第二十二話(玲視点)

「しっかり、飲め……」


 気づけばあっという間だった。

 最初はただただ、早く終わってほしい。

 そんなことを思っていた……でも……違った。

 やっぱり、私……。


『止まって、私……』


 優斗じゃ無理みたい……。


『違う、優斗が──』


「ねぇ、翔悟……もう一度しない?」


 もう、あの快楽なしでは私は生きていけなさそうだ。


 翔悟はニヤッと笑いながら「ああ」と言った。


 

 とにかく私は翔悟とした。


 もうだめだ……私……。

 一度は優斗の為にと思ったけど……私には無理だった……。

 結局はこの快楽感という気持ちの方が大きく、そんな気持ちなんて一瞬にして踏み潰れていった。

 ほんとに、私って……なんなんだろう……。


「じゃぁ、ピルはしっかり飲んでおけよ……あとさ……やっぱり、お前ってだわ……」と笑いながら去っていった翔悟。


 ビッチか……。


 私はその場で両膝をつけた。


「ごめん……優斗………」


 気づけば目からは大量の涙が床に落ちた。


「ごめんね、夜空……。殴るって約束したのに……私にはできなかったよ……優斗……優斗……」


 もういっそう、このまま私という人間はいなくなった。

 このまま私が行ったって翔悟として、優斗に迷惑をかけるだけだ……なら……。


『そうだよ、消えちゃえ……』


 そう、心のどこからか聞こえた。


「なに……今の……」


 私は咄嗟に耳を塞いだ。


『消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ』



「やめて……」


『消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ』


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ」


 私はそう叫んで心の声を消した。


 やめて……やめてよ……。

 

 でも、全部自分が悪いんだ……。


『消えちゃえ』


「ごめん……優斗。一緒にキャンプ……行けないや……」


 そして、私はその場に倒れた──。



 私が初めて優斗と会ったのはいつだっけ? ……。

 たしか、年中の時だったけ……。

 

 12年前……。


 私は保育園に入っても友達を作らなかった。

 それは、別に友達なんていらなかったからだ。

 友達の価値なんてわからない。

 周りは楽しそうにしているけど自分の趣味に合わないのになんで友達なんて作るの?


 そんなことを思いながら毎日を過ごしていた。


 そんな、ある日だった──。


 私はいつものように一人でお絵描きをしていると、そこに……。


「うわ、きったねぇ絵だな!!」と一人の少年がやってきた。


 慌てて私は絵を隠した。


「なに?」と睨む私。

「お前、いっつも一人だよな……」

「それが?」

「一人で楽しいか? そんなきったねぇ絵描いててよ……」

「汚くない!! これは、虎さんの絵だから!!」

「ぷ、これが虎!!」と笑う少年。

「なによ!!」

「いや……やっぱり、お前面白いわ……。こうやって一人で居てもお前の面白さに誰も気づけないし……俺が友達になってやるよ!」


 そう照れ臭そうに少年は手を伸ばしたが──。


「なにが友達よ、私は一人でいいもん!!」とそっぱを向いた。


 でも……。


「はは、ははは」


 気づけば笑っていた。


 もちろん、隣で少年も……。


 この感情は今までに味わったことがない感情だった。

 

「ねぇ、私。玲って言うの……」

「俺は優斗。玲と同じ一人です……」

「なにそれ……」

「「はははは」」


 部屋中にその声が響き渡った。


 これが、優斗との初めての出会いだった──。


『ごめんね、優斗……もうこれしか覚えてないや……』



「玲──ッ!!」と勢いよくドアを開けた優斗。


 外は土砂降りで優斗の身体はひどく濡れていた。


「やっと来たか……優斗……」とそこには翔悟がいた。



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