Ⅰ章 壁にめり込んだ男

壁にめり込んだ男:1 現 場

~場所は戻り、カルタディ区"レストヴィラ:ラムチョ"~


「来たか」

「お待たせ」

「わん」

 我々を迎えたのは、狼亜種ウェアルフの刑事であるデニシュ・ブレド。

 通称デニさんだ。

 主人は早速、無残に穿たれた壁に近づく。しかし、肝心なものが無くなっていた。

「ここにめり込んでた男は?」

「今頃、病院だな」

「はっ?生きてんの?」

「ああ。意識は不明だが」

「死んでると思ったけどな」

「わん」

 わたしもだ。

「大袈裟に見えたのは脆い建材のせいさ」

「それがクッションになり、死なずに済んだか」

「そういう事だ」

「ところで、スパ姉さんは?」

 主人はふと、彼直属の部下について尋ねた。

「病院に行かせた。被害者が回復次第聴取させるためにな。あの狭い階段で、尻がはまったら可哀想だしな」

「セクハラだろ」

 あんたがそれ言うか?主人。

「本人に届かなきゃいいだろ。おい。今聞こえた事は忘れろよ」

 ドア脇に立つ警官に釘を刺すデニさん。

 パワハラでは?

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