「小さな勇者になって君を蝕む悪いヤツを倒しにいく」か「過去に戻って君を守る」....さて、どっちにしようか?

望之

第1話 前夜

7年前

たまたま立ち寄ったラーメン屋で僕たちは出会う。



ユニフォームのバンダナから見える、真っ青な髪が印象的な女の子。


青髪でも飲食店でバイトできるんだなぁと野暮な思いでラーメンを食べたのを今でもハッキリと覚えている。



さて

ここでまず

当時の僕の話をしよう。




名前はトモ。

販売業に従事する26歳。

勤めるのは東海地方を中心に数十店舗を展開する中堅チェーン店だ。



高校を卒業して8年。

長らく地元、関西の店舗で販売員をしていた。


この1年前には店長を任されるようになり、誰から見ても順風満帆に見えただろう。

実際、家族や周りの人達からは「若いのにすごいね」と言われることも度々あった。



それはそれで悪い気はしないものだが、そんな周囲とは裏腹に、どこか不完全燃焼というか。



「店長になる」という目標を叶えた今、

その次の目標が見つけられないでいた。



朝出勤し

お昼までに商品の発注。

午後からは納品の片付けにセール準備。


春夏秋冬、それの繰り返し。

終わる頃には日付が変わるなんて日も珍しく

ない。

移り変わる需要と供給の中で、もがき苦しむサラリーマン生活を送っていた頃だった。



そんな単調な日々を過ごしていたある日、

僕に県外への転勤辞令がでた。



オープンして1年、

売上に伸び悩む店舗への配属。



チェーン店に転勤は付き物である。

各店舗に数人いる社員は3年程度で全員入れ替わる。



余談だが

これは常連客と「不正な取引」を防ぐためといった話を聞いたことがある。

真意は定かではないが。


常連客にこっそり値引きをするという話はよく聞いたので、あながち間違いでもないのだろう。




そんなことはさておき

県外への転勤話は嬉しかった。



なぜなら

会社のルールでは

「引っ越しのない転勤」が一般的で、同じ地区内での配置替えを転勤と呼んでいた。


これなら引越しや家賃補助の経費もかからないし、悪しき取引の抑止にもなる。

会社にとって好都合だからだ。



だからこそ

「県外への転勤」が少しばかりの価値を持つ。

つまりは経費をかけてもいい社員の証なのである。



「お前の力で売上を上げてほしい」

という言葉にまんまと乗せられ、僕は2つ返事でオッケーをした。


ちょっとしたヒーローのような優越感と、初めての一人暮らしへのワクワク感。

(といっても隣県だが)




そしてなにより

「何かが変わるかもしれない」という思いが僕の背中を押していた。



その日の夜には家族に伝え

2週間後には引っ越しという超ハードスケジュール。


すでに家具家電付きのアパートを会社が用意しているので体一つで引っ越し完了。


引っ越し休暇は1日のみ。

隣県だから細かい荷物は休日に取りに帰れるでしょ?と言わんばかりの会社待遇である。



それでも僕は

会社に言われるがまま引継ぎを済ませ、簡易な送別会もしてもらい、26年住んだ地元から引っ越すことに。

それが夏の終わり。



少々、自分語りが長くなったが

いよいよここから僕たちの物語がはじまる。

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「小さな勇者になって君を蝕む悪いヤツを倒しにいく」か「過去に戻って君を守る」....さて、どっちにしようか? 望之 @tomo041669

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