序-2

「話があるの」

 いつもより遅い帰宅を訝しむ両親に向かってわたしは有無を言わせず放った。

 リビングにあるテーブルの奥側に両親を座らせ、わたしは向かいにひとり座る。

 本来この状況は、子どもが絶望的な赤点でも取ってこない限りはないだろう。

 おまけに今回は子どもの方がこの状況を用意している。

 それを察してか?『何か叱られそうね』と笑う母やん。対して、父やんはどこか落ちつきが無い様子で、わたしと玄関の方をチラチラと見やっている。まさかとは思うがー

「先に言っとくと、紹介したい人がいる訳じゃないから」

 それを聞くと父やんは、気にしてない風を装いながら、明らかに安堵の息を吐いた。『じゃあ、何があるの?』と少し残念そうな表情の母やんが促す。

 わたしは、前置きを置かずに本題を切り出した。

「ねえ、この世界って偽物なの?」

「…」

「…」

 黙り込んでしまう両親。

 無理もない。わたしが親になっても、こんなことを子どもが言い出したら、軽く一晩は頭を抱えるかもしれない。もう少し弾みをつけた言い方もできたのだろうけど、わたしが今まで感じてきたをひとつの言葉に集約し、打ち明けるのだとしたら、この言葉を置いて他になかったのだ。

 それの裏付けとなる手札は既に用意している。

 最初の言葉こんにちは

 昔尋ねてきた不思議な雰囲気のお客さん。

 父やんが時折口にしていた、この世界にはない国や大陸の名前。

 いつも同じ格好をしていたのに、急に服の趣味が変わった近所の人たち。

 社会科見学のお菓子工場で見た、何かをしているようで実は何もしていないようにしか見えなかった人たち。

 改めて見ても勘違いや記憶違いで済まされても仕方ない手札たち。

 しかし、は手に入れていた。

 今日のあの小路。あの先で見たあの光景。

 逸る気持ちを抑え、手札の切り方を考えていた矢先――

「バレちゃったわね」

「さすが、うちらの娘といったところか」

 ふたりはあっさりと認めてしまった。この世界の真実を。

 娘をからかってる訳でもなさそうだった。思わぬ返答に呆気にとられる私を尻目に両親は続ける。

「せっかく用意された席だ。ここで話すか?」

「そうね。はじめての第四宣言になるわね」

 第四?一体何の話?

「ねえ、この世界って一体いつ頃からあると思う?」

 戸惑うわたしに構わず質問してくる母やん。

 この世界?『この星に限って言うならば46億年のはずだけど?』と、わたしは教科書で学んだことを答える。

「ああ。そういえば、そんぐらいにしといたな」

 しといた?

「実はね…」

 少し間をおいて、母さんがそれを口にした。

「この世界は生まれてから、しかたってないの」

 世界は、わたしと同い年17歳だったのだ。

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