本-1

 かつて存在した世界。そこは、道という意味を持つ名LoaDを冠した世界で、ここのように宇宙の中に浮かぶまるい世界ではなく、文字通り道のように一本に伸びる長い世界だった。極北にアンセス大陸と呼ばれた世界の起点はじまりがあり、極南には世界の先端おわりと呼ばれた場所があった。東西左右には果てしない海が広がり、その先には何があるのかは分からない。不思議と誰もそっちの方向には興味を抱かなかったんだ。私たちが生まれた時、既にその世界は終わった後だった。滅亡とかじゃない。世界は終わったという事実が、世界に生きる全ての人間に知らされていて、私たちもいつの間にかその事実を知っていた。世界の黄昏時。終わりに向かってただ時を進めるだけの世界を、人々はそう呼んでいた。私たちは生まれてすぐの頃から一緒にいた。お互い特別に惹かれあったというよりかは、ごく自然の成り行きという方が正しい。私たちが暮らしていた町にはもう私たちを含めても数人しか子どもがいなかったからだ。という行為があらゆる面で廃れつつあったことの証明のひとつさ。学校と呼べるところも一応あったが、子どもが少なすぎるので、学年もなく、教室はひとつだけ。他の子も先生も、形だけの授業を行っていただけだったが、私たちは勉強が、強いて言うなら何かを知ることにとても興味を抱いていた。本来なら、それこそが未来を生きる子どもの正しい姿に近かったのだろうがな。お前ぐらいの年齢になる頃には、学校だけでなく、町の図書館にあった全ての本をふたりで読破していたと思う。公共施設にはかろうじてインターネットの環境も残っていたから、それで知る事もできた。終了宣告によって、歴史書に記される意欲が失われてしまった、世界の終了に至る顛末をな。

 終わり世界の終末に至る全てのはじまりは、アンセス大陸と呼ばれる、さっき話した世界の起点のある場所に、当時の世界中の人々が一斉に興味を抱き始めたことだった。個人だけでなく、集団、組織、国家という枠組みでそれは起こり、奇妙な偶然の一致は後に、シンクロヴェルト世界的同時発生事態と呼ばれるようになった。急に興味を抱いたことでまず疑問に浮かべるべきは、なぜそれまで興味を抱かなかったのか?の点だが、記録を見るに、その点をとして唱える者は誰もいなかったそうだ。不自然なことだが、ともかく世界中の人間が、突如湧きあがった好奇心の元、その大陸へと進出した。過去に全大陸争乱史上最悪の外交行為を行った経験から、7つの主要国家の間で割とすんなりとした流れでフロンティという名の連合調査団が組まれ、各国出身の専門家で組織された0番調査団がアンセス大陸への進行を行った。

 その結果は、調査団全滅の知らせだった。上陸場所に異様な形で遺されていた遺留品から、アンセス大陸にはビヒモスと総称される原生生物が生息していることが判明した。生物というより怪物といった方が正しい恐ろしい存在だ。この世界では、虚構の中だけに留めておいた。しかし、人類側がそれで諦めることはなかった。さらに万全の準備を整え、再上陸を行い、今度はその怪物を討ち取ったんだ。さらにそこで慢心することはなく、遺留品の調査から、怪物が一匹や二匹ではないと把握していた調査団はその亡骸を回収し、攻略の糸口を掴むための調査を行った。すると、そこで発見したのは糸口だけではなかった。宝だ。ビヒモスは恐ろしき怪物であると同時に、富をもたらす恩恵でもあった。宝の正体はブルート。つまりはビヒモスの血だった。当時、枯渇が深刻化していた化石燃料を遥かに凌ぐ性質を持っていたことから、アンセス大陸進出と同時に、生体資源ブルートの確保も調査団内で専門部隊が組まれ大々的に行われた。俗にその進攻行為は、ブルートラッシュ。その中心にあった、生体資源捕充部隊はV’s(ヴイズ)と呼ばれていたらしい。そして、新資源発見も手伝い狂乱にも似た始大陸進出が進む最中で、ある噂が出回るようになった。

 

 根も葉もない、どこから湧いたのかも検討の付かないものだった。だが、これも不自然なことに、によればその噂を始大陸アンセス大陸にいた者の全てが信じ、疑いもしなかった。特にはその言葉に狂ったかのように憑りつかれ、世界の起点はじまりへと邁進したそうだ。またここに、あまりに意図的な大規模な共時性シンクロヴェルトが引き起こされたという訳だ。

 そう。意図的。全てがに仕組まれていたんだ。もしかしたら、その何者こそ神と呼んでいい唯一の存在だったのかもしれない。その事実をまず知らされたのは、さっき話した記録者の相棒だった。世界の起点はじまりにたどり着いたその相棒さんと記録者は、不自然な遺跡を発見した。それまでまったく人工物などなかったその大陸の最奥でだ。そのどれもが朽ち果てていたが残骸を見るに、まるで建物の中に一回り小さい建物があったかのようなが見てとれたそうだ。さらに奥の瓦礫の中には、本棚とそこに並ぶ書物らしき残骸もあり、比較的崩れてから間もない様子だったことから、その入れ子遺跡は段階を踏んで朽ちていったことになる。決められた周期があった訳だ。その遺跡の中心に、まだ形を保っていた祠のようなものがあった。

 その中にあったんだ。

 噂通り、その世界LoaDの真実がな。

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