば、気持ちよさそうに目をつぶってもたれかかってくれる。

 安心しきっているリアには悪いけれど、そろそろ私の下で可愛く啼くリアが見たい。


「えっと、さっきので終わりじゃ……?」

「無いね」


 再びソファに押し倒せば、あれ? というような表情で見つめてくる。キスマークをつけたくらいじゃ満足出来ないよね。


「カミラさん、ここソファ……!」

「ん? 嫌? ベッド行こっか」

「えっ、いや、そういうつもりじゃ……わっ?!」


 場所を変えたい、という意味じゃないなんて分かっているけれど横抱きにすれば抵抗することなく首に手を回してくれる。顔を見ようとすれば隠されたけど、耳が真っ赤。


 番登録をしてからここまで長かった。この後からの2週間を思ってきっと悪い顔をしていると思う。リアが顔を埋めていて良かった。きっと怯えさせていたと思うから。

 リアが想像している2週間とは程遠いかもしれないけれど、ごめんね。竜人族の番への執着を思い知って嫌われないといいな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る