本-4

「結果は言わずもがな。というやつだ」

 そう。今の話が本当なら、わたしが生きているこの世界はふたりが創った作品。

 根拠も証拠もない。あるのはふたりの紡いだ言葉だけだ。

 しかし、あのを見ているわたしはそれを否定しきることができない。いやむしろ、びっくりするほどすんなりと、それが真実だと受け止めてしまっている。

 もしかして――

 から?

「…じゃあ、偽物は、世界とわたし?」

 言葉にはしたくなかった。でも、確かめずにはいられなかった。

 わたしが感じた違和感はの正体は――

 わたし自身も違和感というだけだったから???

 …。

「ねぇ、さっきこそ本物って言ったでしょ?」

「勘違いしても仕方ないと思うが、あれにはお前も含まれてるぞ」

 …え、わたしも?

「あなたは子じゃない。わたしたちの元に子なの。多分あなた覚えてるんでしょう?わたしが初めてあなたに言った言葉も、この世界に産まれてくる前にどこにいたのかも」

 …うん。覚えている。

 水の流れが反響し合うような音と、暖かな闇に包まれたあの場所。そこから何かに呼ばれるかのように導かれた先にあった、眩しい光と冷たさに満ちた世界。不安も恐怖もなく、好奇心赴くままに周りを見渡すわたしを優しく抱きとめ、あの言葉をこんにちは。とかけてくれた母やん。わたしは確かに生まれていた。創られてなんかなかった。

「あと、補足をいれるが…」

 と、父やんが口を開く。

「さっきの言い方だと、この世界とお前は同い年17歳に聞こえるだろうが、正確にはお前が産まれたのは、この世界を創ってから三か月後だ」

 つまりは世界と一緒にわたしは創られた訳じゃない。そこはもはや疑う気はない。わたしは、ふたりのア―ゼンノア創作者による創作物ではなく、ふたりの両親の間で生まれ、そして産まれた赤ちゃんだった。それなら、母やんの中で生まれてから、この世界に産まれるまでに10か月はかかるはず…。

「じゃあ、わたしが母やんの中にいた頃は…」

「ああ。いた場所が場所だけに分かる事はなかったろうが、お前は既に生まれてたんだ。かつてのあの世界LoaDでな」

 わたしも、ふたりと同じ。

 この世界WonDerの人間じゃなかった。

「しかし、バレた以上は、お前に謝らないといけないこともあるな」

 父やんが畏まってわたしに向き合う。

「この世界は私たちが創り上げたもの。言うなれば虚構、偽物と表現されても仕方ない。それはお前が今まで送ってきた生活、接してきた人々にも当てはまる。この前、うちに遊びに来てくれていたあの仲のいい友人もそうだ。…すまない」

 …そうか。全てが創られたものなら、おのずとそうなるのか。

「だが服装の流行りのように、お前と仲良くするよう調をしたことは誓ってない。私たちはかれらとそれを形作るための、これまでにあったとされる歴史を創りはしたが、未来をどうするかは彼ら自身に任せるようにした。見苦しい言い訳かもしれないが、これだけは分かってほしい。お前自身にも、そしてお前が今まで生きてきた中で感じてきたもの、関わってきたもの全てにおいて、茶番は欠片一つとしてないんだ」

 その告白に、わたしはどう答えていいのか分からなかった。

 全てが偽物虚構であったことへの憤りのようなものも確かにあった。でも、父やんの言う通り、都合良い調整のない人々が未来を紡ぐこの創作世界WonDerと、本物と表現しているかつてあった世界LoaDと一体何が違うのか?と言われれば、わたしはそれを答えられない。その本物の世界だって、かもしれない。疑い出せばきりもない。

 では、決め手はやはり――

 信じるかどうか。

 そこに尽きるのだろう。

 …。

「わかった」

 わたしはただ、理解を示した。

 別に疑いが遺った訳じゃない。

 ふたりに対して意地悪をしたかった訳じゃない。

 ただ、あまりに物分かり良く信じるのは少し違うと、世界の真実を聞いた際にこの胸に宿ったちょっとしたモヤモヤを少しの間大切にしようと、そんなよく分からない結論に達したからだった。

 それを察してくれたのか。父やんは『そうか』とだけ言った。

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