7.デート
ヒロイン(アメリア)視点
「リア、どうかした?」
「いや、なんでもないです」
カミラさんに名所の案内をしてもらっているのだけれど、とにかく目立っている。本当に綺麗だよな、と見上げれば不思議そうに首を傾げられた。チラ、と視線を下げれば手には包帯が巻かれている。
さっきイザベラさんから竜人族の番について聞いて、カミラさんの思いを知った。
地位もあって、誰よりも優れた容姿で沢山の人に慕われていて。カミラさんに会いたがっている人だって多くて、男女問わず選び放題だと思うのに、それでも私が番だって、大切だって言ってくれる。
どこに行っても目立っているし、男女問わず声をかけられたりしているけれど、カミラさんの表情が変わることは無い。
横目で見ているけれど、いつものカミラさんとは全然違くて、こんなに冷たい目で見られたら私なら挫けそうだよ……
最初恋人に、と言われた時は遊んでそう、なんて思っていたこともあって遊びかな、なんて考えもあったけれど、私に向けられる視線、表情が他の人に向けられるものとは全然違っていて、本気なんだって実感する。
通りを歩いていたら上空を青い大きな何かが通ったけれど、なんだろう?
「カミラさん、あれって……?」
「ああ、竜?」
話には聞いたことがあったけれど、実物を見たのは初めて。騎士団の詰所の方に向かっているから、騎士団には竜がいるのかな? 1度でいいから近くで見てみたい。
周りでも見上げている人は多いけれど、騒いでいる様子はないから、この国では珍しい事じゃないのかもしれない。
「竜なんて初めて見ました! この国には沢山いるんですか?」
「ん? リアは知らないか。あれ、竜人族だよ」
「え?」
竜人族って竜にもなれるの? もしかしてカミラさんも……?
「他の国では竜人族はあんまり居ないもんね。自分の意思で自由に竜になれれば成人として認められる、って感じかな」
「カミラさんも……?」
「うん。なれるよ」
うわ、絶対見たい。何色の竜になるのかな? やっぱり銀かな?
「あはは、そんなにキラキラした目で見てきて可愛いね。そんなに気になる?」
「え、顔に出てました?」
「うん。出てた」
うわ、恥ずかしい。
「見せてあげたいけど、ここでは無理だなー。すぐ見たい?」
「えっと、カミラさんが嫌じゃなければ……」
「じゃあ、詰所行こうか。あそこなら広いから」
今回はカミラさんが一緒だからすんなり中に入れて、注目を浴びながら中庭まで来た。何人か休憩している騎士の方々がいる。あそこにいるのってエマさんとクロエさんかな?
「あれ、カミラどうしたの?」
「忘れ物ですか?」
「リアに竜になった姿を見せようと思ってさ。休憩?」
「休憩。え、カミラが竜化なんて珍しい。目立つからっていつも嫌がるのに」
「カミラさんの竜化……?! こんなに早く見られるなんて! 番のためなら目立つのも構わないってことですね……!」
やっぱりお2人で、不思議そうに近づいてきてカミラさんと話している。嫌がる素振りもなく見せてくれる、と言ってくれたけれど、話を聞く限り珍しいんだ……
「リア、怖かったら直ぐに戻るから、無理しないで教えてね?」
「分かりました」
「ちょっと目瞑ってて? ……開けていいよ」
目を開ければ、少し離れた所に銀色の美しい竜がいてこっちを見つめていた。
「綺麗……」
姿かたちは全然違うのに、心配そうに見つめてくる碧眼は間違いなくカミラさんのもので、呼ばれる前にフラフラと近づいていた。
「リア。怖くない?」
竜化しても普段通り話せるみたいで、心做しか声も心配そう。顔だけでも私なんて丸呑みされそうなくらい大きいけれど、全く怖さは感じない。
怖いどころか、キラキラ輝く鱗に触れてみたいな、と思ってしまう。
「怖くないです。本当に綺麗。触ってもいいですか?」
「良かった。もちろん」
手を伸ばせば触れる距離まで近づくと、顔を地面につくほど下げてくれて、触りやすくしてくれた。そんなカミラさんの行動に、周りで見ていた騎士さん達がざわついている。
鼻筋? を撫でると気持ちよさそうに目を細めていて、なんだか可愛い。
「カミラさん、可愛い」
「可愛い? その感想は予想外。リアの方が可愛い」
可愛いって言い過ぎだと思う……どう見ても私よりカミラさんの方が綺麗だし可愛い。
「……えっと、あんまり竜化しないんですか?」
「しない。銀竜は少ないからとにかく目立つんだよ……今みたいに無駄に集まってくるし」
げんなりしたように言われた言葉に周りを見渡せば、さっきよりも明らかに騎士さんが増えているし、騎士さん以外も見に来ている。皆さんお仕事いいんですか……?
カミラさんに触れる私に向けられる視線は、信じられないものを見るようなもので、普段のカミラさんからは考えられない事なんだって教えてくれる。
「カミラさん、見せてくれてありがとうございます」
「リアにならいつでも見せるよ。もういいの?」
「はい。満足です」
「じゃ、危ないからさっきのところで待ってて」
エマさんとクロエさんの傍に戻ると、どんどん小さくなっていって普段のカミラさんの姿に戻った。
「あ、良かった服着てる」
一瞬、服を着ていなかったらどうしようと思ってしまった。もし戻った時に裸ならこんなに沢山の人の前で戻るわけがないのだけれど。
「服ね、成人前だと上手くいかなくて戻った時に裸だったり、服が破れてたりすることがあって。どれだけダメにしたことか……」
「誰もいないところで何度も練習したね」
クロエさんが遠い目をしながら教えてくれる。戻った時に裸なんて悲惨……エマさんの言うように誰もいないところじゃないとっていうのも納得。どういう仕組みなのか不思議。
「リア。ただいま」
「おかえりなさい」
戻ってきたカミラさんがただいま、って優しく声をかけてくれたから、自然と言葉が出ていた。なんかちょっと恋人っぽい?
「え、尊い……これでまだ恋人じゃないんですか?」
クロエさんも同じことを思ったのか、呆然とこっちを見ている。
「まだ恋人じゃないよ。恋人になって貰えるように口説いてるところ。リア、甘いもの好き? 美味しいお店があるんだ」
「好きです!」
「ふふ、可愛い。行こっか」
クロエさんに答えると直ぐに私の方を向いて甘く微笑みかけてくる。クロエさんとエマさんが何か言っていたけれど、甘いものに意識が逸れてもう聞こえなかった。
お店に着いて席に案内されると、少し離れた所にあるテーブルに沢山のスイーツが並べられていて、女の子たちがきゃあきゃあしながら好きな物を選んでいる。
「リア、荷物見ておくから、好きな物取りに行っておいで」
「いいんですか?! 行ってきます!!」
そわそわし過ぎだったかな? どれも美味しそうで、浮かれつつ選んでいると、近くにいる女の子達がカミラさんのことを話しているのが聞こえた。やっぱり有名なんだな……
ちら、とカミラさんを見ればずっと見られていたのか目が合って微笑ましげに見つめてくる。浮かれてるの見られてたかな……恥ずかしい。
カミラさんの微笑みに悲鳴が起きて、ちょっとびっくりした。
「おかえり。楽しそうだったね」
「見てました? どれも美味しそうで」
「うん。可愛かった」
「ずっと思ってたんですけど、サラッと言うのやめてください」
もう何回言われたか分からないよ……
「可愛いって? だって可愛い。他になんて言ったらいい? 好き? 愛しい? うーん……」
「うわ、もういいです!!」
ダメだ……通じてない。むしろもっと悪化しそう。
「えっと、カミラさんは食べないんですか?」
あんまり甘いもの好きじゃないのかな?
「うん。リアと離れたくないから」
「ぇっ?!」
まさかの理由……! すぐそこなのに。こんなにちょっとの距離も離れたくないとか、さっき笑顔で見送ってくれたのも本当は無理してたのかな?
私が人族だから、同族だったらしなくてもいい我慢を沢山させてるんじゃないのかな……
「リア? どうした?」
考え込んでいると、カミラさんが心配そうに覗き込んでくる。
「カミラさんの番が同族なら良かったのになって」
「……何か嫌になった? 重い?」
私の言葉が足りなくて勘違いさせちゃったみたいで、また辛そうな顔をさせてしまった。
「そうじゃなくて、沢山我慢させてるんだろうなって」
「なんだ……私はリアがいい。心配してくれてありがとう。優しいね」
ほっとしたように息を吐いて、嬉しそうに笑ってくれる。
「リア、好きだよ。私の番はリアだけ」
「ふぁっ?! カミラさんの分もケーキ取ってきますー!」
頬に手が添えられて、うっとりと見つめられて恥ずかしくなって逃げてしまった。あのままキスされるかと思った……そして嫌じゃなかった自分にもびっくりした。
「カミラさん、今日はご馳走様でした。沢山案内してくれてありがとうございました」
「ううん。私こそありがとう。」
あの後も色々なところに案内してもらって、宿まで送って貰ってお礼を言えば、カミラさんからもお礼を言われた。
「明日が最終日だよね? 明日も会いに来てもいい?」
「はい」
「ありがとう。仕事前に寄るね。おやすみ」
「おやすみなさい」
半日一緒に過ごして、竜になった姿も見せてもらったし、少しはカミラさんのことを知れた気がする。
明日が最終日で、お別れかと思うと急に寂しくなる。
恋人にはなれない、なんて言ったけれど、カミラさんに惹かれ始めている事に気づいている。
もう時間が無いけれど、私はどうしたいんだろう……
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