壁にめり込んだ男:7 追 求

「嘘って、一体どういうことですか?」

 羊亜種パーメの従業員は明らかに狼狽していた。苦みのある刺激臭焦りからくるストレスが漂う。

「まず、被害者と女性は昨晩来たというが…」

「そこから嘘なのか?」

 とデニさん。

「半分な。来たのは被害者コークス一人だけだ」

「な、何を根拠に…」

「うちの相棒」

「わん」

 わたしは先程入室した時点で、現場の痕跡トレパスの精査も済ませていた。それに関する結論は、既に主人に伝達済みだ。

「相棒が言うには、一晩泊まったにしては、女性客の気配匂いが驚く程希薄だったようだ。おそらく、女性が来たのは事件発生の直前…」

「言うにはって、犬でしょう…」

「それと、あんたの被害者の関係だけど」

 当然の疑問を口走る従業員を黙らせ、主人は続ける。

「面識ないような口振りだったが、それも嘘だ」

「そ、それも何を根拠に…」

「それもうちの相棒」

「わん」

 従業員は再び何か言いたげだったが、それを許す主人ではない。

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