9.帰国
ヒロイン(アメリア)視点
イザベラさんに挨拶をして、迎えに来てくれたカミラさんと出国の手続きをしてから騎士団の詰所にやってきた。
既に籠が用意されていて、周りに騎士さんが数人待っている。
「カミラ隊長、お疲れ様です。準備出来ております」
「助かります。番のアメリアです。リア、輸送部隊の隊員から説明を受けてくれる?」
カミラさんとは部隊が違うみたいで、輸送部隊の方々から緊張が伝わってくる。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。カミラ隊長に番が現れるとは、喜ばしいことです。では、説明させていただきますね……」
緊急時の対応等の一通りの説明を聞いて、籠に乗れば過ごしやすいようにクッションや食べ物等が用意されていた。
籠の高さは私の身長より少し低いくらいで乗り出さないと外が見えないな、と思ったけれど、ちゃんと外を見るための小窓が付いていた。
女性の隊員さんがこっそり教えてくれたけれど、中に入っているものは私が快適に過ごせるように、と全部カミラさんが用意してくれたらしい。なんだかくすぐったい気持ちになる。
「リア、飛ぶよ」
説明を受けている間に竜化していたカミラさんが輸送部隊の方にお礼を言って翼を広げる。どういう仕組みなのか、それなりに距離があるのにカミラさんの声がよく聞こえることに驚いていたら、ふわり、と浮き上がってみるみるうちに地面が遠くなった。
「わあ……!! 綺麗ー!」
「ふふ、危ないから乗り出しちゃダメだよ?」
夢中になって景色を見ていたら、カミラさんが気をつけるように言ってくるけれど、そこまで子供じゃないです……
揺れないように気をつけてくれているのか、空の旅は快適で、旅行に来た時にはこんな風に帰国することになるなんて想像すらしていなかった。
「リア、もうすぐ着くよ。門から少し離れたところに降りるね」
「はい。お願いします」
考え事をしている間にいつの間にか近くまで来ていたみたいで、見慣れた街並みが見えて、入国を待つ人達がこっちを見上げて驚いている様子がよく分かる。
カミラさんはすぐ帰っちゃうのかな? 番って言ってくれたけれど、これでさよなら?
「少し揺れるから気をつけて」
だんだん地面が近づいて、トン、と籠が地面に着いたのが分かった。
「リア、大丈夫?」
「はい。全然揺れませんでした。ありがとうございます」
「良かった」
カミラさんと話している間も沢山の視線を感じていて、ものすごく目立っている。国で竜を見た事なんてないし、入国を待つ人たちも初めて見る人が多いと思う。
「目立ってるな……ちょっと戻るね。そのまま中にいて」
どんどん小さくなって、元の姿に戻っていく。2度目だけれど、不思議な光景。
「リア、出られそう?」
「はい。大丈夫です!」
入る時にも使った折りたたみ式の踏み台に登るとカミラさんよりも身長が高くなって変な感じ。
籠の縁をまたぐとカミラさんが抱き寄せて降ろしてくれた。
「リア、これからも会ってくれる?」
緩く抱きしめられたまま、少し不安そうな声でカミラさんが聞いてくる。これからも会いに来てくれるのかな?
「え……来てくれるんですか?」
「もちろん。リアに会うためならどこにでも」
「これでさよならかと思ってました……」
私の言葉に、きょとん、とするカミラさんが可愛い。そっか、また会えるんだ……
「はー、逃がしてあげられない、って言ったでしょ? 本当なら帰したくないし、ずっと一緒にいたいよ。ねぇリア、私じゃだめ?」
目を合わせて、縋るように気持ちを伝えてくれるカミラさんにドキドキする。
「私、女性と付き合ったことなんてなくて……あ。男性とも無いですけど。それに番、っていうのも分からないし、自分でもどうしたいのか分からなくて。でも、今こうしていてドキドキするし、また会えるのが凄く嬉しいです。まだ出会って間もないですがカミラさんに惹かれていると思います……」
カミラさんの傍にいると心地良くて安心するし、常に私のことを気遣ってくれて大切にされてるなって感じる。何より、触れられても嫌じゃないし、むしろ嬉しいなって思う。
「それって……リア、前にも言ったけど、誰よりも大切にするから私の番としてずっと一緒にいて欲しい」
カミラさんの目からは期待と不安が伝わってきて、緊張しているのが分かる。
「まだカミラさんの気持ちに全然追いついていないと思いますけど、こんな私で良いんですか?」
「リアがいい。私にはリアしかいないし、もっとリアが私を好きになってくれても、私のリアに対する気持ちを超すことは無いだろうしね? 多分もう分かってると思うけど、竜人族って番への愛が重いから。少しでも気持ちがあるなら私を選んで?」
竜人族全般なのか、カミラさんだけなのかは分からないけれど、気持ちをストレートに伝えてくれるし、一緒にいると離れたがらないからそれは分かってる。
「……はい」
「っ!! リア……リア。本当に?」
これだけ思ってもらえて、今の私でいいと言って貰えるなら、と頷けば、切れ長の目がうっとりと細められて、頬に手が添えられる。親指で唇をなぞられて、屈んだカミラさんの綺麗な顔が近づいてくる。
ドキドキしすぎて動けなくて、目も閉じられないまま、そっと唇が重ねられた。うわ、柔らか……
触れるだけで離れたけれど、キスなんて初めてしたし心臓が……
「リア、愛してる。家まで送らせて?」
「はい……」
キスの後に目を開けたカミラさんの表情がまたエロいし、目がとろーんとして大人の色気にドキドキが止まりません……そしてそんな表情のカミラさんから言われた愛してるの破壊力。無理。色気ありすぎて無理……
「リア? 嫌だった?」
「嫌じゃないです。嫌じゃないですけどっ」
唇に触れたまま固まっていたらカミラさんが心配してくれるけれど、さっき触れた唇に目がいってしまって恥ずかしくなる。キスした後ってどうしたらいいの?
「リア、こっち向いて?」
「ちょっと時間下さい……!!」
私はこんなに恥ずかしくて顔も見られないのに、カミラさんは余裕そう。大人だし、経験値の違い??
そういえば、歳上なのは確かだと思うけれど、カミラさんっていくつなんだろう? 10歳くらいは上なのかな?
「リア、そろそろ平気? 行こっか」
差し出された手を取ってハッとした。場所なんてすっかり忘れていたけれど、ここは外で、しかも物凄く注目を浴びていたんでした……
カミラさんは周りの視線を全く気にした様子もなく、繋いでいない方の手で私が乗ってきた籠を軽々と引いて歩き出す。え? そんなに軽々と? 1人用とはいえ、結構大きいし重そうなのに。
「カミラさん、重くないんですか?」
「キャスターついてるし、全然。危ないから、リアはダメだよ」
言われなくても挑戦しません。私は潰される自信がある。
入国を待つ人たちの後ろに並ぶと、ただでさえ目立つカミラさんが大きな籠を引いているから凄く注目を浴びている。
「そうだ。カミラさんっていくつなんですか?」
「ん? リアの5倍くらいかなー」
えっ? 5倍? 私が今18歳でしょ……え??
「えっ? 嘘ですよね??」
「本当。竜人族は長命種族だからね。私なんてまだまだ若造扱いだよ。平均寿命は300歳とかだったかな? 個人差がすごいからもっと長く生きてる竜人族もいたはず。私だと、人族で言えば30歳くらいの感覚かな」
種族の差って凄い……他種族が番だと一緒に過ごせる時間も短いんだろうな。さっき恋人になったばかりだけれど、本当に私でいいのかな……
「リアー? また考え事? 余計なこと考えてる?」
「えっ?!」
カミラさん、エスパー?? 覗き込んでくる顔が綺麗すぎるし、近い。そしてやっぱり唇に視線がいってしまう。私変態だったのかな……
「私は人族で、寿命が違うじゃないですか……いいのかなって」
「これ、あげるって言ったの覚えてる?」
そう言ってシャツのボタンを外して喉元の鱗を見せてくれる。鱗もキラキラして綺麗だけれど、綺麗な鎖骨にドキドキします……
そういえばそんな事も言っていたよね。何か関係あるのかな?
「寿命は竜人族の平均くらいには伸びると思う」
「えっ?!」
「まあ、これを飲んでもらわなきゃなんだけど」
え、飲むの? というか、やっぱり剥がすの? 痛い思いはして欲しくないな……血も怖いし。
「リアの親しい人達を見送ることになっちゃうけれど、その時が来れば寿命を伸ばすことを選んで欲しいなって思ってる」
300歳まで生きるとか想像もつかないし、気になることが多すぎる……
「あの、その時って、なにか目印になるようなことがあるんですか?」
「うん。リアの準備が出来れば、鱗が剥がれる、らしい。私も聞いただけでよく分かってないんだけど」
「準備……」
私の準備って何? 心の準備ってわけじゃないよね?
「無理やり剥がして飲んだとしても、身体が適応できないから、徐々に私に慣らしていくんだ」
「慣らす……?」
どういうこと??
「あー、簡単に言うと、体液の摂取」
「たっ?!」
体液?! うわ、こんな所で聞くんじゃなかった……! 体液の摂取ってそういうことだよね?
「真っ赤。可愛いね」
そりゃそうなりますよ……!! 想像しちゃったし、キスだけであんなにドキドキしたのにその先なんてどうなることか……
「血液でもいいんだけど、リアは苦手だしね」
今度は血液……私がそっちの方が、って言ったら躊躇いなく自分のこと傷つけそうだよね。
「血は苦手なので無理です」
「そうだね。それならやっぱりキスとか、その先とか……ね?」
ね? って私を見つめる視線がエロいです……ちょっと抑えてもらわないとドキドキしすぎてやばいです。想像してしまって、唇やはだけられた胸元を見てしまえばカミラさんが妖しく微笑む。もしかして見てたことバレてる?!
「ふふ、リアも興味ありそうだね」
「ーっ!! そんなことないです……」
バレてた。恥ずかしい……
「リア……」
私の名前を切なそうに呼んで、顎に指が添えられて上を向かされる。
ゆっくり顔を近づけてくるから、今度はぎゅっと目をつぶった。そっと唇が重ねられて、さっきより少し長めに触れて離れていった。
「この先は2人だけの時にしようね」
「ふぁっ?!」
耳元で囁かれた言葉に一気に体温が上がる。その声、絶対わざとですよね?
「本当に可愛いな。ゆっくり慣れていこうね」
耳をおさえて何も言えない私の頬を撫でて嬉しそうに笑っているけれど、もういっぱいいっぱいです。お手柔らかにお願いします……
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