壁にめり込んだ男:6 分 析

 粒子エスパスで象られた紙幣の列が、わたしの前に並んでいる。

 東大陸ジペングニアには"金は天下の回りもの"という言葉があるそうだが、それはこの国でも同じだ。ヒトからヒトへと巡り渡る金は、情報の宝庫であり、事件関係者の足取りを追う手がかりにもなる。

 その分、余分に得られるものも多いので、その精査には時間がかかるのだが、妙なことだった。

 眼前に並ぶ紙幣からは、ほぼひとつの匂いしか見出せなかったのだ。それも、直前に知ったばかりのもの。

 立場を考えれば、それがある事自体は不自然ではないが、それが不自然な程にありすぎる。

 そして、あるはずのものが、なかった。

「あるか?ニール」

「・・・」

 わたしは無言で答えた。

「そうか、ないか。発見者さん」

 間を置かず、主人が矛先を従業員に向けた。

「は、はい?」

「あんた嘘ついてるだろ」

 主人の言葉をきっかけに、デニさんの眼が完全に容疑者を睨むそれへと変貌した。

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