クラスメイトの山田くんが、今日もTSしたらしい。

鈴木怜

クラスメイトの山田くんが、今日も朝おんしたらしい。

 西浦とタグがついた自分の下駄箱を通り、私はいつものように教室へ入る。

 私の席の隣には、ジャージ姿のクラスメイトが突っ伏していた。


「おはよ。山田くん」

「……おはよう」


 普段通りなら爽やかなテノールボイスで挨拶してくれる山田くんは、今日に限ってはとても憂鬱そうなソプラノボイスをしていた。


「また『朝おん』したの?」

「……そう」


 山田くんが言いたくなさそうに返事をした。

 私は山田くんのこの体質について言われたことを思い出す。


「周期は不明なものの定期的に性別が変わる体質、であってたよね? 山田くんのそれ」

「……あってるよ」

「しかも厄介なのは毎回外見も声も体力とかも変わるってこと」

「男のときは同じ見た目になるくせして」


 いじけたように山田くんが言う。以前は性別が変わることもなかったらしい。どうしてこうなったのかも分からないとかつて言っていた。


「ねえ。どんな顔してるの?」


 未だ見えない今回の山田くんの顔は、どうなっているのだろう。


「……笑わないでよ?」

「笑わないよ」


 これもいつものやりとりだった。出会ったころにクラスメイトの男連中からやまーだべつじん! とかなんとか言われたことをずっと根に持っているらしく、こうやって確認を取ってくるようになった。

 授業中に突っ伏してなんかいられないので、結局は顔を見せることになるのだけれど。


「……じゃあ、西浦さん。見せるよ」


 山田くんが起き上がる。

 まずはじめに目についたのは強気な印象を与えてくるつり目だった。大きな瞳が映えている。困ったように下がった眉とは、ぱっと見て悪くない相性だと思った。

 まるっこい輪郭はそれだけで愛らしさを演出させてくれる。鼻も小さい。小動物のような可愛らしさがあった。


「……西浦さん? なんで何も言ってくれないの?」

「八重歯っ」


 口を開くと気高さすら感じられる八重歯があった。チラリズムという言葉は山田くんのためにあると言い切りたくなるような、そんな八重歯があった。

 それらが相乗効果を生み出し、世間一般でいうところのツンデレのデレが強く出た妹みたいな感じになっていた。一昔前のアニメに出てくるような古き良き妹がそのまま現実世界に出てきたような。そんなかわいらしい顔をしていた。

 山田くんの眉が、いっそう下がる。


「あのー、西浦さん?」

「ああごめん。見とれてた」


 見とれ、と山田くんの顔が赤くなった。

 ヘアゴムの余りがあるなら今すぐにでもツインテールにしてあげたいくらいだった。


「……いつも茶化したりからかったりしないから西浦さんは好きなんだけど、その反応はちょっとどうすればいいの」

「好き!? じゃなかった、かわいいと思うよ、私は」

「そう? ならよかった」


 山田くんが胸に手を当てる。当然、私の目線も下がる。

 ちょっとどうしちゃったの、と聞きたいくらいに膨らんだ胸があった。

 どうしたもこうしたも朝おんしたのだけれど。


「……山田くん、その胸」


 山田くんの顔が曇る。


「……これ? これのせいで制服が入らなくて困ってるんだ」

「いや、そうじゃなくて。……それさ、下着つけてる?」

「……入るサイズのブラがなくてサラシ巻いてる」


 私の中でなにかが白旗を上げた。


「山田くん? TSしたのは何回目?」

「……に、にじゅういっかいめ」

「それだけしてるならいつかこうなる日が来ることも予想できなかった?」

「で、出来たけど考えたくなかった!」


 下着って高いじゃん、と山田くんが泣く。TSしたときの胸のサイズにも傾向があるとかなんとか弁明した。


「……じゃ、山田くん。放課後、時間あるよね?」

「えっ? あるっちゃあるけど」

「ブラ買いに行こう」

「どどどどうして西浦さんととと」

「着せ替えさせてよ! 色々もったいないよそれ!」

「ひゃ、ひゃい!」


 その日の放課後、私と山田くんはショッピングに出た。

 山田くんは「男として見られてないのかな」とか小さな声で言っていたけどそれは無視して、私は山田くんをきせかえ人形にして楽しんでやった。

 次に男に戻るのはいつになるか、山田くんにもわからないらしい。その日まで私は山田くんで楽しんでやるつもりだ。


 まあ、男に戻ったとしても好きなことには変わりないのだけれど。

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クラスメイトの山田くんが、今日もTSしたらしい。 鈴木怜 @Day_of_Pleasure

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