第2章 恋人編

10.指輪

 ヒロイン(アメリア)視点


 色々と衝撃的なことをぶっ込まれて呆然としている間に自分の入国手続きの順番がやってきていた。


 門番の騎士さん達がカミラさんの美貌に固まっている。まあ、そうなるよね……カミラさんは知らない人に向けた安定の無表情で対応しているけれど、何度見ても違和感がすごい。


「ん? リア、どうかした?」

「いや、なんでもないです」


 私の視線に気づいて、表情を和らげるカミラさんを見て、慣れているはずの対応を間違えまくるお兄さん……頑張れ。


 無事に手続きが終わって、籠も預かってもらった。通りを歩いていると、至る所から視線を感じる。カミラさんですよね。目立ちますもんね。


「リア、手出して?」

「手? はい」


 言われた通りに差し出せばぎゅっと握られて満足そうに笑っている。笑顔が眩しいです……


「見られてるから、リアは私のって見せつけておこうと思って」

「いや、誰も私の事見てませんって」


 私が嫉妬するならまだしも、カミラさんの心配は無意味だと思うよ……でもカミラさんからの独占欲が嬉しいと感じる。


「こんなに可愛いのに。あ。人族は指輪が必要だよね。早く指輪買わないと」

「もうですか?!」

「うん。今から買いに行こ」


 繋いだ手をにぎにぎしながら、どこのブランドがいいかな? なんて言っているけれど、そんなポンっと買うものじゃないような……

 人族の既婚者はお揃いの指輪を付けていて、私にもいつかはそんな日が来るのかな? なんて思っていたけれど恋人になったその日に、なんて思ってもいなかった。


 獣人族とか有翼人は種族によっては付けられなかったりするけど、カミラさんは見た目は人族と変わらないし、付けてくれるのかな?



 私が戸惑っている間に、誰もが知っているようなブランドの店舗に連れてこられて、目の前には色々な種類の指輪が並べられている。


「リア、好きなの選んで?」

「え……」


 こんなお店に入ったのなんて初めてだし、場違い感がすごくて、とても選べる気がしない。


「うーん、リアは手が小さいから、あんまり石が大きくない方がいいかな。デザインの種類はどれが好き? これは?」

「それ以外でお願いします」


 見かねてカミラさんが選んでくれているけれど、デザインの種類だけでもこんなにあるなんて知らなかった。

 指輪の内側にまでダイヤが敷き詰められているのを差し出された時は思わず拒否してしまったし。傷つけそうだし、値段を見るのが怖い……


「リア、この2つならどっちが好き? こっちね。じゃあ、この中ならどれ?」


 素材は、とか、石の色は、とかを店員さんと話しながら、この中ならどれが好き? と何度も見本を差し出してくる。

 好みだけれど高そう、と違う方を選んでもカミラさんには気づかれていて最終的にすごく好みの指輪が選ばれた。


「よし、これにしよう。サイズありますか?」

「本当に買っちゃうんですね……あの、私も払いますので! 旅行しちゃったばっかりなのですぐには払えないんですけど……」


 いくらするんだろう? 並んでいる指輪にも値段が書いていないし、アクセサリーに詳しくないから大体の金額すら分からない。


「贈らせて? リアに苦労をさせない甲斐性はあるつもりだし」

「いや、でも……」

「私がリアに指輪をして欲しいから買うんだし、受け取ってくれるだけで嬉しいから」


 ね? って微笑まれて、出会った時から甘かったけれど、恋人になってからのカミラさんは更に甘い。

 ひたすら甘やかされて、ダメになるんじゃないだろうか……


 笑顔で店員さんに見送られ、外に出た時にはもう薄暗くなっていて、結構時間が経っていたみたい。


 最終的に決めた指輪は、ちょうどサイズがあってその場でカミラさんがはめてくれたのだけれど、あまりにも愛おしげに見つめてくるから他のお客さんからの注目も浴びるし、ものすごく恥ずかしかった。


「ありがとうございます」

「ううん。サイズがあって良かった。虫除けにちゃんとつけておいてね」

「カミラさんこそ」

「もちろん外さないよ」


 カミラさんの指にもお揃いの指輪が輝いていて、なんだか照れくさい。


「リア、お腹すいてる?」

「すいてますー!」

「お家で食べる? 何か食べていく?」

「美味しいご飯屋さんがあるので、一緒に行きませんか?」


 カミラさんともう少し一緒にいたいな、と思って誘えば嬉しそうに頷いてくれた。歳上だけれど、表情が豊かで可愛い。



「カミラさん、暗くなっちゃいましたが、帰り大丈夫ですか?」

「全然平気。来る時はゆっくり飛んだけど普通に飛べば直ぐだしね。ちょこちょこ会いに来るよ」


 ご飯を食べ終えて、話しながら歩いていたら家の近くまで来ていて、なんだか名残惜しい。


「送ってくれてありがとうございました。ここです」

「今日はご家族いる?」

「多分いると思います」

「もし会ってもらえそうならお会いして挨拶させて欲しいな」


 会ってもらえるのは嬉しいけれど、カミラさんを見たらどんな反応するかな……


「ちょっと待っててくださいね」


 カミラさんが頷いてくれたから、急いで玄関を開けて家に入れば、バタバタと足音が聞こえてきた。


「アメリア、無事か? 帰りが遅いから心配した」

「……ただいま」

「変な男に絡まれたりは? もう心配で心配で」

「お母さんは?」

「アメリア……その指輪は……? え? この短い間に何が?? 男か? 男が出来たのか? やっぱり1人で旅行なんて行かせずについて行くべきだった……!!」


 目ざといな……混乱している隙に入っちゃおう。

 リビングにはお母さんとお姉ちゃんと義兄さんが揃っていて、ご飯を食べているところだった。


「アメリア、おかえりー。お父さんに会った?」

「お姉ちゃんただいまー! うるさいから玄関に置いてきた」

「お義父さん、もうずっとそわそわ落ち着かなくて迎えに行った方がいいんじゃないか、ってずっと言っててね……」


 想像がつく。この後も大変かな……


「お母さん、会って欲しい人が居るんだけど……」

「会って欲しい人? 旅先でいい出会いでもあった?」

「うん。私ね、竜人族のお姉さんの番らしい」


 貰っちゃった、と指輪を見せれば三者三様の返答が帰ってきた。


「アメリアも?! え、お姉さん? 同性なの?」

「姉妹揃って番がいるなんて素敵ねー」

「お義父さんが荒れそうですねぇ……」


 義兄さんは狼の獣人で、狼の耳とふさふさのしっぽがついている。お姉ちゃんが義兄さんを連れて来た時はお父さんが大荒れだった。別に人族じゃなきゃ、って事ではなくて、単純に娘に相手が出来たことがショックだったらしい。

 お母さんは私たちが選んだ相手なら反対しない、と常々言ってくれていたから心配していなかった。ただ、さすがに同性なのは驚くかな、と思っていたけれど普段通りおっとりしていて凄い。


「お相手は今居るの?」

「うん。外で待ってもらってる」

「お父さんは大丈夫だから、入ってもらって」

「アメリア!! まだ話は終わってない……ってどこへ?」


 復活してきたお父さんの横をすり抜けてカミラさんを呼びに行く。お父さんのフォローはお母さんに任せるに限る。


「カミラさん、お待たせしました。どうぞ」

「ありがとう」


 ふわりと笑うカミラさんは緊張した様子もなく堂々としている。私がカミラさんのご家族に会うとなったら緊張で大変なことになりそう……


「初めまして。隣国の騎士団に所属しております、カミラと申します。竜人族で、見ての通り女ですが、アメリアさんが私の番です。既に指輪は贈らせてもらいましたが、番登録の許可を頂きたくご挨拶に参りました」


 綺麗な所作で挨拶をしてくれるカミラさんに、ポカーン、としている4人。


「番登録なんてあるんですか?」

「うん。人族でいう婚姻届だね」

「へー、婚姻届かー。婚姻届っ?!」


 え、番登録=結婚?? あれ、付き合う報告、というよりもう結婚報告? 思い返してみれば、番としてずっと一緒にって言われて頷いたんだもんそういうことになるのか。


「うん。リアのお姉さんかな? の旦那さんも登録されていると思うよ」

「あ、そうです姉です! 身近にいるのに全然知らなくて……」


 お姉ちゃん達がどんな手続をしたかなんて全然知らなかった。カミラさんと出会った時に、もっと色々と番について聞いておけば、と後悔したくらい。

 竜人族と獣人族だと聞いても違うことが多いのかもしれないけれど。


「これから色々教えてあげる」

「……はい」


 優しく微笑みながら頭を撫でてくれて、なんだか照れる。大人だなぁ……


 いつの間にか復活していたお父さん以外にニヤニヤと見られていて恥ずかしかった。いつから見てたの? 声かけて?

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