壁にめり込んだ男:9 副 業

「こんな小細工に使う前に、防犯基準を守ったらどうだ!」

「デニさん。その指摘は少し違う」

「わん」

 警官に挟まれ委縮する従業員に向かって、デニさんは厳しい言葉を投げていた。

 主人が依頼した探しものは、路地のダストボックスからすぐに見つかった。

 古品市バザーで買えそうな果物の静物画で、額の一部がへし折れている。ガラスも割れているが、これは従業員が処分した際に砕けたものだろう。

 そして、描かれている葡萄の一粒分がくり貫かれて穴が空けられていた。撮影機シューターのレンズをはめ込むには丁度いいサイズだ。

 そこにはめ込まれていたであろう小型の撮影機シューターは、奥のランドリーから発見された。一緒に隠されていた携帯電算機ハンドキュレーターで、部屋の映像を覗き見していたようだ。公共の有線端末パブターミナルは使わず、メモリーナカダチ等で売買をしているのだろう。

 吐き気を催す収入源だ。

「どうする?消されたデータの復旧を待つか?」

「いや、それよりも早く終わらせるよ」

「わん」

 詰めに入るため、わたし達は再び現場に戻った。

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