第三十三話 殺すとは

「お前……何言ってんだよ、さっきからよ……一緒に死のうだとか俺を殺せだとか……」


 翔悟はその場で両膝を付けて、両手で顔を隠した。

 そして……。


「俺にもわからねーんだよ……もう、俺にも俺がわからねーんだよ……俺はもうこんな世界嫌いだ、死にたい。でも、死なないんだよ……自分からじゃ……でも、俺はお前を殺したいんだ。お前だけこの先、幸せになるとかふざけてるだろ……だから、俺を殺してくれ……その後で良い。俺と一緒にここから落としてくれ……」と震えながら言った。


 その声から翔悟は今泣いていることがわかった。


「お前しかいないんだよ、もう俺を俺と見てくれる人は……」


 そう言うと翔悟は俺にカッターナイフを渡そうとする。


「え? ……」

「痛いのは嫌だからよ? 一発で頼むは……」


 こいつ、こいつは何を言ってんだよ……。


 そんは感情とは裏腹にとても気持ちが良かった。


 『これで、こいつは消える……』


 俺は翔悟からカッターを受け取った。


「それでいいんだよ。結局俺は死ぬのが正解だ。最後に一ついいことを教えてやるよ。玲はセックス中毒なんだぜ?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はカッターを翔悟の腹部を目掛けて振り落とした……しかし……。


 カタカタカタ……。


「何でだよ、何でだよ。何で、こいつを殺そうとしたら身体が止めんだよ──ッ!! うっ、うう……」


 気づけば俺の目からは大量の涙が流れた。


 止まれ、止まれ、止まれ……こんなやつ──ッ。


「やっぱり、お前は優しいよ」

「うるせぇ……」


 翔悟はスマホを取り出して、何かを漁り始めた。


 何してんだよ……こいつ。


 どう頑張っても、俺のカッターは奴の腹部まで届かない。


 そして、翔悟は俺に……。


『やっと起きたか……イき倒れやがってよ……』


 そこには二人の裸の……翔悟と玲が……。


「うっ……」


 俺はその場で嘔吐をした。


 耐えられない……こんなもの何度観ても耐えられない……。


『ご、ごめん……翔悟……?』

『ん?』

『私、翔悟とまだしたい……もっと私を壊して……』


「ぁああああああ!!」


 俺はカッターを投げて翔悟の首を絞めた。


「う……」

「死ね、死ね、死ね」


 消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ。


「消えろ……」

「……だよ、それでいいんだよ…………早く俺をこ……ろ……………せよ」


 徐々に俺は首を絞めるのを強くした。

 

『俺、翔悟』


『まじかよ、お前、玲さんと幼馴染!?』


『今度さ、三人で出かけね?』


『よかった……俺、優斗と同じ高校受かった……』


 何で今なんだよ……。


 その度に流れる翔悟との思い出。

 

「やめろ、やめろよ、何でこんな奴との思い出なんて今思い出すんだよ……」


 そっか……俺には……こいつとの思い出しかいい思い出無かったんだ……きっと。


 そう思うと俺は首を絞めるのをやめた。


「俺には無理だよ……お前を殺すなんてよ……」


 そうだ、もうこいつを俺が殺すなんて無理だ。

 こんなに仲の良かった親友を殺すなんてできっこない。


「ハァハァ……俺を、ころ、せ、よ……」

「無理に決まってるだろ……」


 殺したい、でも殺せない。

 目の前に殺す相手ならいるのに……。

 なんなんだよ、この気持ちは……。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

 俺は何度も地面に頭を打ちつけた。


「消えろ、消えろよ、こいつとの思い出なんて……」

 

 その突如、一人の少女がやって来た。

 そして、その少女は笑顔で。


「そんなに、殺せないなら私が殺すよ」




 








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