壁にめり込んだ男:2 概 要

 デニさんは、軽く息を整えて説明を始めた。

「被害者はコークス・ソダー。牛亜種タウロスの男で一応大学生だ。事件発生は6時頃。通報者は下にいた従業員だ。奥で仕事をしてたら二階から轟音が響き、続けて階段を乱暴にかけ降りる音を聞いたそうだ」

「逃げた奴の顔は?」

「見てない。後を追うにも、霧ですぐ見失ったとさ」

「通報の内容は?」

「男が殺されてると喚いてただけだ。で、駆けつけた俺が生存を確認した」

「聴取が続いてるのは怪しいから?」

「よく分かったな」

「第一発見者は第一容疑者だろ」

「それだけじゃないが、何か隠してる」

 疑わしきを嗅ぎとるデニさんの嗅覚は、ある意味わたし以上と言える。

 具体的な根拠はなさそうだが、それに導くのが我々の役目だ。

「とりあえず、現場から何か持ち出してないか聞いてみるか」

「どういう事だ?」

「あれさ」

「わん」

 主人とわたしが示したのは、穿たれた壁の少し上に空いた、小さな穴だった。

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