死を抱く

Luac

二十一回目

 大学生の頃、私は葬儀屋でバイトとして働いていた。親戚のツテで手に入れた職で、時給がとても良かった。搬送されてきたご遺体に死装束を着せるのが、私の仕事だった。

 当然であると思われるだろうが、運ばれてくるご遺体は、ご老人がほとんどだ。それらは軽く、そして固い。最初のうちはその固さがこちらまで伝染していたが、二十を数える頃には、私はすっかりそれらの異質さに感じるものがなくなってしまっていた。


 ある日、私は小さな子供の遺体に死装束を着せた。年齢などのプロフィールは、恐ろしくて確認できなかった。私は彼をじっとみた。取り憑かれたようだった、と思う。

 真っ先に、側頭部に目がいった。大きく髪が刈り取られたそこには、ウソのように大げさな接合跡が存在した。そこだけが、彼の死を主張していた。頬は青白かった。唇もだ。それでいて、生命力の面影を感じられた。プールから上がったばかりの、寒さに震える子供と何ら変わらない顔に見えた。私は『ひどく寒そうだな、ここでは居心地が悪いだろう』と思った。閉じられた目は弛緩しており、背筋に寒気が走るほど穏やかだった。首より下は、顕著に若かった。葬儀屋としての私が知らない肢体で、しかし、確かに彼は死体だった。ピンと張った手足が、金縛りから解放されようともがいているのだと思わせた。身に纏う病院服も、むしろ健康的だった。概して、私には彼が死んでいるようには見えなかった。

 私は目を少し伏し、彼を抱き起こした。死装束を着せるためだ。

 それは、軽く、そして固かった。

 それは腕を介して私に訴えかけた。

――見ろ!お前が抱き起こしたこれは、死体だ!お前がかつて抱き起こした二十体、お前が半ば作業として処理してきたそれらだ!

 身体の底の方から、恐ろしさ、やるせなさが一気に込み上げた。そして何より、たった二十回の“かくあるべき死”に触れた程度で、人の死に慣れたと思い上がっていた傲慢への怒りに、私は鋭く刺された。

 それに、死装束をどう着せたのか、私はよく覚えていない。恐らく、多くのご遺体と同じようにして着せたのだろう。

 死装束を着せた後に、私は他の従業員を呼んだ。死化粧を施してもらうためだ。私のような大雑把な男には、このような仕事は難しい。私は彼女に仕事を見学させてもらえるよう頼んだ。最初の仕事以来のお願いだった。彼女は二つ返事で承諾してくれた。

 うすい口紅をさされ、チークを塗られ、ウィッグを被され、それは温かみを持った。陳腐だが、まさしく眠っているようなそれに、私は心を動かされた。その感情にどのような名前が付くのか、無学な私には到底分からない。

 棺にそれを押し込めて、台車ごと冷暗所へ運んだ。家族によって、近いうちに彼を送る葬儀が行われるだろう。私はそこに向かう棺を押しながら、再度、彼には居心地が悪いだろうと思った。そこはひどく寒いから。温かい葬儀が執り行われることを私は祈った。


 翌日、私は親戚に辞意を伝えた。親戚は神妙に私の気持ちを聞き、聞き終わると少しだけ笑った。嬉しいような、切ないような、不思議な笑みだった。彼は死生観について語ってくれたが、これは私だけの秘密にしたい。


 私はふと、この日の出来事を思い出す。極めて衝撃的だった二十一回目を、私は気に病んでいるわけではない。また、それによって人生に大きな変化が起きたというわけでもない。生命に関し、小さな気づきを得ただけだ。そもそも、死を扱う仕事に就くには、私は不思慮にすぎた。違和感を覚えている方もいるだろうが、死とはカウントできるものではないのだ。私が彼を送り出した「二十一回目」を覚えている限り、私は死体を抱き起こすことはもうできないだろう。これを読んだ誰かが、今一度生と死について考えてくれたなら、これより嬉しいことはない。

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