第六話

 今日は優斗くんとのデート当日だ。


「ーーって、私こんな何期待してるの!?」


 気づけば、鏡の前で服装をいつも以上に気にしている自分がいた。


 だめだめ、今日はデートなんかじゃない。

 ただ、ペンギン好きだからという理由があるから一緒に出かけるだけだ。


 私は身だしなみをしっかりしてから、約束の場所である駅前に向かった。


 駅前に着くと、すでに優斗くんがいた。


「お待たせ! 待ったぁ?」

「いや、待ってないよ。ピッタしに来るとは思わなくて少し驚いたけど……」


 どうやら、私は10時ピッタしに来たらしい。

 

 は、恥ずかしい……。


「じゃぁ、行くか!」

「うん!」と私はニコッとしながら言った。


 静浜水族館に着き、チケット売り場で。


「チケット代ぐらい俺が払うよ……」と優斗くんは私の分のチケットを買ってくれた。


 ほんと、優斗くんは優しいなぁ……玲さんは幸せ者だ。


 この水族館には何度も来たことがある。

 チケットはいつも、捨てていたがこのチケットだけは取っておこうと思った。


「はい、チケット……」と優斗くんは私にチケットを一枚渡す。

 

 私はそのチケットを見ると、【カップル】と右上に書かれていた。


「カップル?」

「ぁあー、気にするならごめんよ……。こっちの方が安かったからさ……」

「うんうん、別に……」


 う、嬉しい……。

 このチケットの期間が切れるまでの間は私たちはカップルってことだよね……。


 そう思うと、胸の鼓動が高鳴る。


「はい、チケット拝見ありがとうございます!!」


 私たちは無事に、水族館の中へと入場することが出来た。


 まだ、ペンギンと触れ合うまで時間があるため、私たちは水族館をぐるっと一周回ることにした。


「うわぁあ、これなんていう魚なんだろぉ〜」と私は魚たちに夢中になっていた。


 そんな中、優斗くんは少し寂しそうな顔をしていた。


 どうしたんだろう……。


「大丈夫ですか?」と私はつい、心配して聞いてしまった。

「ん、何が?」

「いや、どこか寂しそうな顔をしていたので……」

「ん? そうか。心配ありがとよ」


 私の気のせいか……よかった。

 優斗くんが寂しそうな顔をすると私まで寂しくなってしまう。

 

「うん!」と私は笑顔で言う。


 だから、優斗くんはずっーと笑顔でいてほしい。


 そして、時間が来たため私たちはペンギンの触れ合いコーナーへと足を運んだ。

 ペンギンたちと触れ合ったのは人生初だったため、とても夢中になれた。

 優斗くんと手が当たったし、いいことだらけだ。


 その後はレストランへ行き、「ジンベエザ麺」というラーメンを食べた。

 優斗くんと同じ食べ物を同じ場所で食べた。

 ぁあー、幸せだった。

 もう、今日死んでもおかしくないほどに幸せだ。

 まただ……これ以上、優斗くんのことを好きになっちゃぁいけないのに……。


 その後、もう一度私たちは水族館を回ることにした。


「ねぇねぇ、あの魚可愛い!」

「あー、ダンゴウオだって」


 オレンジ色で少し小さなフグのような生き物で私にドストライクだ。

 

「可愛い……」


 優斗さんはやはり、何かを悩んでいるように見えた。

 先程の寂しそうな顔も私の見間違いじゃないのだろうか……。


 私は優斗くんの方を振り向くと優斗くんが近くにいた。


「可愛いね」


 次の瞬間、私の唇に柔らかい何かが当たった。

 この感覚は中学2年生の頃に味わったことのある感覚だった。

 そう、キスだ。


「俺と……付き合ってください……」


 ぁあー、やっぱり優斗も元カレあいつと同じだ……。

 

 私はパシンと優斗の頬を叩く。


 そのまま、私は優斗から逃げるために駅に向かって走った。


 唇からキスの感覚が無くならない。

 こんな感覚初めてだ。

 元カレとした時もこんな感覚になったことがない。

 嫌いになんか、なれないよ……優斗……やっぱり、私は優斗が好きだ。

 この気持ちだけはなくならない。


 私は電車が来るまで駅のベンチに座って待つことにした。


 何故か、心臓はバクバクと鼓動が増すばかり。

 なんだろう……この気持ち……。

 嫌いなのに好き。

 そんな、矛盾した気持ちが頭をよぎる。


「なんだろ……この気持ちは……」


 すると、そこに。


「あのさ……夜空……」と息を切らせながら優斗が来た。


 そして、こちらに近づいてきた。


 やめてよ……もっと、好きになっちゃうよ……。


「俺さ……」

「さっきのはダメだよ……」

「お、おう」

「私付き合ってるわけでも無いんだしさ……しかも、優斗は玲さんと付き合ってるじゃん……」


 そうだよ……私と優斗は付き合ってもない……ましてや、優斗にはじゃまものがいる。

 

 気づけば、私の目からは大粒の涙が垂れる。


 あれ? なんで私泣いてるんだろ……。


「でも……さっき、キスされて『付き合ってください』って言われた時、すごく嬉しかった……」


 勝手に口が……。

 

「私っておかしいよね……」


 きっと、私は中学2年生の頃に壊れてしまったんだ……。


「でも…………」

「俺さ……ひとつお前に隠してた事があるんだ……俺さ、実はさ……夜空と仲良くなったのは復讐のためなんだ……、俺にはさ幼馴染の玲と親友の翔吾がいるだろ? ……俺さ、ある時見ちゃったんだよ……玲と翔吾がヤってるところ……それ見た時にさ、俺は必ず復讐してやるって思ってよ……その結果、お前と仲良くなって付き合って復讐してやるって思ったんだよ……俺って最低なやつだよな……結局、あいつらとやってること同じじゃんか……」


 意味がわからなかった。

 玲さんと翔吾…………。

 だって、玲さんは優斗の彼女だから……。

 そして、私と付き合うことで復讐?

 結局は私は道具だったのか……。


「でもさ、気がつくと俺は夜空のことが好きになっててさ……」


 その言葉を聞いた瞬間に、私の目からは涙が出そうになったためグッと耐える。


「だから、俺と付き合ってください……」


 その言葉に耐えきれず、私の目からは大粒の涙が垂れた。


 嬉しい……。

 道具でもいい。

 ずっと、そばにいてほしい。


「ずるいよ……そんな、ダサい告白……復讐の道具かぁ……変だなぁ……ずっと、友達として見てた人に復讐の道具として見られてたのに……"はい"……」


 ぁあー、きっとこれで良いのだろう。

 私は復讐の道具として見られていた。

 でも、それはきっと私もそんな感じに思ってたことだ。

 私も中学2年生の頃のトラウマを克服するための道具に、優斗を使っていたに過ぎなかったのだ。

 

「それで、復讐は?」

「もう、いいや……だって、俺は夜空を復讐の道具として使うんだぞ?」


 別に、そのくらい気にしない。

 むしろ、最後まで私を使ってほしい。


「うんうん、いいよ……」

「いや、でも……」

「だって、彼氏が困ってるんだもん……体でもなんでも使っていいよ……」

「………」

「でもさ……優斗は元カレふたりみたいにならないってことを約束できる?」

「約束どころか、当然のことだろ……」


 私と優斗はハハハッと笑った。

 

 最高の時間だった。


「じゃぁ、とりあえず、玲に話をつけようか……」


 そうだよ……私は壊れてなんかいなかった……ただ、私を一人にしないでほしかったに過ぎなかったのかもしれない。

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