8.帰国日の朝
食堂のドアを開ければ、初めて会った日と同じ場所にリアが座っていた。
「リア。おはよ」
「カミラさん! おはようございます」
あの日と違うのは、私を見てリアが笑ってくれること。リアが笑ってくれるだけで幸せな気持ちになる。
私の番は本当に可愛い。
「カミラ、おはよう。遅かったね? てっきり早く来ると思ってたけど」
ちょうどリアの朝食を持ってきたイザベラが不思議そうに聞いてくる。本当はね、リアより早く来て待ってるつもりだったんだよ……
「おはよう。早く来ようと思ってたんだけど、リアに早く会いたいな、って朝まで起きてたら気づいたら寝てた」
「……子供か」
昨日徹夜したからかな? 2日寝ないくらい余裕なはずなんだけどな……
「リアと同じのちょうだい」
「OK!」
イザベラを見送って、リアに向き直る。何か言いたげにじっと見上げて来るけど、どうしたのかな?
「カミラさん、ちゃんと寝ないと……」
「じゃあリアが一緒に寝て?」
「うえっ?! えっ??」
あー、可愛い。赤くなっちゃって、何を考えてるのかな? まあ、一緒に寝たら今度こそ手を出しちゃうから現実的じゃないけれど。
「あはは、可愛い。ほんと可愛い」
「そんなに笑わないでくださいよ!!」
「ごめんね?」
真っ赤な顔で私の腕をバシバシ叩いてくるけれど、全然痛くない。
「リアの手が痛くなっちゃうよ」
「ーっ!」
そっと左手を掴んで少し赤くなった手のひらを撫でればすっかり大人しくなった。
「リアって手ちっちゃいよね」
「そうなんですよね。子供みたいって言われます」
大きさを比べてみたら、確かに大人と子供みたい。強く握ったら折れちゃいそう。
「あ、そういえば手の傷どうですか?」
「この通り、すっかり」
「わ、もう? 良かった……」
確かめるように触れてくれて治癒力に驚いている。リアから触れてくれて嬉しい。そのまま指を絡めるように繋げば驚いたような表情をしたけれど、振りほどかれることはなかった。
「もう傷つけないでくださいね?」
うーん、それは無理かもなぁ……今だって上目遣いが可愛くてできるなら抱きしめたい衝動と戦っている。
「可愛い。ぎゅーしたい」
「え? いきなり?」
「リアが上目遣いするから」
「それはカミラさんと身長差が……」
目を見ようとしてくれると自然と上目遣いになっちゃうんだろうけど、可愛すぎて、頑張って耐えてる。
「リアは150cmくらい?」
「一応154cmあります。カミラさんは背高いですよね」
「173cmくらいかな。20cmくらい差があるんだね」
おー、って見上げてきて可愛い。もう可愛いしか出てこない。
「お待たせー。あ、ごめん。お邪魔だった?」
「えっ? いえ全然っ!!」
リアが嫌がらないから、指を絡めて繋いだままにしていたらイザベラが朝食を持ってきてくれた。私はそのままが良かったのに、サッと離されてしまって残念。
「カミラさん、食べないんですか?」
「ん? 食べるよ。リアが可愛いから見ていたくて」
「見なくていいです……!」
美味しそうに食べるな、と見ていたら気になったのか手で顔を隠されてしまった。
「照れてるの? 可愛いね」
「だから……、すぐそういうこと言わないでくださいって」
「うーん、慣れて?」
「無理……!!」
少しでも気持ちを伝えたいし、一緒にいられるときに沢山甘やかしたい。
「リア、今日の予定は?」
「今日はお土産を買いに行こうと思ってます」
今日帰っちゃうんだもんね。寂しいな……
「そっか、何時に出発するの?」
「15時の予定です」
「もしリアが嫌じゃなかったら送らせて?」
背中に乗るのは難しいだろうから、専用の籠に乗ってもらおう。輸送を仕事にしている竜人族もいるし、騎士団でも輸送部隊があるし、緊急時に竜人族が騎士や物資を運んだりすることもあるからその辺は整っていたりする。
「え……でもお仕事はいいんですか?」
「大丈夫。エマに押し付け……任せるから」
うん、全然問題ない。悩んでるみたいだけれど、竜化したときも喜んでくれたし、飛ぶって言ったら惹かれてOKしてくれないかな?
「空、飛んでみたくない?」
「え?! もしかして竜化して送ってくれるんですか?」
「そう。どう?」
「飛んでみたいです!!」
思った通り、キラキラした目で見上げてきて可愛らしい。
「よし、決定。じゃあ15時前に迎えに来るね」
「よろしくお願いします」
イザベラにこの前のお弁当代も支払って食堂を出る。いい天気で良かった。雨でも飛べるけれどせっかくなら空からの景色を楽しんで欲しいし。
「おはよう。エマ、早速で悪いけど今日の午後任せていい?」
「アメリアちゃん送ってくんだよね。そのまま向こうに住むの?」
「うーん、今考え中。まだ恋人になれてないし、リアも仕事があるからね……しばらくはこっちから会いに行こうかなと思ってる」
本当は少しだって離れたくないけれど、せっかくリアが心を開いてきてくれたのに、ストーカー紛いなことをして台無しにしたくない。
「あれでまだ恋人じゃないんですもんね……」
「番ちゃんもカミラさんのことキラキラした目で見てましたし、お似合いでしたけどね」
「応援してます……!!」
「カミラさんがアメリアちゃんを見る目も話し方も優しいし声がエロいし竜化したカミラさんが顔を寄せるところとか尊すぎたしずっとでれっでれだし色気やばいし、本当にありがとうございますっ!!」
部下たちからの応援はありがたいけれど、クロエは少し落ち着いた方がいいと思う。よく一気に言い切ったな……
「クロエ、ちょっと落ち着こうか。カミラさん引いてるから」
「アイラにはこの尊さが分からない?! 付き合う前からこれで、この先があるんだよ?」
「うん……私にはまだわからないかな……」
「エマさんは分かってくれますよね?!」
「えっ?! あー、うん、そうだね……」
エマ、アイラ、クロエの事は任せた……
リアを迎えに行く前に、輸送を担当している部隊に行って手続きを終わらせた。
私が人族を運ぶ、と言った時の担当者は唖然としていて、復活するのに少し時間を要したけれど、私に番が現れた事をすごく喜んでくれて、一番いいやつを用意すると言ってくれた。
リアが過ごしやすいようにクッションや食べ物等を用意して渡しておいたから快適に過ごしてもらえるはず。
これで準備は出来たし、あとはリアを連れてくるだけになって、いよいよ帰っちゃうのか、と寂しくなる。
本当ならこっちにいる間に恋人になって欲しかったけれど、もう一度断られたらもう会えない気がして躊躇ってしまった。逃がしてあげられない、なんて言いながらも、リアから嫌われるのは耐えられない。
触れることを許してくれたし、嫌われてはいないと思いたいけれど、一緒にいられた時間は短いしどこまで気持ちが伝わっているかも分からない。
また会ってくれるかだけでも確認しよう、と消極的な自分に呆れるけれど、恋人になれたとしてもリアには適わないんだろうな、と確信している。
でろっでろに甘やかして私無しでは居られないようにしてしまいたいな、なんてリアに知られたら引かれそうなことを考えつつ、迎えに行くために歩き出す。
今はまずリアと過ごせる時間を大切にしよう。
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