壁にめり込んだ男:8 発 覚

「紙幣には、あんたの匂いしかなかったそうだ。暇を見つけては金勘定でもしてたのか?にしても昨夜払ったばかりの金からも、持ち主被害者の匂いが消えるのはおかしい」

「じゃあ、奴の金はどこに?」

 とデニさん。

「どこにもないさ。払ってないんだから」

「タダで泊まったのか?」

「顔馴染みなら成立する話だろ」

「あ、後から来る女性が払うと押し切られたんですよ」

「後から?一緒に入ったんじゃないのか?」

「勘違いですよ。他の客と間違えたんです」

「なるほど。しかし、一晩相手が来ないのはさすがに変と思わなかったのか?」

「そんな詮索はしませんよ。お客に失礼でしょ」

 苦し紛れだな。

 ここで主人が決め札ジョーカーを切った。

「ところで、もうゴミは出した?」

「え?ええ…」

「デニさん。ちょっと探してきてくれる」

「何をだ?」

「壊れた額縁に入った穴の開いた絵」

 それを耳にした瞬間、従業員の顔が蒼白となった。

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